ベツレヘムの「キャラメルスシ」に見る海外の「スシ」観

海外における知名度という点において日本食の代表といえば「スシ」であるといって大きな異論は聞こえないであろう。しかし「スシ」のあり方は、日本食である本来の寿司から派生し、独自の発展を見せている。

学生に人気のカフェで見つけた甘い「スシ」メニュー

ヨルダン川西岸地域のパレスチナ領でも比較的近代的な街、ベツレヘム。イエス・キリストが生まれた街として知られており、キリスト教の巡教者をはじめ、世界中から観光客が訪れる。この小さな街で、日本では決して目にすることはないであろうメニュー「キャラメルスシ」を出すカフェを見つけた。この「スシ」からは、日本人にはない、海外ならではの「スシ」のとらえ方が見てとれる。

そのカフェは、ベツレヘムの中心市街地からはやや離れた丘の上にあった。目の前の道を下っていくとベツレヘム大学につながるという立地で、中心地ではないものの、近代的なカフェやバーなどが並ぶ通りの一角である。

ベツレヘムのカフェで見つけたキャラメルスシ

時間は平日の昼下がり。店内は授業を終えたらしき女子大学生で賑わっていた。色とりどりのヒジャブ(イスラム教の女性が頭髪を隠すため巻いている布)をまとった若い女性たちが、楽しそうにメニューを見ている様子が微笑ましい。

しかし、案内されるがままに入口近くの席に腰を下ろし、メニューを見た筆者は大変なショックを受けた。そのカフェには、アラビア語(パレスチナの公用語)のほかに英語も記載されており、メニューはほぼ全て読むことができた。にも関わらずメニューの意味を理解することが全くできなかった

アラビア語と英語で書かれたカフェメニュー

「ホットドリンク」や「ベーシッククレープ」といったメニューの下には、「スシクレープ」「シャワルマクレープ」の文字。それぞれに「ヌテラ」「ブエノ」「ロータス」「キャラメル」「ピスタチオ」「フェレロ」のバリエーションがある。

キャラメルと寿司…日本人としては、ちょっと想像がつかない、あるいは想像したくない組み合わせである。

ちなみに、シャワルマとはドネルケバブのこと。スパイシーな肉の存在感がおいしいラップサンドであり、こちらもヌテラやキャラメルが合うとは思いがたい。

せっかくの機会なのでと思い切ってキャラメルスシとブエノシャワルマを注文してみた。テーブルにやってきた実物を見て、やっと理解した。キャラメルスシとは、「スシ」の形をしたスイーツだったのである。

パレスチナでは甘いヌテラが大人気

日本人であるわれわれにとって、寿司と言われればまず思い浮かぶのは握り寿司であろう。しかし、海外においては違う。サーモンやクリームチーズ、アボカドといったカラフルな具材を酢飯で巻き、さらにサーモンやトビコで外側を飾り、マヨネーズを振りかけた巻き寿司…そう、いわゆる「カリフォルニアロール」に代表されるような、カラフルな巻物こそ、彼らにとっての「スシ」なのである。

そして、このようにカラフルで華やかな「スシ」からスイーツを連想するのは、至極自然なことかもしれない。目の前のキャラメルスシを眺めながら考えた。

長さ20cmほどの巨大なクレープ

ブエノシャワルマはシャワルマを模したクレープの中にヌテラとバナナがずっしり入ったスイーツだ。アラブ料理のシャワルマでさえこのようにアレンジされる文化性であれば、「スシ」が、日本人にとっては原型を留めていないと考えるレベルまでアレンジされているのも納得である。

隣の席で食事をしてた大学生の話では、最近、パレスチナではヌテラの人気が急上昇しており、ヌテラを使ったメニューが売りのカフェが乱立しているのだという。言われてみると、街を歩いていたも、ヌテラの写真やロゴを掲出したカフェの看板がたくさん目につくことに気づいた。

これらのカフェでは、フレッシュフルーツにヌテラをトッピングしたり、ヌテラを使ったスイーツドリンクを楽しんだりできるのだという。中でも、クレープは人気のメニューの一つ。たっぷりとヌテラをのせた、日本人にはやや胸焼けしそうなくらいの甘みが人気なのだとか。

こちらのカフェも、そのようなブームの流れを受けて新たに開店したばかりとのことだった。

モダンな雰囲気の、おしゃれな店内

クリエイティブなデコレーティングアイデアが人気の秘訣

一見するとギョッとするネーミングであったが、実際にはデコレーションが面白いクレープ専門店であった。店員に話を聞いたところ、オーナーが「他にはない変わった盛り付けにしたら面白いだろう」という発想で始めたものということ。

前述した通り、パレスチナではいまヌテラなど、海外から入ってきたスイーツを利用したクレープなどのスイーツが人気。ニーズも高いが、類似のメニューを出す店舗も乱立しており、競合も多い現状がある。そのため、新規店舗をオープンするにあたっては、他にはない特色を打ち出していく必要がある。

その点、「スシ」や「シャワルマ」といった、本来甘くない食品名を冠したメニューは、初めて見た際のインパクトと、実際に目にしたときの納得度、そして味のおいしさと、魅力ある特徴を兼ね備えていると言えよう。実際にこのもくろみは当たり、近くの大学から学生がひっきりなしに訪れているのだという。

日本人にとって、寿司といえば酢飯に生魚がのった料理。キャラメルとの組み合わせ、ましてやコメのない寿司など、なかなか持てない発想である。その点において、キャラメルやヌテラと、「スシ」や「シャワルマ」という衝撃的な組み合わせが関心をそそり、現物を前にしたときの納得感もある。パレスチナ人の想像力とアレンジ性に感服、といった一皿であった。(フードライター 加藤麻結)