フレイルやサルコペニアは令和のビジネスパーソンが知っておきたいキーワード
令和2年が始まった。超高齢化社会が訪れるなか「フレイル」「ロコモティブシンドローム」「サルコペニア」という言葉を耳にするようになったのではないだろうか。言葉は聞いたことがあるが、それぞれの意味を正しく説明できる人は多くないだろう。どれも加齢により、体の機能が衰える現象であることは同じだが、対策ができていなければ転倒による介護や引きこもりを引き起こす。この3つの概念と対策を正しく理解することがビジネスパーソンにも重要である。今回は「フレイル」「ロコモティブシンドローム」「サルコペニア」の概念と特徴を説明し、予防の食事も紹介したい。
低栄養から始まる衰えも
「フレイル」は、2014年に日本老年医学会が「Fraily (フレイルティ)」の日本語訳として提唱した概念である。「Fraily」は日本語に訳すと虚弱・老衰などを意味する。早い時期に正しく介入すると元の健康な状態に戻ることを強調したかったために、「フレイル」を共通した日本語にすることが決められた。
「フレイル」は加齢により心身が老い衰えた状態であり、健康な状態から要介護状態へと移行する段階である。心身が虚弱になり一人で外出したり、身の回りのことができなくなっていく。
そしてフレイルの状態から、「サルコペニア」=加齢に伴い筋力が減少した状態や、「ロコモティブシンドローム」=骨や関節、筋肉など運動器の障害により歩行や日常生活に支障がでて、転倒・骨折のリスクが高まる状態につながる。
また免疫力がなくなって風邪をこじらせて肺炎になったりと、若い時は問題ないことが高齢になることで、そのまま寝たきり状態を引き起こすというわけだ。
介護が必要となる入口は「フレイル」。だが、実はその前には「低栄養」、つまりエネルギーやタンパク質が欠乏し、必要な栄養素が足りない状態が潜む。
高齢になると、食事量が減ったり、うまく飲み込めない、消化機能が落ちたりなどで、食事に問題が起こりやすい。少量でエネルギー、たんぱく質が摂取できるバランスの取れた濃厚流動食品ややわらかい食品は多く販売されているが、通販やドラッグストアでの取扱いが主流で、スーパーやコンビニエンスストアで購入できるものは限られている。
また特別な食品でなくても、普段使う食材の中には「低栄養」の予防ができる。身近なスーパーや食品メーカーを主体に、「低栄養」のリスクや予防の食事、おすすめ食品などが消費者に伝わるような機会を増やしていく必要があると考える。
サルコペニア予防のキーワードは「タンパク質+カルシウム」
「サルコペニア」は1989年にアメリカのIrwin Rosenbergによって提唱された言葉で、ギリシャ語で「サルコ(sarx/sarco)=筋肉」と「ペニア(penia)=喪失」を意味する言葉を合わせた造語で、「加齢性筋肉減弱症」と呼ばれる。
加齢により全身の筋肉量が減り、筋力も自然と低下していき、バランスを失って転倒したり、歩行困難に陥って、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)の低下や寝たきり状態につながっていく。
サルコペニアチェックを簡単にどこでもできるのが「指輪っかテスト」だ。両手の親指と人差し指で指輪っかを作り、ふくらはぎの一番太い部分にあてる。ふくらはぎと指輪の間に隙間ができると、サルコペニアの危険度が高くなると診断される。
ペットボトルの蓋を開けられなくなった、歩く速度が遅くなったなど気になる症状が出た時には、チェックしてみよう。早期発見することが最大限の予防策につながる。
サルコペニアは福祉・医療業界では数年前から注目されていたが、最近では一般向けにもTVなどで発信されるようになった。KBC九州朝日放送でも、昨年11月12日に「サルコペニア特集」が放送された。その中で筆者がサルコペニア予防の食事を監修して、レシピを作ったので紹介する。
予防には、「タンパク質+カルシウム」。特にタンパク質は筋肉の材料になるので、1日に自分の体重×1~1.2(g)が必要となる。体重50㎏であれば、1日に50g~60gになる。ポイントはソースや衣にタンパク質やカルシウム源を使うことだ。高齢者は食事量が減り一度に多くの量を食べられないので、メイン食材の量を多くするのではなく、衣などに栄養分を含んだ食材を利用する。
今回番組で紹介したレシピは、「ささみのピカタ カルボナーラソースかけ」。鶏ささみは低脂肪高タンパクで、1本当たり約10gのタンパク質を含む。ささ身2本に卵、スキムミルクで作った衣をつけて、牛乳、卵、粉チーズを入れたカルボナーラソースをかけると、1日に必要なタンパク質の約半分をとれる。
正しい理解が介護を回避する道
フレイル、ロコモティブシンドローム、サルコペニア、それぞれの特徴と定義を紹介したが、これらの状態はそれぞれが単独で起こるわけではなく、お互いが入口となり、放置しておくと介護を必要とする状況に陥る。
その前段階には必ず「低栄養」があり、運動と食事で正しく対応すると元の健康な状態に戻ることができる。
介護食品を取り扱うメーカーだけでなく、食品業界全体で「低栄養」や「フレイル」などの早期発見、予防の食事の推進をしていくことが今後は必要なるだろう。
高齢者夫婦、1人暮らしの高齢者では、惣菜やレトルト食品などを使用する頻度が高い。高齢者の好きなあんこにプラス乳製品を入れたり、食べやすいふわふわした食感の肉まんに酢醤油でなくカロリーが取れるソースをつけてみたりなど、食事量が少なくてもカロリーが取れるような工夫があるとよい。
既存のソースや食材をフレイル予防と位置づけて、レシピ提案や販売促進を行うことで、日本のこれからの食文化を支えていくことができると考えている。(管理栄養士 大山加奈惠)