焼き肉レストラン店舗運営の実状 「太昌園」(上野) 朝4時までの三交代
昭和39年のオープン。上野・仲町通りの横路を入ったところ。地域一番店といってもいい繁盛店で、平均日商一六〇万円の実績を上げている。地上二階建ての店舗で、客席数は一、二階合わせて一八〇席という大型店。
この店は太昌園の本店で、同じ地域に個室オンリーの別館(パートⅡ)がある。店はこれだけではない。上野本店およびパートⅡに加えては、上野駅前店、赤坂店、新小岩店、前橋店、新潟店の五店舗を直営出店しており、チェーン化を進めている。
このほか、焼肉レストラン以外にも飲食ビジネスを展開しており、居酒屋、カラオケ道場、ライブハウス、バーなどをチェーン化している。経営母体は㈱大和寿商事(東京・上野)で、これら飲食ビジネス全体の売上げは四〇億円に達しており、毎年順調な売上げ増をみせている。
「焼肉分野においては、店によってはバブルがハジケた影響で、一五~二〇%落ち込んだところもありますが、全般的にみれば焼肉ニーズは強く、業績の伸びは順調に推移しています。けど、私どもはカラオケ道場を六店舗ほど出店しているんですけど、この業界は競争が激しく、古いタイプの施設は利用されなくなってきている面もあり、正直いって苦戦を強いられています。
つまり、バーやスナックなど多人数利用の形態で、マイクの回転の悪い店は客が離れていくといった傾向でして、いまはグループ単位の利用形態でなくてははやらない。要するに個室タイプの施設がトレンドになってきているということなんです」(大和寿商事専務取締役・長岡信裕氏)。
同社のカラオケ施設は、「のど自慢道場ロイヤル館」という名で展開しているのであるが、ここにきて五〇%もの業績ダウンという施設も出てきているので、近い将来、これを改装して新スタイルの焼肉レストランをオープンする計画を検討している。
長岡専務は、マクドナルドチェーンに在籍した経験もあるまだ二〇代の二世経営者であるが、焼肉業界への新規参入の余地はまだ十分にあるとみている。ただし、メニューの企画と店舗オペレーションをしっかりと煮詰めて展開しないと、成功しないという。
「たしかに、特色のない一般的な焼肉レストランばかりで、今の焼肉業界は魅力に欠けるという気がします。私の考えは思い切ってメニューを絞り込んだ業態にするか、逆にメニューを多く取り込んで韓国料理の総合的なレストランにするか、どちらかでなければ、これからの飲食ニーズには対応できないという気がするのです」(長岡専務)。
何をやるかはほぼ決めている。アイディアとしては「焼肉」と「しゃぶしゃぶ」を組み合わせたもの、つまり、この二つの料理形態をワンセットにしたものである。業態とメニュー開発の考え方には、和食と韓国料理の折中であったり、西洋、中国料理など他の分野との相乗りであったりと、いろいろと考えられる。もちろん、何を売りものにするか、特色を出す必要はあるのであるが、焼肉レストラン業界も二世経営の時代になってきた。自由な発想で、ビジネスチャンスを創り出すことができるのである。
太昌園も在日の一世が築いたストックを基盤に、自由な発想でチャレンジできる状況になってきたということであるが、単に感覚的な考えだけではなく、ウラ付けのあるマーケティングやマーチャンダイジングも大事になってくる。
もちろん、それによって焼肉にとらわれず業容の拡大も可能になるわけであるが、しかし、肉に対する日本人のニーズの強さという視点でみると焼肉はまだまだ大きな可能性を秘めているとみている。
太昌園上野本店は午前11時から翌朝の4時まで、三交替での営業である。上野そのものが大きな集客力をもつ地域でもあるので、それだけ人が店に流れ込んでくるということもいえる。やはり、立地のよさは絶大な強味を発揮するのである。
原価率は平均四〇%以下におさえる努力をしているが、材料によってはこの数字をはるかに上回るものもある。人件費二四~二五%、他に光熱費(七~八%)などを加えると、トータルコストは七〇%強にもなる。荒利三〇%前後。決して大きく儲かるという業態ではない。
「料理形態が単純だし、しかもセルフサービスの形態であるので、傍目には儲かる業態という印象を与えるのかも知れませんが、実際には大変に手間ひまのかかるレストラン業ですし、そううま味のあるビジネスともいえないのです」(長岡専務)。
食材の仕入れは、入札による取引き業者一〇社を通じておこなっているが、肉材については部位によっては最上級の松阪牛を使っているのをはじめ、上質の輸入肉などの活用もおこなっている。
メニュー数は七〇アイテム、メインディッシュの肉は四、五種で、人気メニューはカルビー九〇〇円、上カルビー一八五〇円、極上カルビー二八〇〇円、特選松阪牛ロース二八〇〇円、タン塩一六〇〇円など、客単価はランチ九〇〇円、ディナー四五〇〇円。