小麦不足のイタリアで古代品種に注目 グルテンアレルギーも解決へ

パンやパスタ、ケーキなど日本人の食生活にも欠かせない小麦。ところが昨今では、小麦のグルテンがもたらす健康上の問題の増加、また、ロシア・ウクライナ情勢の悪化に伴う世界的な小麦不足による価格高騰と、小麦を取り巻く状況には逆風が吹いている。そうした中、イタリアでは古代品種の小麦が注目を集めている。グルテンアレルギーを発症しにくいという古代小麦をご紹介したい。

昔ながらの自然の小麦とは

小麦は人類が最初に栽培したといわれる植物で、その起源は約1万年前ともいわれている。イタリアでも古代ローマ時代には小麦栽培に力を入れており、当時すでに発達していた製粉技術で小麦を原料としたピザの原型やパンを日常的に食してしていた。

産地直送マーケットで販売されるデュラム小麦の古代品種「セナトーレ・カッペッリ」

乾燥させて長期保存が可能な小麦は古代の人にとって重要な食材であり、何世紀にもわたって、イタリアでは栽培が続けられてきた。ところが第2次世界大戦後、食の工業化の進歩と食糧需要の急増に伴い、従来品種に比べて成長が早く収穫量が多く、グルテンを多量に含み加工しやすい小麦粉用品種が多くつくり出されるようになった。

こうした潮流の中でも、イタリアでは古代からの品種の小麦をつくり続け、自然のままの小麦品種を現代へ維持してきた小規模な農家が存在していたのである。スローフード協会などの取組みもあり、近年になって絶滅寸前な品種の保護がようやく注目を浴びることになった。

グルテンアレルギーになりにくい古代品種小麦

2000年以上にもわたって小麦を食してきた歴史のあるイタリアでも、近年では日本と同様にグルテンアレルギーによる過敏症や不耐症などの問題が生じている。

グルテンとは、小麦に含まれているグルテニンとグリアジンというタンパク質に水を加えてこねることで生じる成分である。グルテン摂取後、分解されない一部の分子に対して自己免疫系が異物として認識し、腸内を攻撃することによって生じるアレルギー症状がグルテンアレルギーといわれる。

パン
古代品種の小麦を使ったパン

その点、古代品種の小麦は現代のものに比べてグルテンの力は弱く、また、グルテンの占める割合が低くでんぷんのバランスがよい。さらに、古代小麦に含まれるグルテンはかたく消化しやすいため、古代品種の小麦はグルテンアレルギーを生じにくい傾向にある。

スペルト小麦・カムット小麦などオーガニックな古代小麦

日本では古代小麦といえばスペルト小麦やカムット小麦が知られているが、それだけではなく一般的によく使われる軟質小麦やパスタでおなじみのデュラム小麦にも、伝統的な製法でつくられ続けている古代品種が現存する。イタリア各地域のさまざまな土着品種が細々と栽培されているのだ。

古代小麦の栽培方法は現代の小麦と大きく異なり、ほとんどが化学肥料を使わないオーガニックである。外皮が硬く虫がつきにくいので無農薬栽培が可能なのである。

スペルト小麦
スペルト小麦、イタリアではファッロ(FARRO)と呼ばれる

また、自然栽培された古代品種は、伝統的な石臼で小麦を丸ごと製粉する。胚乳だけでなく胚芽までゆっくり低温で挽くため、熱による酸化がなく小麦本来の風味や栄養素がきちんと残っている点も特徴的である。

そのため、グルテンアレルギーの増加や世界的な小麦不足という状況の中、イタリアでは食への関心の高い人を中心に伝統的なイタリアの古代品種への評価が高まっている。まだまだ生産者が少ないため希少価値の高い小麦は値段も高いが、量より質なのである。

グルテンによる影響が少なく、無農薬、栄養価が高く風味もよい・・・と良いことづくめの古代小麦の需要が、イタリアだけでなく世界的な傾向へと広がっていくことが期待されている。(フードライター 鈴木奈保子)