トップインタビュー:subLime・花光雅丸代表取締役

2009.12.07 366号 16面

 ○初期投資早期回収に徹す 原価率100%の目玉商品

 24歳で起業し、わずか3年半で20店まで拡大させ外食業界でも注目を集めているのが、(株)subLimeの花光雅丸社長だ。学生時代から飲食業界での成功を目指し、さまざまなアルバイトを経験するなかで見いだしたスキームが「初期投資を最小限に抑えて収益性を最大限に高める」という経営の原理原則だ。店舗を増やすにしたがって、ますます好循環が加速していく。このロジックが単なる儲け主義ではないことは、一読すれば理解していただけるだろう。堅実さと思い切りの良さを併せ持つホープの手腕には、個人店からチェーン店まで参考にすべきことが多い。

 ◆屋台から3年半で20店舗

 –わずか3年半で20店舗にまで広げていますが、subLimeの原点となる1号店は屋台ですね。

 花光 はい、全部自分で作って。初期投資に100万円もかかってません。1ヵ月かかりませんでしたね。回収するのに。

 –やはり、最初は資金のないところからスタートだったんですか。

 花光 単純に「初期投資の早期回収」という原理原則に則って考えると、屋台がもっとも効率が良かったのです。外食産業は「箱ものビジネス」という面が強いですよね。初期投資にお金がかかって利益率が低い。本当にそうしなければいけないのかな、と。初期投資を抑えて利益率を高めることが普通になれば、外食産業はもっと変わると思っています。

 –「初期投資の早期回収」という考え方は、他の店舗でも同じなんですか。

 花光 もちろんです。ここに徹していることが当社の強みです。初期投資分をどれだけ早く回収できるか。店を出す基準はそれだけですし、その仕組みづくりをどんどんブラッシュアップさせています。今では居抜きであれば、初期投資額=月商になるようなスキームを確立しました。そうすると、税金で半分搾取されることを含めても1年以内で初期投資の回収ができます。例えば、つつじヶ丘に作った「串揚屋」はすごいですよ。総投資額450万円で月商が900万円ですから。1ヵ月半で回収です。

 –初期投資を抑えるという発想ですと、チープで貧相な内装になりがちです。でも、subLimeの店はどれもセンスが良いと感じます。

 花光 店舗の設計施工も自分たちでやっています。内装会社(株)subLime designを別に作っていますので、外注するより3分の2以下のコストに抑えられます。

 –「初期投資の早期回収」という考えは誰もが持っていると思いますが、ここまで徹底できている会社は珍しいと思います。

 花光 いかに早く儲けて、投下資本を回収して、お客さまと従業員に還元するか。これが大切なことです。

 ◆思い切りよく赤字も覚悟

 –花光社長にとって「お客を呼ぶメニュー、料理」とはどんなものでしょうか。

 花光 これを出せば絶対売れる、儲かるなんてメニューはないですよ。そんな単純なものじゃない。

 –産地直送の鮮魚ですとか、契約農家の野菜ですとか、食材にはこだわっていますよね。

 花光 魚は沼津で捕れたものが水揚げした翌日には店に出ますし、野菜は長野の契約農家から収穫翌日に届いてきます。でもね、良いものを出すのは当たり前だと思ってます。

 –良い食材を使って、おいしい料理を出す。それに尽きますか。

 花光 あとは「思い切りの良さ」ですね。お客さまを呼べる商品は赤字覚悟。エビスビールのジョッキが390円で飲めるんです。料理だって原価率100%の商品を出すこともあります。本気で生き残っていくつもりなら、どこか狂ってるくらい目立たないと。このような施策も、初期投資を早く回収して、利益を確保しているからこそできるんです。しかし上には上がいます。もっとブラッシュアップしていかないと。

 ◆ブレない負けないが信条

 –今の外食市場をどのようにお考えですか。

 花光 今は不景気だとか、内食にシフトしているとか言われていますが、外食産業自体は実はそこまで景気に左右される産業じゃないと僕は思っているんです。この不景気で売上げ10%ダウンなんていうとニュースになりますけど、外食全体で見ると実際はほんの数%しか落ちてない。伸びているところは不景気でも伸びているんです。自然淘汰なんです。とは言っても、今後は人口減によるマーケットボリュームの縮小はありますが……。

 –悪いところは単純に努力が足りない。

 花光 努力が足りない。もっと言えば、正確な的に当てるための努力が足りない。景気うんぬん以前に、時代の必然で自然淘汰が進んでいっているだけです。10席の店で景気なんて関係ないですよ。

 –では、自然淘汰の波に沈まないためにはどうすれば良いのでしょう。

 花光 僕は純粋に負けるのが嫌なんです。他人との勝負という意味ではありません。「他人に負けてもいいや、権力に屈してもいいや」って思う「自分」に負けるのが嫌なんです。自分で立てた目標だけは絶対にゆずりたくないですし、努力してできることは何でもやりたい。時間は平等に過ぎていくだけなんで、その中でよりパフォーマンスを発揮できる密度のある時間を過ごしたいんです。人生のすべてにおいて。

 –ロジックだけではないのですね。

 花光 それと、いかに一つのことに集中投下ができるか、成果を出せるまでブレずに続けられるかが大事。一番下に社長の僕がいて、その上に社員がいて、その上にお客さまがいるというように、組織構造というのは逆三角形のヒエラルキーなんです。決して逆ではありません。僕が1ミリブレただけで、遠心力がはたらき社員は大きくブレてしまいお客さまは振り回されてしまう。バランスを崩し倒れてしまいかねない。そのイメージができれば、戦略がブレないことの重要性がわかると思います。

 ◆1000億円企業目指す

 –今後の目標・展望について教えてください。

 花光 22年後に連結で1000億円の企業を目指しています。「初期投資の早期回収」という仕組みを確立させましたから、あとはこれに従って、やり続けていくだけです。

 –郊外中心の出店が多いですが、今後もその方向性は変わりませんか。

 花光 絶対郊外です。ただし業態力がないうちは、という条件つきで。これは確率の問題です。都心で何百店も競合がひしめき合う中で勝つのと、町中の商店街で勝つのとでは、勝てる確率が違ってくる。リスクとリターンの相関性は一般的には表裏一体なんですが、うちがやるのは「ローリスク・ミドルリターン」のモデル。つまり「最小限の投資で最大限の効果を生む」というビジネスモデルなんです。

 –今は業態力をつけている途中ということですか。

 花光 業態力は、言い換えれば説得力・安心感ということ。僕の中では単一業態で50店舗あれば、まあ業態力があるといえるかな、という風に感じています。すごく定性的ですが。業態力というのはブラッシュアップして突き詰めていくことで出来上がっていくものだと考えています。

 –そこまで確立させれば、競合ひしめく都心でもリスクを抱えず勝負できる、と。

 花光 そういうことです。郊外路面で単一業態を30店舗出せれば、都心のビルインも効くようになる。となると郊外のビルインも視野に入るわけです。誰も開拓したこともないブルーオーシャンを目指して結果を残し続けます。

 ●はなみつ・まさまろ=1981年和歌山県出身。青山学院大学在学中から経営者になることを目標にさまざまなアルバイトを経験し、在学中に事業資金1000万円を貯金。大学卒業後の夏には、故郷和歌山の海水浴場で屋台バーを夏季限定で経営する。経営者の目標を外食産業にしぼり、当時躍進中だった「牛角」を経営する(株)レインズインターナショナルに入社、翌年には1号店となる「subLime吉祥寺本町店」オープンのため独立する。

 ●企業メモ

 (株)subLime(本社所在地=東京都新宿区高田馬場1-17-16、中村ビル3F)設立=2006年6月/資本金=2200万円/従業員数=正社員20人/店舗=20店舗(2009年10月現在)/公式サイト=http://www.32lime.com/

 ●事業内容

 吉祥寺の屋台「subLime吉祥寺本町店」から飲食事業をスタートさせ、わずか3年半足らずで20店舗まで拡大。3坪の屋台から50坪の居酒屋まで多様な業態を展開する。初期投資を徹底して抑えるノウハウを構築し、高収益の店を次々と展開する。かかわるすべての人が笑顔になる企業づくり、「ALL WIN」を理念とする。内装デザインを行う(株)subLime designをグループ会社に持つ。

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