トップインタビュー:サイゼリヤ・堀埜一成代表取締役社長<下>

2009.08.03 360号 19面

 4月に就任したばかりの堀埜一成(株)サイゼリヤ社長へのインタビューを、7月号に引き続き掲載する。景気低迷が続く中、どのように活路を見いだしていくのか。今後の外食産業の時流をどう読んでいるのか。海外進出や新業態開発への展望などについて伺った。時代の荒波にブレることなく、自らに課した使命を全うしつづけることこそ、真にお客に豊かさを提供できる企業になれるのだということを、読者は実感できるだろう。(文責=さとう木誉)

 –振り返ってみると、サイゼリヤが100店を超えたのは、バブル崩壊後の大不況まっただなかの1994年。それからわずか15年で800店を超えてしまいました。不況をチャンスにしてものの見事に外食産業のトップに躍り出ました。その成功体験をふまえて、今回の不況をどのように考えていますか?

 堀埜 狙っているのは「利益成長」です。不況になると、皆の頭を切り替えやすい。単に売上げをとりにいくのをやめて、利益を着実に出していこうという方向に歩ませるには非常によいチャンスなのです。

 調子よくバンバンいっているときにそんなことを言っても誰も耳を貸しませんけど、今は考え方をチェンジさせるには一番よい時。ここで転換を図って利益体質が身に付けば、本当のチェーンストアを目指すにはもってこいの状況になります。

 –サイゼリヤは他の外食企業と比べても圧倒的に利益を出していますよね。経常利益で7~8%ぐらい…。

 堀埜 チェーンストア理論では15%といわれています。そういう数字を実現させると、確かに何をやってもビクともしないですよね。やるからには、そのくらいの利益体質をものにしていきたい。

 –不況、デフレが続く中、どの店も前年比を大幅に割って苦戦を強いられています。対してサイゼリヤは4月ベースで前年比を上回っています。好調な理由は何ですか?

 堀埜 とくに何もしていません。他社の数字を見て驚いたほどです。不況ということもあって値下げをしたのでしょうが、お客さまを増やすことはできたとしても、実際には回収できず、かえって首を絞めることになったかもしれません。

 –あえて質問しますが、サイゼリヤは値下げに踏み切る予定は?

 堀埜 少しでも安く提供したいという思いは常にありますよ。ただ、今安くしたら何が起こるのかを冷静に考えた方がいい。下手に値下げをすると店に負担をかけるだけになるんです。5~6年前にスパゲティを290円にしたときもすさまじいことが起こっていますし、スープを安くしたときもみんなが疲弊してしまった。グラスワインを100円で出したときは底をついてしまって緊急輸入でも間に合わなくなってしまった。そうなると供給できないだけでなく、サービスの質の低下にもつながってしまう。安く提供して、かえってお客さまに嫌な思いをさせるのは最悪のパターンです。だから、オペレーションなどのバランスをとっていかなければいけません。

 –飲食業の産業化を目指す堀埜社長からみて、これからの外食産業のあり方について、どのような展望をお持ちでしょうか。

 堀埜 すでにチェーンストア理論が示しているとおりで、2010年ごろから本当の寡占化の時代を迎えます。だいたいレストランも2~3の会社(グループ)に絞られていくだろう。そうして本物のチェーンストアが始まるだろう。その中で、われわれはどのような社会貢献をしていくのかが問われています。

 「人々の生活を豊かにしていきたい」という思いは当社の理念の一つでもあるのですが、「豊かさとは何か」というと「TPOS(シーンごとの選択肢)の多さ」なんですね。今日はサイゼリヤ、明日は違う店、という選択肢の広さそのものが豊かさにつながる。その中でより多くの人々に選ばれる店であるためには、気軽に利用できる店でなければならない。TPOSをちゃんと意識して価格をどうするか、生産性をどうするかを行っていけば、進むべき道はおのずと決まっていくと思います。

 –海外への進出、そして新業態の開発の現状や展望についてお聞かせください。

 堀埜 海外は、中国やシンガポールなどを中心に今期中に30店舗程度を計画しています。ファストフード業態はまだまだ実験段階です。スパゲティ屋(サイゼリヤ・エクスプレス)が6店と、ハンバーガー屋(イート・ラン)が1店。これらはまだ店舗を増やしていくような段階ではありません。これからどんどんテストをして、眠っているニーズをどうやって掘り起こしていけるかがポイントです。ファストフードがたたかれるポイントとして、不健康だ、ジャンクフードだ、と言われるところ。そこから脱した新業態をいかに作っていけるかが課題です。

 –中国進出は合弁会社ではなく単独資本で認可された、珍しい例として話題になりました。

 堀埜 当社が中国でどう貢献したいのか、その理念が認められたということだと思います。創業者(正垣泰彦会長)の理念は徹底している。「事業で社会貢献すること以外に何をするんだよ」と。おかしいくらい私利私欲がないんです。これを本気でやっているから僕はこの会社に来たんだと思います。

 ◆プロフィール

 ほりの・いっせい=1957年富山県出身。京都大学大学院農学研究科を修了後、味の素(株)入社。「飲食業と農業を産業として成立させたい」という正垣氏の熱意に共鳴し、2000年(株)サイゼリヤ入社。サイゼリヤオーストラリア代表取締役、サイゼリヤ取締役エンジニアリング部長などを経て、2009年4月に新社長に就任する。

 ◆企業メモ

 (株)サイゼリヤ(本社所在地=埼玉県吉川市旭2-5)設立=1973年5月/資本金=86億1250万円/従業員数=正社員1481人・準社員5998人(※2008年8月期)/店舗=769店舗(2008年8月期)/公式サイト=http://www.saizeriya.co.jp/

 ◆事業内容

 「日本を真に豊かな国にするお手伝いをする」を企業理念とし、圧倒的な低価格で高品質なイタリア料理を提供するイタリアン・チェーン・レストラン「サイゼリヤ」を展開。1973年に創業者、正垣泰彦氏(現会長)が経営する個人店舗を法人化し、チェーン展開を開始。現在は九州・四国を除く各地に769店舗を展開。2000年に東証1部上場。2003年、中国上海に海外1号店をオープン。福島県、神奈川県、埼玉県、兵庫県、そしてオーストラリアにカミッサリー、工場をもつ。

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