クローズアップ現在:一点勝負主義の専門店 最近流行っているそのワケ

2026.05.04 567号 10面
東京・足立区のとろろ専門店「黄金とろろ専門割烹 ウチスルベ」ではメニューの約8割を、とろろ料理が占めている。(外食レストラン新聞26年3月号「メニュートレンド」より)

東京・足立区のとろろ専門店「黄金とろろ専門割烹 ウチスルベ」ではメニューの約8割を、とろろ料理が占めている。(外食レストラン新聞26年3月号「メニュートレンド」より)

「串カツ田中」の新業態「挽きたて和牛レアカツ ザ・メンチ」は、メンチカツを主軸に埼玉・大宮に2月オープンした。写真は「和牛メンチカツ定食」1,980円(税込み)

「串カツ田中」の新業態「挽きたて和牛レアカツ ザ・メンチ」は、メンチカツを主軸に埼玉・大宮に2月オープンした。写真は「和牛メンチカツ定食」1,980円(税込み)

昨年12月にはおかゆ料理専門店「おかゆテラス 阿佐ヶ谷本店」がオープン。写真は骨付き鶏のコンフィが豪快にのった同店の「鶏のおかゆ(醤油)」1,500円(税込み)

昨年12月にはおかゆ料理専門店「おかゆテラス 阿佐ヶ谷本店」がオープン。写真は骨付き鶏のコンフィが豪快にのった同店の「鶏のおかゆ(醤油)」1,500円(税込み)

炒飯専門店「みんなの炒飯パラダイス」(大阪市浪速区)では、20種類以上の炒飯メニューを展開している(外食レストラン新聞26年2月号「メニュートレンド」より)

炒飯専門店「みんなの炒飯パラダイス」(大阪市浪速区)では、20種類以上の炒飯メニューを展開している(外食レストラン新聞26年2月号「メニュートレンド」より)

焼きそば、麻婆豆腐、チャーハン、オムライス、納豆、イワシ、マグロ、牛肉、パスタ、ピザ、サラダ、パン、おにぎり、スープ、かき氷……。挙げていけばきりがないので、このあたりでやめておこう。近年、ひとつの料理カテゴリーに特化した専門店が増えている。しかし、ラーメン店がラーメンのみを提供し、パン屋がパンを売り、カレー店がカレーライスに特化するように、単一メニュー、あるいは単一カテゴリーの専門店自体は、これまでも珍しい存在ではなかっただろう。

●一品を基本軸にバリエーションを広げる現代のトレンド

思い返せば、「スープストック東京」のようにスープに特化した業態が登場した際には、新たなジャンルとして話題を集めた。また、餃子ブームや、コロナ禍における唐揚げ専門店の急増など、特定メニューにフォーカスした流行も繰り返されてきた。

ただし現在増えている専門店は、従来の延長線上にありながらも、その性質に変化が見られる。一品への向き合い方、視点が異なってきているといえる。

例えば、肉あんかけ炒飯専門店「炒王」では、細切りの肉をあんに仕立て、チャーハンのソースとしてたっぷりとかける。さらに焼き豚を加えたり、あんかけ卵をのせて天津飯のように仕上げたりと、チャーハンを基軸に多様なバリエーションを展開している。

また、焼きそば専門店も関西圏にとどまらず広がりを見せている。「焼きそばのまるしょう」では、定番のソース味に加え、カレーやポン酢、明太子など多様な味付けを揃え、グランドメニューだけでも十数種類に及ぶ。さらに限定メニューも加わり、夜には焼きそばを肴に酒を楽しむスタイルも提案している。麻婆豆腐専門店においても、「豆腐東京麻婆」や「麻婆TOKYO」など、類似名の店舗があるほど店舗が増加している。

これらの店舗に共通する特徴は、「一品を軸にバリエーションを広げる」点にある。そのため、ベースとなる基本メニューの完成度が極めて重要になる。素材、食感、味わいへの明確なこだわりがなければ、顧客は定着しにくい。「とりあえずあんかけにする」「味を変える」といった表層的な変化だけでは、すぐに飽きられてしまうだろう。

近年の新規ブランドには、その点を十分に理解し、「この一品で勝負する」という強い意思が感じられる店が目立つ。

●情報社会における一品満足主義のメニューと選択肢

さらに、これらのメニューの多くは主食と主菜を一皿で完結できる構成になっている。複数の料理を選ぶ必要がなく、シンプルに満腹感が得られる点も特徴だ。

その背景には、現代特有の消費者心理がある。AIの進展に象徴されるように、情報処理のスピードは加速し続けている。一方で、情報が過剰に存在する環境では、「選ぶこと」自体が負担になりやすい。常に迅速な判断や言語化を求められる生活の中で、多くの選択肢から最適な解答を導くことに疲れている人も少なくない。いわゆる「タイパ(タイムパフォーマンス)」志向も強まり、短時間で確実な選択をしたいという欲求が高まっている。

その点、一品専門店は非常にわかりやすい。提供される料理が明確であり、定番メニューをベースにしているため、新しいアレンジにも失敗は少なそうだ。安心して挑戦できる。価格帯も広くないので、選択に迷いが生じにくい。通常は入店後にメニューを見て料理を決めるが、専門店では「入店前」から何を食べるかが明確である。この安心感は、来店時の心理的ハードルを下げ、注文までの時間短縮にもつながる。

●客同士の同調意識と店のメリット

さらに、一品専門店には顧客同士の共感が生まれやすい側面もある。外食の場では共同意識が働くという研究もあるが、たとえばホットドッグ専門店であれば、その場にいる客の多くが「ホットドッグを食べたい」という共通の目的を持っている。この共有された空気感が、場の居心地の良さを高めている可能性がある。

もちろん、店舗側にもメリットは大きい。食品ロスの低減、オペレーションの簡素化、器材や設備の低投資、人員やスペースの効率化など、経営上の利点は多岐に渡るといえそうだ。ただし同時に、顧客を飽きさせないための新たなメニュー開発やサービスの鮮度維持は不可欠となってくるだろう。

●直線的な店と客との関係性

総じて、一品主義の専門店は、現代の消費者に余白をもたらしてくれるようだ。加えて、すぐに答えを求める時代の感覚にも合っている。何を食べるかが明確であるため、店と客の関係はきわめてシンプルで直線的だ。遠回りも無駄もなく、無理のない時間と満足感が得やすい食事時間が期待できるのだ。

(食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 メニュー開発・大学兼任講師 小倉朋子)

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