シニア世代こそ大豆ミート活用を 管理栄養士から見た新しいお肉の可能性
米国のプラントベースフード市場は2019年の55億ドルから2021年には70億ドル規模に約30%も成長しており、中でもプラントベースミートの売れ行きは大きく伸長している。食肉の供給不足、CO2排出量や水資源使用料の低下など、おいしさ、健康だけでなく、環境問題をも解決できると考えらえており、今の時代に合っていることも急成長の一因と考えられる。日本でもさまざまな大豆ミート食品が発売されるようになった。今回は九州で食育・健康サポートをしている管理栄養士の立場から、高齢者への大豆ミートの栄養的価値や食べるメリットを考察し、大豆ミートを使用したシニア向け商品の可能性を探る。
形状のバリエーションはさまざま
大豆ミートは大豆が主原料。大豆の油分を取り除き、加熱・加圧することで作られるため、肉のような見た目、食感になる。薄切りタイプ、ひき肉タイプ、ミートボールタイプ、ブロックタイプ、カレー風味など、種類もさまざまだ。
選ぶときは、原材料を確認しよう。薄切りタイプなどは、大豆タンパク、脱脂大豆+醤油、酵母エキスだが、ひき肉やミートボールタイプは植物油脂、パン粉、卵、水あめ、乳成分などを入れているものもあり、完全に植物由来の原料でない場合もある。ビーガンの人や、低糖質を意識している人はカロリーや糖質、脂肪も多くなるので注意が必要だ。
高齢者はしっかり噛めなかったりするので、薄切りやひき肉タイプが使いやすいだろう。ミートボールもしっとり軟らかいものが食べやすい。逆にドライタイプは、歯ごたえがあり、しっかり噛むことが必要なので、少量でも満足でき、ダイエット中にはおすすめだ。
高齢者の胃もたれ、便秘、骨粗しょう症予防にも
高齢者が肉の代わりに大豆ミートを食べるメリットをあげてみよう。
(1)肉類に比べて脂肪分が少なく、同じ重量でもタンパク質が多く摂取できる
高齢者は一度に食べる量が減り、タンパク質が不足しがちである。消化吸収力も落ちているので、脂肪が多いと消化に時間がかかり胃もたれの原因にもなりえる。そこで肉でなく大豆ミートを食べることで、少量でもタンパク質を効率よく摂取でき、高齢者の胃腸への負担が少なくなると考えられる。
(2)植物性食材なので、食物繊維が摂取できる
動物性の食材にはほとんど入っていないのが食物繊維。一方、大豆ミートにはしっかり食物繊維が含まれている。高齢者は腸の蠕動運動の機能が衰えたり、食事量が少ないなどが理由で、便秘に悩んでいる人がとても多く、下剤を服用している方も少なくない。食物繊維を摂取することで、便のカサが増え、余分な老廃物を外に出して腸のお掃除をしてくれる。できれば薬に頼らず、食事で便秘を改善するのが理想なので、大豆ミートを活用してほしい。
(3)大豆イソフラボン、レシチンが含まれる
大豆イソフラボンは女性ホルモンの分泌をサポートしたり、男性の薄毛予防や循環器系の疾患に有効的との研究結果がある。またレシチンには血中のコレステロールを低下させたり、記憶力、集中力の向上への効果が期待できる。年齢とともにホルモンのバランスが崩れがちになり、生活習慣病が見られようになるので、大豆ミートからこれらの成分を摂取するのは良いだろう。ただし、厚生労働省の「大豆イソフラボンの上限摂取目安量の設定まとめ」によると、大豆イソフラボンの摂取目安量の上限値は1日70〜75mgなので、大豆加工食品やサプリメントとの併用には注意が必要である。
(4)カルシウム、鉄などミネラルが含まれる
栄養素の中でも、日本人が不足しがちなミネラルが、カルシウムと鉄だ。介護が必要になる理由の第1位は、転倒・骨折。骨の成分であるカルシウムを取ることで骨粗しょう症予防になり強い骨を作ることができる。前述した大豆イソフラボンにも骨からのカルシウムの溶出を抑制するという研究結果があるので、相乗効果が期待できる。また鉄不足からくる貧血も高齢者には多い。食事量が減ったり、消化吸収機能の衰えが原因だ。大豆ミートに含まれるミネラルが高齢者に多い疾患の予防に役立つと考えられる。
軟らかく、かみやすい大豆ミートは、高齢者の食事にピッタリ
1食100kcal以下のレトルト食品「マイサイズ」シリーズ(大塚食品)はカロリーコントロールがしやすいため、糖尿病や体重が気になる人が買えるようにと薬局にもおいてある製品だ。塩分控えめで内容量もあまり多くないため、高齢者が購入する場面も多くみられる。
大豆ミートを使った<ハッシュドビーフタイプ><ビーフカレータイプ>が販売されていたので、試食してみた。まず見て驚いたのは、常温でも油脂分の固まりがない。牛肉が入っていると、動物性油脂分が溶け出し、冷めると白い粒ができるので、食感や味にも影響がある。それに対して、大豆ミート食品だとそのまま食べてもおいしく感じる。
<ハッシュドビーフタイプ>140gのうち、スライスタイプの大豆ミートが50gと結構な割合で入っている。約3cmの長方形、厚さは1mm程度で、一口サイズなのは、高齢者にはうれしい大きさだ。見た目は全く牛肉と変わらないが、かんでみると牛肉と違い筋がなく、大豆たんぱくを成形しているので軟らかくてかみやすい。
高齢者は義歯を使用したり、かむ力が低下していることが多いので、肉の筋や固い部分があると、小さくできず飲み込めないので残してしまうことも多いのだ。高齢者向けであれば、ブロックタイプは1cm角大きさ、ミートボールは通常の2分の1サイズにして、とろみをつけると食べやすく飲み込みやすい商品になる。
環境問題やサステナビリティに対する意識の高い20~30代の支持が高いとも言われている大豆ミート。大手スーパーでもさまざまな商品が並ぶようになり、シニア世代での認知度も高まっているようだ。
今回の試食で、大豆ミートは胃もたれ、便秘、嚥下機能の低下など高齢者の特有の悩みを解決する栄養素や形状であることが分かった。今後、高齢者へ向けて大豆ミートを食べるメリットを訴求し、その世代の方が食べてみたい、おいしいと感じる商品を作ることで、大豆ミート市場がさらに広がっていくと考える。(管理栄養士 大山加奈惠)