コロナ禍ストレスを癒やすイタリアンスイーツの「美」
イタリアンスイーツの人気が高まっている。ブームとなったマリトッツォに続くものとして注目されているスイーツの1つに「カッサータ」がある。今、イタリアンスイーツがうける要因は何なのだろうか。
「激甘」のカッサータ
「カッサータ」はイタリア・シチリア地方の伝統菓子。羊のリコッタチーズのクリームをスポンジケーキで包み、その周りを白と緑のマジパンで覆い、アイッシング(砂糖を原料に固めたもの)で飾る。ドーム型で、ケーキのように切り分けてシェアして食べるスタイルが定番だ。
以前イタリアで食べたが、とにかく甘みが強く驚いた記憶がある。“激甘”といってもよいだろう。イタリアのレシピを覗くと、1つのカッサータに500gの砂糖が使用されている。
カフェ・コンビニ発の日本風カッサータ
日本で発売されているカッサータは、マジパンを入れずにシンプルな形状に変えた甘さを抑えたものが主流で、ジャパニーズカッサータと呼んでもよいだろう。
北海道札幌市のカフェ「Tailor」では、いくつかある手作りスイーツの中でも一押しのカッサータを通販で購入できる。冷凍で届くカッサータは、解凍せず硬いアイスクリームとして食べるのもよし、半解凍の食感を楽しむもよし、フワッとした食感になるまでしっかり解凍させるなど、食べ方は好みで変化をつけられる。
日本人は段階を追って「味変」を楽しむ傾向がある。コロナ禍においては、内食のマンネリ化を防ぐ点からも、食べ方に選択肢のあるメニューは話題になりやすい。
福岡県大牟田市のカフェ「aoca」でも、毎週手作りのカッサータを「プレメルケーキ」と称して販売している。リコッタチーズの代わりに日本人が好きなクリームチーズを使用しているのが特徴で、毎週売切れとなる人気ぶりだ。
セブンイレブンではそのaocaの監修で、プレメルケーキをアイスバーに仕上げた大人のアイススイーツとして「アンデイコ カッサータアイスバー」を1月に発売した。そのほかコンビニでは、ローソンが2021年に1人用の小ぶりのカッサータを発売している。
台湾スイーツからイタリアンスイーツへ
ここ最近、日本では台湾スイーツがブームを牽引していた。マンゴーかき氷の芒果冰、台湾のおしることも称された豆花、そして大ブームとなったタピオカティや台湾カステラは現在もコンビニスイーツとして健在だ。しかし台湾スイーツは、どちらかといえば店舗へ出向いて購入するのに適したものが多い。
その後コロナ禍となり、台湾スイーツに代わって人気に火がついたのがイタリアスイーツのマリトッツオだ。「ギルティーパン」と筆者が命名したように、カロリーが高く、背徳感を感じさせるインパクトのある視覚的要素とわかりやすい甘さは、味わいがさっぱりとしている台湾スイーツとは真逆ともいえる。巣ごもり生活を余技される中、身近なストレス解消フードとして存在価値があったのだと感じる。
シンプルで美しい断面が特徴
イタリアには「甘いもの」を愛する国民性がある。朝食から甘いココアやビスコッティなどを食べるのだ。食後のデザートのケーキも日本の倍ほどの量を食べる。その一方で、彩りのバランスがよく、どこか洗練されているスイーツが目立つ。マリトッツオの人気の理由については、以前、コラムにも書かせていただいたのだが、単にクリームがたっぷり入ったパンではなく、シンプルながら見た目が美しい点も理由にあると考えている。
プチ征服感を満たす「ギルティーパン」が人気 日本食糧新聞・電子版
きれいな風景に触れる旅行や美術鑑賞へ出向く機会も減り、外食の美しい盛付けに触れることも少なくなり、「美しい食」に触れたい欲求も高まっているのかもしれない。カッサータも、ナッツやさまざまなドライフルーツやフルーツピールなどが白地のチーズに散らばり、美しい断面が特徴だ。マリトッツォにしろ、カッサータにしろ、シンプルながらも見た目のバランスのよさがあり、見ても楽しめるメニューといえる。それはイタリアの文化が醸し出す「美」なのかもしれない。
また、両者の共通点として「わかりやすさ」もある。原材料が想像でき可視化しやすい外見の安心感が、コロナ禍が続いた現在には必要な食の要素ともいえるだろう。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)