かき氷の今夏トレンドはアーティスティック コロナ禍における強みとは

流行りの商品に並ぶ長蛇の列、SNSでは“映える”メニューが毎日アップされ…。コロナ禍で昨年までの食の光景が陰をひそめる中、かき氷は今年も「昨年までのような」トレンドを感じるアイテムだ。「シロップと氷」というシンプルな材料で大衆に愛されてきたかき氷がトレンドスイーツになるきっかけは、氷の食感のこだわりからだった。

かき氷のトレンドの変遷

口に入れても頭にキーンとこないフワフワ氷の出現からかき氷業態は騒がしくなった。氷の食感のこだわりとともに、氷の素材に着目した天然氷系が一大ムーブメントに。ただ現在は、自然環境が関わり製造量が限られることから、天然氷に代わって酸素などの不純物が入らない純度の高い純氷がかき氷の主流に。軟らかな氷になるといわれている。

そして、シロップにもこだわる店が続々オープンする。本物のフルーツをそのままソースにしたり、店で紅芋をゆでるなど一から手作りをする店も増えて、かき氷は本格志向になっていった。

シロップのバリエーションが豊富になると、西洋の素材を生かすかき氷が賑わいを見せていく。ティラミスやキャラメル、ホイップクリームなど、ケーキを彷彿とさせるような氷は色彩も豊かで、かき氷の“垣根を超えた”のだ。

さらにミルクや本物のマンゴー、いちごなどのフルーツを凍らせて削って氷の代わりにするなど、氷そのもののバリエーションも豊富となり、台湾スイーツの人気と相まって、かき氷は、お祭り屋台の風物詩から、大人が楽しむアーティスティックな芸術品になったといえる。

梅酒カクテルをかき氷にアレンジした「梅づくしかき氷」

より「ケーキ」に近いスイーツに発展

成熟しつつあるかき氷業態に、まだ伸びしろがあることを示した店の1つが東京の渋谷にある「セバスチャン」だ。一見して氷が見えないかき氷は、見た目はケーキ。ホールケーキの形状で、周りは美しくホイップクリームで囲まれて、「いちごのショートケーキ」という商品の中央にはフレッシュないちごが盛り付けられている。

中を切ると氷とフルーツソースなどが美しく層になって現れ、切ってもケーキのイメージを損ねない。また、「クレームブリュレ」は、ケーキのクレームブリュレと同じく、表面をバーナーで焼きつける。

“氷に火”を合わせるなど、常識にとらわれない店のパティシェは、ホテルで腕を振るった人物。どの店でも同じ技法が使えるわけではないから、模倣する競合店が続々と出るということにはならないのだが、「ケーキのような」その流れを受けた店は今年次々にオープンしている。

今年の夏は、より一層「スイーツ」としてのかき氷に注目だ。氷の中にさまざまな食材を入れて外見と中身のギャップを演出したり、さまざまな食感を混在させて客に遊び心を提供する店などが都内を中心に増えて行列を呼んでいる。

「茶寮FUKUCHA」の夏期限定メニュー かき氷

「映える」オリジナル氷で勝負

東京・飯田橋の「まめ茶和ん」は、形状のビジュアルが個性的だ。球体で、とても大きい。その大きさをフルに使ってシロップを4層に分けてかけ、例えばレモンをテーマにした氷1つで、レモンピューレとレモンカードピューレを使い分け、チーズとレモンムースを入れてアクセントにするなど、チーズケーキのような味わいを実現している。さらにレモンは有機栽培を使用するなど食材にもこだわりを見せる。

東京・六本木の「KAKIGORI CAFE&BAR yelo」では、トッピングと氷の色に個性を出している。香川の伝統菓子「おいり」をトッピングした「パステルズ」は、ローズとバニラのダブルシロップで、大人の香りと甘い子どもでも好きな香りの2種の香りも味わえる。アジサイをイメージした氷では、花ビラの色のグラデーションを氷で再現している。

東京・吉祥寺の「カフェ ルミエール」は、表面のメレンゲをバーナーであぶって焦げを見せ、「氷と火」のマリアージュを実現した。東京・中目黒に今夏オープンした「ナナシノ」も注目株だ。ワインゼリーを使用するなど大人向けの素材を使い、氷の中身をイラストで解説したメニューブックを置く。それだけ氷が複雑になっているということだろう。

そのほか、ホイップクリームの使用や、クッキーなどの食感のある素材をトッピングしたり、パフェのような層や視覚的効果を狙ったり、多くの店が“映える”オリジナル氷で勝負していて、非常に見た目も鮮やかでリッチだ。

「映える」形状や食材にもこだわり

かき氷は「三密」になりにくいアイテム

今年の夏は祭や花火もなくなり自粛ムードが漂う中にあって、だからこそ、かき氷くらいは華やぎを求める傾向があると考えられる。また、氷は会話を楽しむ間もなく食べないと溶けてしまう消耗品なので、少人数や1人客が多い。さらにお酒と合わせず、単体メニューとして注文するなど、さまざまな視点において「三密」になりにくいアイテムといえる。その点も、案外にコロナ禍において客を寄せやすい業態だといえそうだ。

筆者が子どもの頃からホテル内のフレンチや鉄板焼きのレストランのメニューにあった「焼きアイスクリーム」は、アイスをフランベさせていたので、冷たいスイーツに炎を合わせる手法はある意味では伝統的ともいえる。そうしたケーキの世界では王道である手法を、氷という伝統スイーツに移行すると、新たな世界が生まれることを、かき氷業界は示してくれているのだ。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)