ワイン特集
◆ワイン特集:日欧EPAのジレンマ 欧州産増でチリ不振 秋にも棚割見直しか
日本のワイン業界が2月に発効した欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)のジレンマに直面している。発効から約半年。関税撤廃された欧州産ワインが広がった半面、これまで市場をけん引してきたチリ産の消費に陰りが見られる。総市場は足元で前年割れとなったもよう。チリ産の減少分を補い切れていない中、今秋にもSMなどの小売で棚割の見直しが検討されそうだ。(岡朋弘)
国内ワイン市場は15年をピークに踊り場を迎えている。19年上期(1~6月)は、前年比2~3%減で推移したと予想される。ワイン飲用者が缶チューハイなどのRTD(レディー・トゥ・ドリンク)に流出する動きが依然として止まらない様子。10月には消費増税が迫る中、年間では1~2%減と前年を下回る着地となりそうだ。
8月1日でEPAの発効から半年が経過した。2月にはEPA発効を機に一部小売店で欧州産の値下げが始まったほか、欧州産の新商品が相次ぎ投入されるなどして店頭での取り扱いが増え、市場で欧州産の構成比率が高まった。消費者の選択肢が増え、市場全体の活性化につながると期待されていたが、EPAはワイン需要全体を押し上げる「起爆剤」にはならなかった。
欧州産のフェースが拡大した一方で、チリを中心としたニューワールドのフェース数が減少傾向となった。19年1~6月の輸入通関を見ても欧州からの輸入量は増えたが、チリは減少した。これを受け10月以降、小売店頭で一時縮めたチリ産の構成比がEPA発効前の状態に戻るとの見方もある。
EPAによる小売店頭での欧州産値下げ効果は限定的だった。背景には欧州産の価格訴求に終始し、消費者にワイン本来の価値である産地、品種、物語性といった多様性や魅力を伝え切れていないと指摘する声が多い。「日欧EPA・関税撤廃セール」という宣伝文句も長い期間使える話題ではない。価格訴求からワイン自体の価値を重視した提案にシフトする必要性が高まっている。
今回のEPAでは、欧州産のボトル1本当たりスティルワイン(非発泡)で最大約93円、スパークリングワイン(発泡)で最大約136円の関税がゼロになり安く輸入できるようになった。スパークリングワイン市場は、今後も伸長が見込まれるカテゴリーで、関税の撤廃幅も大きいため各社は年末の最需要期に向けた提案に注力する。
10月に控える消費税率10%への引き上げでは、ワイン消費の冷え込みが懸念される。増税前には、低価格帯のデイリーワインや大容量のBIB(バッグインボックス)を中心に、まとめ買いの需要が発生する可能性がある。
今年のフランス産新酒ワイン、ボージョレー・ヌーボーの解禁日は11月21日。各社は多彩な商品提案で需要を喚起する。メルシャンは、ロゼタイプや酸化防止剤無添加、ノンフィルター(無ろ過)を展開する。アサヒビールは大人数でのパーティーや飲食店でのグラス販売用に適した1500ml入りの大容量タイプを投入する。サッポロビールは自社の女性醸造家がフランスに渡り、日本人向けにブレンドした商品などを発売する。
9月開催のラグビーワールドカップや東京2020オリンピック・パラリンピックに向け、インバウンド(訪日外国人)の増加が見込まれる。国産ブドウだけを使い国内で造った「日本ワイン」を海外にアピールする上で、メーカーはインバウンド対応を重視し、英語対応の準備を進めている。数週間以上滞在する観光客に対しては、日本ワインだけでなく、輸入ワインにも商機のチャンスがあるとされる。
●SM、売場に工夫
SMは家飲み需要の取り込みや競合他社との差別化を図るため、ワインの売場づくりに工夫を凝らしている。
2月にオープンしたライフコーポレーションの旗艦店、桜新町店(東京都世田谷区)では、「ヴィーガン生活(完全菜食主義)コーナー」を展開。食品とともにヴィーガンワイン6品目を提案する。ワイン売場にはローストビーフ売場が隣接し、ローストビーフと好相性のワインを陳列する。
店内には、来店客の好みに合う1本を選び出す「AI(人工知能)ソムリエ」も用意。タブレット画面で、刺し身やハンバーグなどワインと一緒に味わいたい料理を選ぶだけで、最適なワインが売場位置とともに表示される仕組みとなっている。
7月開店のイオンスタイル成田(千葉県成田市)では、直接輸入するスパークリングワインを多数取り揃えているほか、売れ筋トップ3という形で赤白スパークリングなど陳列し、来店客にわかりやすく提案する。併設したバルではグラス1杯300円で高品質なスパークリングワインなどを提供する。
ヤオコーの新浦安店(千葉県浦安市)は、「冷やしておいしい赤ワイン」という切り口で、夏向けワインを多数紹介。対象商品の値札位置に目印でわかりやすく示し提案する。