新型コロナ:企業アンケート「影響あり」7割 今こそ乾物の真価発揮を
新型コロナウイルスの感染拡大は乾物業界も揺さぶる。乾物関連企業を対象にしたアンケートで新型コロナに伴う事業への影響について聞いたところ「影響はある」との回答が66.7%に上った。外食、給食向けなど業務用の減少を訴える声が多い。緊急事態宣言が全国に発令されたが、事業への影響や感染の長期化を懸念する企業の姿が明らかになった。一方、家庭用は全般的に好調で、中には「巣ごもり需要」が発生したカテゴリーもある。乾物は保存が利き栄養価が高いことから、東日本大震災後は防災食として注目される。災害ともいえる未曽有の試練に直面する今こそ、乾物の真価を発揮する時だ。(三井伶子)
アンケートは乾物を取り扱う国内主要企業を対象に実施。4月13~17日に行い、21社から回答を得た。
新型コロナに伴う事業への影響について「ある」と答えたのは約7割の66.7%に達する。感染拡大の収束が見えず、企業からは「今後の販売に不安がある」「現状では大きな影響は感じられないが、この先は未知数」との声が上がる。
販売動向について大半の企業が「業務用が減少」と回答した。休校や外出自粛に伴う外食や給食、土産向けの減少が顕著で、3月の売上げが前年比40%減、4月は同60%減と大きく落ち込むメーカーもある。一方、家庭用は動きが好調だ。休校やテレワークによる買いだめ需要が増え、あるメーカーは3月の売上げが同15%増。POSデータを見ても、多くのカテゴリーで前年を上回っている。
乾物専門商社によると「乾麺、レトルトご飯、もち、パスタ、ラーメンが最初は急激に伸びたのはどこも一緒だが、その後はおかずに使うような切り干し大根や椎茸など農産乾物、海藻なども売れるようになった」という。また「ベーキングパウダーやドライイースト、白玉粉、だんご粉なども売れ行きが高止まりしている」とし、素材から手作りする消費者が増えていることが見受けられる。
輸出入への影響について中国からの輸入は2月までは積み出しや出航の遅れがあったが、おおむね3月までに回復している。ただ「従業員が集まりきっていないため生産量が少し落ちている」との声もある。一方、欧米諸国からの貨物は現在も遅延が見られる。国内でも長距離チャーター便、路線便とも通常よりリードタイムが長くなりつつあり、「ゴールデンウイーク期間の配送に影響が出るのでは」と指摘する。
困っていることを聞いたところ、「マスク不足」や「製造者の労務管理」「社内に感染者が出た場合の対応」を挙げる企業が多かった。乾物業界は中小零細が多く、社内に1人でも感染者が出れば死活問題ともなりかねない。感染収束の兆しが見えない中、事態の長期化も視野に入れた対応が求められている。
●削り節=パック中心に需要増
削り節はかつおパックを中心に巣ごもり需要の急増を受けている。3月のパック販売を前年比2桁増と伸ばした。業務用は苦戦し、コロナ終息とともに先行きが見通せない。消費拡大を好機に煮炊き、だし取りの料理用へ用途を広げたい。
2月末の政府の休校要請から新型肺炎防止、外出自粛による内食志向が進んだ。家庭内食が徐々に増え、削り節は3月から消費拡大。おひたしなどトッピング向きのパック販売が単月、前年比15%増と伸びた。
トップメーカーのヤマキ、続くマルトモの3月売上げは、微増推移。パックは市場の主力・定番品だけに豊富な市中在庫が回転した。期初の4月売上げから増大が見込まれ、3番手のにんべんは3月にすでに同29%増。シェア合計60%を超える3社が伸ばし、好況が明らかになった。
外食や給食向けの業務用、ギフトや土産などの直接販売は大幅減。チャネル別で明暗を分けている。家庭用も煮炊き向けはつゆの素、だしパック消費が増え、調理機会を奪われている。伝統的だけに忘れられている簡便性、味わいを増幅するだし本来の価値を伝えるのが業界全体の課題。ヤマキは動画サイトや情報誌での発信を加速している。(吉岡勇樹)
●乾燥ワカメ
乾燥ワカメは家庭内消費が増えている現状で、消費者の健康意識の高まりを受け家庭用が伸長している。また健康食材としての認知度が高い海藻の中でも、特にワカメは手軽に使える食材として多くの消費者に選ばれている。家庭用の乾燥ワカメは昨年7月ごろから継続して伸長し、3月はさらに伸長した。一方で業務用は、給食や外食需要減少の影響を受けている。
ワカメの原料については、国内は現在のところ生育は順調で調達に問題はない。また韓国産についても現状、順調に調達できている。中国産の生育は順調だが、葉と茎を分ける芯ぬきなどの作業を行う人手が新型コロナウイルスの影響で不足し滞っているようだ。しかしある程度の在庫があるため、中国産の乾燥ワカメについても当分の間、供給に大きな問題はない。(高木義徳)
●乾麺=好調単品 厳しいギフト
播州の総合麺メーカー「カネス製麺」は、新型コロナの影響で売上げが例年の5倍に迫る急増となった。うどんが前年比5倍、揖保乃糸のそうめんも同4.8倍。大谷聖社長は「乾麺の売上げは2月26日から29日までが60%増、3月2、3日で4.8倍で、4、5日で落ち着き70~80%増。9日には通常に戻った」とする。乾麺に関してのパニック的需要増は、限定的、あっても短期間だった。その後、うどんなど太ものを中心に需要増がなだらかに続いている。
全国乾麺協同組合連合会の高尾政秀会長は「3、4月はまだそうめんの季節ではなく、うどんが受け皿になった。夏になれば、また違ってくる」と分析する。兵庫県手延素麺協同組合(揖保乃糸)では、前年比でそうめんは2月18%増、3月25%増、ひやむぎは2月32%増、3月45%増ほど伸び「買いだめ需要商品の中でも賞味期限が長いそうめんカテゴリーにも飛び火している」(同組合)とする。「量販店から単品商品の見込み発注があると聞く」(池側義嗣奈良県三輪素麺工業協同組合理事長)とするほか、半田地区では通常ゴールデンウイーク明けから活発化する注文が前倒しできており、「通販やネット販売は前年比で20%前後の伸び」(森脇輝明半田手延べそうめん協同組合代表理事)とする。一方、ギフトは厳しい見方もある。(服部泰平)