寒天特集

水産加工 2021.07.16
寒天特集

 伝統と先進性を併せ持つ寒天。豊富な食物繊維による健康機能の認知度拡大、物性開発の進展による新市場の開拓などで堅調な需要を維持してきたが、長引く新型コロナウイルスの感染拡大による業務用市場へのダメージが積み重なり、厳しい業況に置かれている。原料用途で大きなウエートを占めている菓子関連は、土産・贈答ニーズが停滞したまま。内食化で家庭用デザート製品などは伸びを見せているものの、業務用のマイナスを補うには及んでいない。角寒天、細寒天の伝統的な天然製造も、20~21年製造期は出だしこそ「何年かぶりの恵まれた天候」(長野県寒天水産加工業協同組合・五味徳雄組合長=当時)で順調なスタートを切ったものの、年明けの1月中旬以降は暖冬傾向で足踏み。結局、角寒天の製造量は前期を割り込む結果で終わった。
 一方で、最大のネックだった原料海藻、原藻の価格高騰には一服感が。輸入原藻(紅藻類テングサ科)の2020年平均価格は5894円で、19年平均を677円、10.3%下回った。最大産出国・モロッコの輸出規制緩和、中国産テングサの台頭に危機感を募らせた韓国産の値崩れなど、背景にはさまざまな要因が絡んでいるが、21年1~5月期も5153円とさらに下がっており、苦境の業界にわずかな安堵感をもたらしている。約350年の歴史の中で培い、新たに切り開いてきた寒天の価値は、凍結乾燥状の硬さとゼリーのような柔軟さを併せ持つ。「目先の混乱に惑わされない、“遠きをはかる”姿勢」(伊那食品工業・塚越英弘社長)で、業界はアフター・コロナに向かう構えだ。(長野支局長=西澤貴寛)