もったいない料理人が追求する「好奇心を呼び起こすフードロス料理」

今回はフードロス専門の料理人として活動する松田樹生氏に取材をした。約1年間フードロス料理人として活動してきたことで、フードロス領域の限界や課題が見えてきたという。日本においてフードロスがより市民権を得て、クリエイティブに解決される方法とは?

フードロス料理こそエンタメ性や付加価値が求められる

フードロス料理はコンセプト自体に大義名分があるため、料理のクオリティーや創造性については、既存の料理ほど問われないイメージがある。

しかしフードロスを専門に活動する、もったいない料理人みっきーさん(本名:松田樹生)は「フードロス料理が市民権を得て多くの人に愛されるためには、付加価値や創造性を高める必要がある」と語った。

彼が理想とするフードロスムーブメントに、世界的に有名なイタリア人シェフ、マッシモ・ボットゥーラ氏が各国の名だたるシェフ達を呼びかけ作った、至高のフードロス料理レシピ本「IL PANE È ORO/パンは金なり」がある。

『IL PANE È ORO/パンは金なり』(画像提供:松田樹生氏)

英訳され世界中で愛されるレシピ本になっており、紹介されるフードロス料理は「そうきたか!」「面白い!」「クリエイティブだ!」と思わせる技と創造性が詰まっている。それらは、街場の高級料理と比べても決して見劣りしないレベルであり、大義名分に加えクリエイションとしての完成度も素晴らしい。

技術やアイデアの力で、廃棄食材から「価値ある新食材」を生み出す意識と体制を育てたい

松田氏いわく、料理人も食べ手も面白いと感じられるフードロス料理を開発し続けるには、新たなフードロス食材の開拓が必要だという。なぜなら代表的な食材は、おから・規格外の野菜・魚の血合いなど、バリエーションが限られてしまうため、そこから生まれる料理もマンネリになりがちだという。

重要なのは「もったいないからロス食材を使う」のではなく「他にはない有能な食材だから使う」という考え方へのシフトだ。例えば醤油粕(もろみ)は醤油を作る際に出るフードロスであるが、同時に醤油と味噌の中間のような味わい深さと独特の食感があり、他の食材にはない価値がある。

松田氏が今ポテンシャルを感じている潜在的フードロス食材は魚の鱗やエラだという。アンコウ・タラ・クエ以外の魚のエラは食べられないと言われているらしいが、それ以外の魚のエラも血抜き後に焼いたり揚げると、エイヒレのような独特な食感になる。

松田氏によるフードロス食材を使ったフードロス料理。ケータリングやポップアップイベンドで定期的に振る舞っている(画像提供:松田樹生氏)

従来は処理や流通が難しく捨てられた部分や、これまではおいしく食べられていなかった部位も、テクノロジーを掛け合わせることで新食材として生まれ変わるポテンシャルを持つ。

松田氏の元にはヨーグルトを製造する際に出る「ホエー」の活用相談なども来ており、今後、料理人と食品メーカーが手を取り合って新なフードロス食材や調味料を開発することも増えるだろう。

「潜在的ポテンシャルのある廃棄物に関しては、ぜひ料理人に開示して一緒に活用の方法を考えていく活動をしたい」と松田氏は語る。

サステナブルなメニュー作りが店の「売り」を作っていく

従来は廃棄されている食材を使える食材や料理に変えることも重要だが、そもそもフードロスを出さない取組みも重要になってくる。飲食店にはどの時期でも楽しめる固定メニューが多いが、実は安定供給がフードロスを招く原因にもなっている。

有楽町にある「築地もったいないプロジェクト」を掲げる居酒屋・魚治では、市場に卸せなかった足が取れてしまったカニや、獲れすぎてしまった魚などを使う。利用客からは「新鮮なのに安い」「何が出るかは当日のお楽しみ」といった点で人気を得ている。

また東京都世田谷区池尻にあるフレンチ・OGINOでは、「野菜は、今日あるものをください」と言ったスタイルで農家から買うため、メニューは当日決まっているはずだと松田氏は考察する。

フードロス解決に必要な3者のあり方(筆者作図)

フードロスを出さないメニュー作りやシステムを、店も客もコンテンツとして楽しみながら取り組むことがフードロス削減にも、お店の新たな売りにもつながるだろう。

日本では従来、そのようなエコシステムがあったはずである。今一度こうした考えに立ち戻り、正しい食業界のあり方を見つめるべきなのかもしれない。(フードプロデューサー 古谷知華)