クローズアップ現在:外食の朝食が熱い! キーワードは「プチ贅沢感」「お得感」

2025.06.02 556号 07面
すき家で展開している朝食セットはコスパが高い。写真の「牛まぜのっけ朝食」は、ごはんミニ390円、並盛420円、大盛470円。朝に食べる和定食としてバランスがよく、すき家らしい牛小鉢がうれしい。「まぜのっけ朝食」は牛小鉢なしでごはんミニ290円と、300円以内でしっかりとした朝食が取れる(すべて税込み価格)

すき家で展開している朝食セットはコスパが高い。写真の「牛まぜのっけ朝食」は、ごはんミニ390円、並盛420円、大盛470円。朝に食べる和定食としてバランスがよく、すき家らしい牛小鉢がうれしい。「まぜのっけ朝食」は牛小鉢なしでごはんミニ290円と、300円以内でしっかりとした朝食が取れる(すべて税込み価格)

「伊右衛門カフェ 品川店」では昨年12月から、土日祝8時~11時限定でモーニングメニューの提供を開始した。写真は「塩麹漬けマグロと釜揚げしらすの柚子茶漬け」(1,650円・税込み)

「伊右衛門カフェ 品川店」では昨年12月から、土日祝8時~11時限定でモーニングメニューの提供を開始した。写真は「塩麹漬けマグロと釜揚げしらすの柚子茶漬け」(1,650円・税込み)

ドトールのモーニングはトーストサンドイッチ480円~で、ドリンクセットにすると(ドリンクとの)合計金額から50円引きに。写真はモーニング・セットAの「ハムタマゴサラダ」

ドトールのモーニングはトーストサンドイッチ480円~で、ドリンクセットにすると(ドリンクとの)合計金額から50円引きに。写真はモーニング・セットAの「ハムタマゴサラダ」

喫茶店のモーニングセットは、「コーヒー、トースト、ゆで卵」の最もシンプルなタイプで500~600円程度が一般的

喫茶店のモーニングセットは、「コーヒー、トースト、ゆで卵」の最もシンプルなタイプで500~600円程度が一般的

 物価高騰が続き外食を控える消費者も少なくない。そんな中、手軽な価格帯で外食の楽しさを経験してもらえる朝食に力を入れる店舗が目立つ。健康を意識するニーズや、気軽にプチ贅沢感を味わえるなど、客にとっても外食店の朝食はメリットがある。朝食は、外食産業がしのぎを削る新たなステージになるのか。今回は、単品ではなくセットや定食の提供をしている店舗に焦点を当てて見てみたい。

 ●モーニングの安価が広告塔になる

 東京・日本橋にある五つ星ホテル「マンダリンホテル東京」では、550~1320円の3つのモーニングセットを提供しており、宿泊者以外でも利用できる。550円のセットは、クロワッサンやマフィンなど4種のパンから1種、数種のドリンクから1種をそれぞれ選ぶ、パンとドリンクの簡単なコンチネンタルブレックファストだ。しかし、1つのパンといってもそれなりに大きく食べ応えがあり、星付きホテルの落ち着いた雰囲気の中でゆったりと朝食を楽しめるのだから、破格の値段といえるだろう。星付きホテルとしては目立つ価格帯での提供がSNSなどに記載されるようになり、ホテルそのものの周知にもつながっているだろう。

 外食店で安価な朝食を提供している店を見てみると、私が知る限り最安値で「セット」を提供しているのがイケアだ。シナモンロールとハッシュポテトのセット(店舗によって内容は異なる)を100円で提供している。190円のドリンクと合わせてもワンコインどころではない。さらにドリンクを含むセットで低価格の上をいくのがマクドナルドの「ソーセージマフィンコンビ」(240円)がある。値上げ傾向の外食において貴重な200円台といえる。

 ●カフェチェーンの価格帯

 チェーン展開しているファストフードやカフェでは、以前から朝食メニュ-は定番となっている。業態により、大きく3つの価格帯に分かれるように思う。

 1つが500円台のワンコイン周辺の価格帯のモーニングセットだ。ドトールコーヒーなどのカフェチェーンやフレッシュネスバーガーなどのバーガーチェーンがこれに当たる。また、マクドナルドは最安値の「ソーセージマフィンコンビ」の240円から「タルタル南蛮チキンタツタ朝マックセット」の700円まで、幅広い層とニーズに対応している。

 カフェチェーンでもワンコインから1000円超えの価格帯で提供している業態もある。「〇〇珈琲店」と純喫茶をイメージするようなレトロな店名の店に多く、厚切りトーストのセットから、サラダやオムレツなどアメリカンブレックファストをイメージするセットまでゆったりとした雰囲気で朝食を食べられるメニュー構成だ。プラや紙のカップではなく陶器カップを使用したり、テーブルサービスをするなど時間に追われる朝食というより、朝食時間を有意義に過ごせる工夫がされている。

 ●お得感をつくる純喫茶タイプのカフェチェーン

 昭和の頃から純喫茶タイプのコーヒーチェーンで健在なのは、ドリンクを注文すると無料でモーニングセットになる売り方だ。星乃珈琲では、ドリンク代650円のままで、パンケーキまたはゆで卵とトーストのいずれかが付いてくる。このスタイルはもともと名古屋の喫茶店文化から発せられたといわれている。銀座ルノアールで取り入れて話題になったことがあったが、現在はドリンク代にプラス料金でセットにしている。それでもゆで卵とトーストがドリンク代+80円でセットになる。高価格帯でも、ドリンク代に270円追加するだけで、具だくさんなスペシャルサンドイッチ、ヨーグルト、スープをセットにできる。このような形態は“お得感”があるため、わざわざ朝にその店に行くという動機付けにもなっているので、来店客数増につながる。

 ●ホテルも朝食のクオリティーで差別化

 牛丼3社は、いずれもご飯と味噌汁の付いた和定食で勝負している。3社の価格帯が一律ではなく、すき家は200円台(ごはんミニの場合)から、松屋は300円台から、そして吉野家は400円台からのラインアップ。ビジネスパーソンの栄養バランスや温かい味噌汁とご飯を食べたい単身赴任者など幅広いニーズに対応している。

 ホテルや旅館の朝食の充実も目覚ましい。星野リゾートも、近年はお手頃な価格帯の宿も展開しており、函館のホテルでは、朝夕の食事は付いていない。しかし、海の幸をふんだんに味わえる海鮮ビュッフェを有料で提供する。また、昨今はビジネスホテルの朝食のクオリティーの高さが目覚ましく、イクラや本マグロの刺身も入ったビュッフェであったり、和洋中が50種類以上取り揃えてあったりと力を入れており、朝食が宿の差別化の大きな要素になっている。

 午後にチェックインして翌朝チェックアウトをする宿泊業態にとって、朝食の充実は顧客満足度に大きな影響を及ぼす。宿泊食分離のホテルも増える中、夕食は外で食べるが、朝食だけはホテルの食事を満喫することで、ホテルライフを朝ご飯で感じる客も増えている。

 ●外食産業にとっての朝食の可能性

 「朝食しか栄養バランスの取れた食事ができない」「夜中の仕事なので朝食を一番たっぷり食べたい」「優雅な時間を安価で味わいたい」「一人になれる時間が朝だけ」など、さまざまな客のニーズに朝食は対応しやすい。また、夜の外食を控える傾向や、2次会、3次会に流れなくなった消費者の食べ方の変化、そして、ますます加速するアルコール離れなどもあり、物価高の中、朝食は店にとっても店の活気や体力強化につなげる貴重な時間になっているといえそうだ。客単価をいかに上げるか、昼夜の客にいかにつなげるかなど課題を模索しながらの各店の努力には、頭が下がるばかりである。

 (食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 メニュー開発・大学兼任講師 小倉朋子)

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