飲食店成功の知恵(3)開店編 飲食業にはどんな人が向く
この連載の最初で書いたように、飲食業に携わる人にまず求められるのは、お客を愛する気持ちを素直に持つことである。人に尽くすことが仕事、すなわちサービス業ということだ。お客の喜びを自分の喜び‐生き甲斐にするためには、何をおいてもお客を愛する心がなければいけない。したがって、ここで自信が持てないようなら、飲食店経営は潔く諦めた方がいい。もちろん、現在数ある飲食店の経営者が全員、こういう気持ちを持っているわけではないが、私は、とくにこれからの時代に飲食業で成功するためには、最も大切な条件であると考えている。
と同時に、飲食業という仕事そのものが、本心から好きになれなければ、やはりやめておいた方がいい。なぜなら、小規模個店においては経営者が、主力労働力だからである。
飲食店の仕事というのは、端から見ているとなんとなく楽そうで、これくらいなら自分にでもできる、と思われがちだが、実際はそんなことはない。仕込みから後片づけまで労働時間が長く、かなりの肉体労働だ。しかも、皆が遊んでいる時に働いていなくてはならない。短期間のアルバイトならともかく、生業として(いずれは企業化するにしてもとりあえずは)長く続けていくには、本当にこの仕事を好きでないと、とてももたない。
また、重労働ということばかりでなく、長い間地道な努力ができるような性格であることが望ましい。商売は“アキナイ”ともよくいうが、やはり飽きっぽい人には向かないのだ。
お客を愛する気持ちが持て、この仕事を本当に好きになれ、しかも地道な努力ができること。この三つの条件だけ揃えば誰でも成功できる、とまではいわないが、成功の前提としては絶対にはずせない。
ただし、飲食業は決して“天職”ではない。なかにはそういう人もいるが、本人の努力でカバーできることも事実なのだ。このことはあえて、ひと言付け足しておきたい。確かに向き、不向きはあるが、特殊な能力を要求されるわけではないのである。基本の三条件の一つ「地道な努力」には、そういう意味も含まれている。
要するに「好きこそものの上手なれ」のわけだが、確実に成功を収めるための適性というのは、まだ他にもある。それを一応列挙しておこう。
一つは性格が明るいことだ。外向性の人柄といおうか。お客に楽しさを提供するには、まず自分が楽しくなれなければダメだ。店主が陰気では、お客も従業員も暗くなってしまう。また、不特定多数のお客と分けへだてなく接することのできる、社交性も求められる。
次に挙げられるのは、創造性である。飲食店過当競争の時代に、わざわざ自店を選んでもらうためには、それなりの個性が不可欠だ。そして、その個性とは、これまでの他の店にない魅力のことである。したがって、新しい独自の楽しさを見つけ出し、店の売り物に仕立て上げる能力が要求される。昔はこんなことは関係なかった、と思う人もいるかもしれないが、よく検証してみれば、いつの時代も創造性のある店が大きな繁盛を勝ち取っているのである。
また、計数管理能力も必要である。諸経費が高騰しているいま、昔のようなザル式の金銭感覚では利益など生み出せない。
そして、人を上手に使う能力である。いかに効率よく働いてもらうか、いかに長期間店を愛してもらうか‐‐人手不足の時代、これは重大なテーマとして浮上しているが、要は“経営者”としての人格を問われているのだ、といってもさしつかえないだろう。
フードサービスコンサルタントグループ
チーフコンサルタント 宇井 義行