帰ってきたカレーパン 斬新競う新鋭店、伝統生かす老舗
カレーといえば、明治27年創業の新宿「中村屋」。ここのカレーパンは老舗ならではの普遍的なもの。また、創業明治7年の銀座「木村屋」は、「あんパン」の発明で有名だが、昔ながらのカレーパンも人気だ。これらは全国展開しており、入手は容易である。
ここにレストランブランドを背景に殴り込みをかけてきた新興勢力がある。「キハチ」と「クイーン・アリス」だ。
まずは、今年3月にオープンした池袋東武の「キハチ・フライドブレッド」。東武百貨店によると「ピーク時で約一〇〇人の行列ができ、常時二〇~三〇人の行列が絶えない」(総務部広報担当)との盛況ぶり。
人気は「スーパーカレー香りマサラ」(二〇〇円)。揚げパンの専門店であるが、やっぱりカレーパンがダントツ人気だ。
クイーン・アリスは、晴海トリトン内の「アリス・コレクション」でカレーパンを販売している。パティスリー&ベーカリー・クイーン・アリスの勝どき工場で作り立てを一個一五〇円で提供し大人気だ。このカレーパンは町田の「クイーン・アリス・カフェ」でも味わえる。
これらの現象をどうとらえたらいいのだろうか。
現在、プリンやシュークリームなどデザートの流行や和食ニューウエーブの流行で顕著なように、定番商品に新しさや時代性を加えたものに人気が出ている。
後者の二店舗は、カレーパンの定番性に“キハチ”や“クイーン・アリス”というブランド性が加味されている。定番商品に付加価値をつけることで、新たな可能性を見出したのだ。
◆“カレーパン”のルーツを訪ねて
東京は江東区森下、明治10年創業の老舗ベーカリー「カトレア」は、カレーパン発祥の店だ。
カレーパン誕生のきっかけは大正12年の関東大震災。当時、カトレアは、「名花堂」というパンの名店だったが、震災で焼失。復興のため考案されたのがカレーパンだった。大正時代の三大洋食とされた「ライスカレー」「カツレツ」(トンカツ)、「コロッケ」をヒントに、パンの中にカレーを入れ、カツレツのようにパンに衣をまぶし、油で揚げたのである。
「洋食パン」として売り出されたカレーパンは、ハイカラなイメージで発売当初から大ヒット。また、米騒動(大正7年)によるパン人気の高まりや、簡便食としてパンが重宝されたことも、人気に拍車をかけた。
昭和2年、この洋食パンは、『本案ハ内部ニ適宜ノ洋食ヲ挿入セル麺麭【パンの意】ノ表面ニ洋食「カツレツ」ノ皮膚ト同様ニ牛乳、小麦粉、鶏卵、麺麭粉【パン粉】等ヨリ成ル油揚皮膚ヲ塗着シタルモノニシテ(中略)芯ノ洋食ト共ニ主食トシテ好適スル…』として実用新案岱824号を獲得している。
現在は、「元祖カレーパン」(一三〇円)として販売。一日六〇〇~八〇〇個は売れるという。
インドで生まれ、西洋で洗練されたカレーという食文化が、東京の下町で新たな装いを施されてカレーパンとして生まれ変わったのである。
◆「カトレア」=東京都江東区森下一‐六‐一〇、電話03・3635・1464
老舗ながらも斬新なアイデアを打ち出す例もある。銀座「資生堂パーラー銀座8丁目ショップ」は、昨年「かわいい銀座のカレーパン」(五個入り六〇〇円)という小ぶりのカレーパンを発売。発売当初は口コミやインターネットを通じてうわさが広まり、幅広い層の女性に人気を集めた。ここのカレーは昭和3年の創業以来の伝統。カレーパンは、そのカレーソースをベースとするキーマカレーを、薄くしたピザ生地で包んで揚げたものだ。
「カレーはこげる直前まで煮詰めているので濃厚な味わい。パンはピザ生地。普通のカレーパンとは違うカレーの味を堪能してもらいたい」(同店広報)という。
レストランからの観点でカレーパンを人気商品に育てた店もある。
壺焼きカレーが人気の「ビストロ喜楽亭」。ここのお台場店は、カレーパンが行列を作るとして有名。一度に揚げる個数が決まっているため、一人四つ(五〇〇円)までの限定販売。大人気ですぐ売り切れる。カレーを簡単にテークアウトできるように開発されたものだという。
千駄ヶ谷の「ブルトン」はフレンチレストラン。ここはベーカリーが併設されており、サンドイッチやペストリー類に並んでカレーパンが人気を誇る。カレーパンの風味は欧風カレーで、そこでも一流フレンチとしての誇りを保っている。カレーパンでレストラン人気もうなぎのぼりという。
◆町おこしパンは福神漬け入り
神奈川県横須賀市がカレーの街を宣言し、「よこすか海軍カレー」と名付けられたカレー製品を目にする機会が多くなった。そんな町おこしカレーにもやはりカレーパンは登場する。横須賀市内では、「パンの木」「ぱんプキン」「はまだぶんてん」の三店舗がしのぎを削っている。
この三店舗のカレーパンに共通するのは「福神漬けがパンの中に入っている」こと。カレーで町おこしをと考えた「カレーの街よこすか推進委員会」(商工会議所)が、パンの木に話を持ち込んで商品開発がスタートし、店主が福神漬けを入れるカレーパンを作り上げた。これを海軍基地近隣にある店主弟の店、ぱんプキンに伝えたのである。
このカレーパンが基礎となり、横須賀独自のカレーパンへと発展した。
製パンメーカーでは三社が販売し、業界大手の山崎製パンが「よこすか海軍カレーパン」を全国的に販売しているが、こちらには福神漬けは入っていない。
「パンの木・久里浜店」=神奈川県横須賀市久里浜四‐七‐九、電話0468・35・5144、ほか二店舗
「ぱんプキン」=神奈川県横須賀市汐入町二‐四〇、電話0468・23・1133
「はまだぶんてん」=神奈川県横須賀市浦賀町四‐六、電話0468・41・0046
◆老舗・新鋭カレーパンの人気店・繁盛店
「新宿・中村屋」=東京都新宿区新宿三‐二六‐一三、電話03・3352・6161
「銀座木村屋」=東京都中央区銀座四‐五‐七、電話03・3561・0091
「キハチ・フライドブレッド」=東京都豊島区西池袋一‐一、東武百貨店池袋店プラザ館地下一階、電話03・3981・2211(大代表)
「アリス・コレクション」=東京都中央区晴海一‐八‐一六、晴海トリトン内
「資生堂パーラー銀座8丁目ショップ」=東京都中央区銀座八‐八‐五、電話03・3572・2147
「ビストロ喜楽亭・お台場店」=東京都江東区青海パレットタウンヴィーナスフォート三階、電話03・3599・2317
「ブルトン」=東京都渋谷区千駄ヶ谷二‐三三‐八、電話03・5775・3455