ラーメン×懐石もあり…ミレニアル世代のお腹と好奇心を満たす「食の実験場」を渋谷に作ってみた

食クリエイターたちの実験やプレゼンテーションの場「ツカノマノフードコート」を、フードプロデューサーである筆者ら20代後半の運営委員会メンバー4人で東京・渋谷に作りだした。10月から4ヶ月間限定で毎週異なるシェフ達により前衛的でアイディアフルな料理が振る舞われ、新たな食体験がミレニアル世代のお腹と好奇心を満たしている。高感度な若者を惹きつける食の実験場「ツカノマノフードコート」の魅力をご紹介したい。

食クリエイター50人の好奇心を眠らせない仕掛けとは

渋谷ツカノマノフードコートに行けば、様々なシェフや料理研究家たちによる、斬新なアイディアと情熱が込められた料理を楽しむことができる。例えば、「フードロス食材を専門とした料理」「世界に通用する新和食ジャンル“ラーメン懐石”」「戦火を逃れやってきた元5つ星レストランシェフのシリア料理」などだ。

4ヶ月間毎週異なる食イベントの企画と運営を食クリエイター達と共に行うツカノマノフードコートは、いまだない試みである。空間マッチングサービスを行うRELABELによるサポートの元に、解体前の空きビルをテナントとして、10月10日から来年2月15日の4ヶ月間限定営業としてオープンした。

オープン以降1か月間にツカノマノフードコートで行われた食イベント。4ヶ月間、食クリエイターたちと様々なコンセプトの食イベントを作る予定。好奇心と新規性をモットーに連日コンセプトを練る

クリエイター達の参加ハードルを下げるための重要なポイントは、出店コストを極力抑えた価格設定である。光熱費や固定費の支払いはゼロ、売上の15%のみをツカノマノフードコート側に支払う設定になっている。

オープンから1ヶ月が経って、情報感度が高く主体的に情報発信をする20~30代を中心に多くの支持を受けており、著名なインフルエンサーによる来店も目立っている。この場所がミレニアル世代から支持されている要因は、毎週異なるシェフが提供する独創的な料理や、「食の実験場」というチャレンジへの共感がありそうだ。

「現代的な飲食スタイル」を提供する場が料理人にとっても来店者にとっても必要

昨今、料理人も様々なスタイルで活動する人が増えている。いわゆる老舗で10年ほど修業をして独立するスタイルではなく、若くして独自のセンスとチャレンジ精神を武器に、徒弟制度を離れインディペンデントに活動する料理人たちもいる。

料理人の新しいスタイルが増える一方で、食を提供する舞台である都市には、彼らが自身のアイディアをすぐさま実験できるようなインフラの整備が十分ではない。

毎週異なるイベントを提供するツカノマは連日盛況である。来店動機がコンテンツによってはっきりするため、繰り返し来店する客も多い

ニューヨークにはコワーキングレストラン「FOODWORKS」のような場所があるため、若きシェフたちは実店舗を持たずに、自分の好きな料理やアイディアを表現できる。しかし、日本にはまだそのような環境がほぼないのが現状だ。

また生活者たちも日々凄まじい量の情報をみる中で、常に新しいコンテンツを求めている。刹那的とも言えるが、若い世代の好奇心を刺激し続けられるようなコンテンツ供給を今は飲食店でさえ求められているのである。

新しいフードカルチャーのヒントは自主制作本に

食は日々、私たちの好奇心の源泉になっていると思う。新旧含めて全ての料理には、作り手たちの膨大なエネルギーや創造力、そして文化背景などが渦巻き、濃厚なストーリーが潜んでいる。

筆者自身は料理人としてプロであるわけでも食の専門教育を受けたわけでもない。しかし、食文化の根底に広がる、人々の歴史的な営みやロマンチックなストーリーが何よりも魅力的に感じるのだ。それを原動力にフードプロデューサーの活動をしている。

いくつかの食ブランドをプロデュースする中で、大切にしている考えが「ZINEのように食を作る」ということだ。

デザインも内容もフリースタイルな自主制作本「ZINE」の数々。左からQualia(byLOUDAIR/mmm), RUBBISH(byHOLYCRAP), 快感図鑑(by伊藤紺), 新・ゆとり論(byゆとり本編集部)

ZINEは出版物の形態の一つで、自主制作&自費出版する本のことである。米・ポートランドなどで長年根付いているインディペンデントな出版スタイルだ。思い立ったらすぐ制作と発信ができるメリットがあり、デザインにも本の形にもとらわれないクリエイティビティがある。

フードプロデューサーとしてこれまでの食ブランド作りで、思い立ったらすぐ作り、発信することを重視してきた。ポートランドには、ZINEを制作するために印刷機や裁断機、製本スペースなどを完備したコミュニティスペースが存在する。その食版として作ったのが、「ツカノマノフードコート」である。

期待通り、食クリエイターたちはツカノマを自由に使い、実験的な料理を提供するのに喜びを感じているようだ。やはりこうした場所は必要なのだと思う。

4ヶ月間でツカノマに参加する食クリエイターたちは50名。限られた時間でも、新ジャンル料理の創造、シェフ同士のコラボレーション、テスト出店など、多くの実験的な試みができる場所になると確信している。(フードプロデューサー 古谷知華)