クローズアップ現在:「おいしい」を時間枠で考える 業態によって異なるそのタイミング

2026.04.06 566号 12面
短時間で食べきる料理は一口目のインパクトが重要になる

短時間で食べきる料理は一口目のインパクトが重要になる

旅館でたくさん並ぶ料理には再来訪したくなる魅力が求められる

旅館でたくさん並ぶ料理には再来訪したくなる魅力が求められる

フルコース料理の合間に出てくる「ソルベ」は、おいしさを持続させる役割がある

フルコース料理の合間に出てくる「ソルベ」は、おいしさを持続させる役割がある

 飲食店のメニュー開発の仕事では、当然のことだが食べ手側(来店客)が「おいしい」と思うメニューを作ることを心掛けている。だが「おいしい」の感覚は個人差があるため、さまざまな視点から「おいしい」を生まなくてはならない。例えば時間枠も考慮している。「おいしい」がどの時点でやってくるようにするか、どのタイミングでお客がおいしさを感じるのか。おいしさの時間域も大切だ。

 ●数日後にまた食べたくなる「おいしい」 短時間勝負の「おいしい」

 一口目に「おいしい!」と思ったが、食べ進めるうちに飽きてしまう味もあるだろう。一方で、「なぜこのメニューが人気なのだろう。普通の味わいなのに」と思って食べ進んだが、なぜか数日後にまた食べたくなってしまう、といった時間差でやってくる「おいしい」もある。

 さらには、「人気料理なので食べてみた。おいしかったが、一度味わえば満足だからリピートはしない」という“おいしい”メニューもあれば、期待しないで食べたが、常習化してしまうメニューもある。

 ラーメンや牛丼のように短時間で一食を食べきってしまう料理の場合は、一口目のインパクトが重要だ。ゆっくり味わいながら食べるというよりは、一気に胃袋に入れていく食べ方が王道になるタイプの料理では、短時間勝負の「おいしさ」が求められる。加えて当然ながら“後味”も良く、リピートしたくなる余韻も残したい。

 ●居酒屋は客の選択次第で最後まで“おいしい”を味わう

 一方、コース料理の場合は、1時間半から2時間程度の時間をかけて食べ進めていくので、最後のデザートにたどり着くまで「おいしい」をキープさせなければならない。飽きられないようなコースの構成が求められる。

 コース料理は、既に料理内容がフィックスされているので、客は店に「おいしいメニュー構成」を任せなくてはならない。主導権は店側にある。フレンチのフルコースでは肉料理が2回出るのだが、最初の肉料理と次の肉料理の間に「ソルベ」という少量のシャーベットが出る。これは肉の脂やにおいをリセットさせて次に食べ進めるための、おいしさを持続させる工夫だ。

 居酒屋では、1品ずつの追加注文が可能だ。そのため満腹具合と相談しながら食べ進めることができるので、最後まで無理なくおいしさを味わうのは、客側の選択センスにかかっている。もっとも、そうしたアラカルト注文が主となる業態だとしても、店側の勧め方によっては、より多くのメニューを注文してもらい、満腹になっても「まだもう少し食べたい」と思わせる流れを先導することもできなくはないだろう。例えば、「締め」のつもりで注文した料理を食べたら腹具合がリセットされ、「もう一品くらい追加しようか」という気になった経験はないだろうか。

 ●業態によって違う「おいしいの時間枠」

 同じ料理でも、どのタイミングで食べるかによって客の「おいしい」の度合は変わる。お腹の中にどの程度の量の食べ物が入っているか、だけではなく、どんな種類の食べ物が胃袋に残っているかによっても、次に食べる料理への「おいしさ」の感度は変わる。

 極端な例を挙げると、トンカツが大好きな人がトンカツを食べる前にチャーハン、ラーメンなどの炭水化物をしっかり食べたとする。その後のトンカツは、さほどおいしく思えないだろう。しかし、トンカツの前に生野菜や酢の物をたっぷり食べたとしたら、たとえ既に空腹感は無いとしても、まだまだトンカツ自体はおいしく感じられる可能性が高い。

 旅館やホテルの料理では、“長持ちするおいしい”を作るように心掛けている。同じ旅館に毎週宿泊する人はほぼゼロだろう。年に一度、または数年に一度、頻度が高くて数ヵ月に一度程度が通常だ。そのため、1年前の料理の味を客が頭の中で反芻でき、再来訪したくなるようなインパクトを残す必要がある。一方、ファストフードなどでは反対に、毎日でも食べたい「癖になる」「習慣化する」おいしいが求められる。「おいしいの時間枠」も業態によって違うので、業態にフィットした「味」に近づけなくてはならないのだ。

 (食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 メニュー開発・大学兼任講師 小倉朋子)

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