クローズアップ現在:今求められている「隠れ家レストラン」 ほどよい非日常感の演出

2025.01.06 551号 15面
24年12月、麻布十番商店街にオープンした「三笠会館 TEPPANYAKI 大和 麻布十番店」は“麻布十番の隠れ家、大人のための空間”のイメージ。和牛や魚介、季節の野菜の鉄板焼きが楽しめる

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24年11月、東京・六本木ミッドタウン前にオープンした「坐離宮(ざりきゅう)」は、福岡から東京に初進出した“大人の隠れ家”をうたう店舗。名物の鍋料理はスタッフがすべて取り分けるなど、フルサービスを提供

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東京・表参道の古民家フレンチ「表参道 HYENE」(旧店名「表参道 RESTAURANT HYENE」)はレトロなバス停オブジェを店の目印にして看板を設けず、路地裏の隠れ家を演出。タイムスリップしたかのような非日常的な異空間が魅力だ。(写真は21年オープン当時のもの)

東京・表参道の古民家フレンチ「表参道 HYENE」(旧店名「表参道 RESTAURANT HYENE」)はレトロなバス停オブジェを店の目印にして看板を設けず、路地裏の隠れ家を演出。タイムスリップしたかのような非日常的な異空間が魅力だ。(写真は21年オープン当時のもの)

東京・六本木の「Provision」は完全会員制・紹介制のフレンチレストラン。サブスクリプション制(定額制)を導入した新しいタイプの店舗で、会員を含めて同行者4人分の飲食代を月額会費で賄うことができる。特別感、エンタメ性、客層の安心感という点においては有効なシステムだ

東京・六本木の「Provision」は完全会員制・紹介制のフレンチレストラン。サブスクリプション制(定額制)を導入した新しいタイプの店舗で、会員を含めて同行者4人分の飲食代を月額会費で賄うことができる。特別感、エンタメ性、客層の安心感という点においては有効なシステムだ

 「隠れ家風」飲食店は昔からある。住所非公開だとか、メディア出演一切お断りなど店の情報を知らせない店だ。「ご縁」のある人だけが客として迎えられる。しかし今はそれだけではなく、メディア出演可能だが目立たない場所にある店や会員しか入店できない店なども「隠れ家風」な店として人気となっている。利便性が求められる現代社会において、ある種の不便が伴う店をあえて求める消費者心理は何なのだろうか。自分だけが知っている優越感なのか、発見したときのワクワク感からか。ほかにはどんな人気要因があるのだろうか。

 ●隠れ家レストランとは何か

 隠れ家レストランと聞くと、人目につきにくく、知る人ぞ知る店というイメージだが、近年そのカテゴリーは広い。まずは完全に「知る人しかわからない」を貫く“真っ当な”隠れ家レストランだ。住所・連絡先が非公開、紹介制や会員制のため知っている人しか予約ができない。次に、住所は公開しているがわかりにくい場所でひっそりと営業していたり、店の前に看板がないなど店に入ることに躊躇してしまう隠れ家風。そのほか、夜中の数時間だけの営業だとか、週末のみの営業といった限られた時間帯でしか店を訪問できなくしている店なども現代の「隠れ家風の店」といえるだろう。

 都内で3店舗運営しており、現在全国いくつかの県にも新たに店舗を増やしている「恵比寿フラワーパーク」は、完全会員制、住所非公開のバーだ。コンセプトが面白い。店内は花に囲まれており、花を愛(め)でながらオリジナルカクテルを飲むのだという。また、会員を募集する時期も限定されており、一定人数の客数を保ちながら確実な営業を始めている。

 加えて最近は、全く隠れていないのだが、「隠れ家風」をコンセプトにしている店もある。例えば店内が薄暗いとか、紹介制や会員制にしているだけで、隠れ家的要素があるとされる。「隠れ家レストラン」で検索をすると、多くの「隠れ家がコンセプト」な店が挙がってくる。隠れ家〇〇などと店名に隠れ家を打ち出している店も少なくない。

 隠れ家レストランの特徴としては、大体においてフロア面積が狭く少人数制をうたっているのだが、席数がそれなりに多くある店もあって、暗い照明だとか全席個室だとか、入口が狭いなどで隠れ家演出をしている場合もある。

 ●特別感が優越感に不便であることの魅力も

 子どもの頃にかくれんぼをしたり、秘密基地を見つけて遊んだりした経験を持つ人も少なくないだろう。ひそかな場所を見つけると気分が高鳴る感覚は、子どもの頃に誰しもあるが、大人になっても潜在的な欲求として継続しているのかもしれない。SNSなどにより、検索すれば苦労しなくても楽に情報が得られ、世界中の人に「公開」される現代だからこそ、「自分だけ」、もしくは「限られた人だけ」が知っているということに、逆に付加価値を感じるのではないだろうか。自分だけという特別感が「優越感」につながるのだろう。

 また、利便性を追求した商品や生き方も多い中、多少不便であることが逆に魅力にもなっている。人間は、行列してから食べると、並ばないで入店したときよりも一層おいしく感じるのだという。隠れ家レストランも同様な心理なのかもしれない。

 ●隠れ家が放つエンターテインメント

 さらにエンターテインメント性にも着目したい。バブルの頃は、テーマレストランの業態がはやっていた。ジャングルや監獄をイメージした店、仕掛けのある店など、エンターテインメントレストランとも呼ばれ、飲食だけではない別の高揚感を持たせたものだった。そうした店は少なくなったものの、現代の隠れ家風レストランは、隠れ家という裏の顔の隠微な雰囲気がある種のテーマレストランであるし、店に着くまでもがすでにエンターテインメント。店の演出にもなっているのだといえそうだ。

 ●共通認識、価値を持つ安堵感

 隠れ家風の店のメリットはある程度客層が安定する安堵感にもあるのではないか。その店に縁あって“めでたく”入店できた客という段階で、ある種同一な興味を抱く人間同士である。店内の客はある種の共通認識、価値を持つ関係性だともいえる。安心しやすい空気感が流れるように思う。

 隠れ家レストランは、非日常を演出していると思うのだが、客にとっては、高揚感があるが、強すぎない。安心感もあるが日常ではない緊張もある。「非日常の度合いがほどよい場所」なのだと感じている。

 (食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 大学兼任講師 小倉朋子)

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