おにぎりブームに見る、スマホ時代の消費者の需要変化 専門店が提供する新しさと安心感

おにぎりがブームである。おにぎりがブームである。2度書いてしまった。そのくらいある意味においてインパクトをもつ現象だ。おにぎりという地味でありながらも馴染み深いメニューがブームとは。しかし、日本の料理の原点ともいえる「おにぎり」だからこそ、日本人の食卓事情の変化や家庭の食への価値観の変動、時代の動きなどさまざまな背景を映し出すのだと思える。さらに、人気は日本ばかりでなく、海外においても「Onigiri」は人気上昇なのである。

注目のきっかけは老舗おにぎり専門店

2年ほど前からじわじわと、おにぎり専門店の出店が増加している。注目されたきっかけの一つが「おにぎり 浅草 宿六」(東京・浅草)がミシュランガイド東京2019に掲載されたことだろう。1954年創業の老舗店だが、ガイドに載ることで世界に周知される店となったのである。

老舗おにぎり専門店「おにぎり 浅草宿六」とハインツのトマトケチャップがコラボし限定販売された紅白おにぎり

それも後押しとなり、ほかの老舗有名店が再び注目を浴びている。そのひとつの店の「ぼんご」(東京・大塚)では、3~4時間待ちは当たり前の状況で、行列が連日続いている。JR大塚駅からほど近い場所にひっそりとある(今は行列が目立ち、全くひっそりではない)「ぼんご」も1960年創業なので、こちらも老舗である。そのフワッとした食感を生み出す「握らないおにぎり」として、昔から有名な店だった。

また具材の種類が豊富な点も、当初では珍しいとされてメディア出演も少なくなかった。ネット情報が普及していないころ、筆者は雑誌の小さな記事を見つけて、わざわざ食べに行ったこともあった。しかし今のように並ぶことはなかった。

片手で食べられる利便性の高いおにぎり

そもそも日本人にとっておにぎりは家庭内で作る代表的なモバイルフードだ。江戸時代の旅人の弁当は、笹の葉などで包んだおにぎりに漬物と相場が決まっていた。歴史は古い。そのためコンビニエンスストアでおにぎりが発売された当初は、「家で簡単に作れるのに、わざわざ買う人はいないだろう」という声もあった。

しかし現代まで、おにぎりはコンビニ商品の4番打者をキープしているのである。そして、いつごろからか「人の握ったおにぎりは食べられない」子どもが増加していき、その子どもも今ではすっかり親世代になっている。

ローソンの日本おこめぐりシリーズの「富山県産米富富富使用牛しぐれ煮(黒毛和牛使用)」

そんな流れを経て、いま外食産業のおにぎりが注目されている。チェーン展開している専門店も連日賑わいを見せ、「ぼんご」の系列店も行列必至だ。ブームの背景のひとつにはコロナ禍がある。テークアウト需要の高まりにより、おにぎりは持ち帰りがしやすく売上も好調だった。また、コロナ禍で一人食が増えた中で、スマホを見ながら食事を済ませる人も多く、片手で食べられるおにぎりはスマホ時代には重宝される食事となっている。

進化系おにぎりの発展と安心感

また、多様化した進化系おにぎりが出揃っている点も最近のブームを形成している。具材や調理法の多様性が見いだされたことが新たな魅力を生むとともに、各店舗のオリジナリティが出しやすくなった。

たらこや梅干、シャケなどの定番だけではなく、アボカドやチーズといったカフェ風メニューの具材から、豚の角煮や煮卵などのボリュームのある具材までさまざまなニーズにあう中身が登場。また、マヨネーズやケチャップ、バターなど西洋の調味料を使用しつつ、和テイストの具材を合わせるなど自由度が高いため、創意工夫してオリジナリティのあるおにぎりが無数に作れると周知されたのも昨今の人気のカギであろう。

お弁当・お惣菜大賞2022おにぎり部門で優秀賞を受賞した「青しそ香る鯖の塩焼きと高菜漬け」

2015年頃から広がった、サンドイッチのように具材を挟む形式の「おにぎらず」が、SNSを中心に話題になったこともおにぎりの進化を高めたきっかけと考える。実際、今も具材と調理法、形状などに新しさを見出し、SNS映えする見た目や新たな食感、パッケージが楽しめるものが増えている。さらに、奇しくもコロナ禍において家電の炊飯器の売上が好調で、コメのおいしさにこだわる人が増えたことも要因にあると考える。

さらに、コメと海苔と塩というシンプルで日本人に馴染むベースの料理が、不安定な時代に安心感をもたらしているのではないだろうか。「作るおにぎり」から「買うおにぎり」に変化したからこそ、温かみのある料理を食べたいという欲求が、専門店へ足を運ばせていると考えられる。

消費者は、自身では作りにくい進化した具材や食感に新しさを見出しつつ、安堵感も求めている。ソウルフードでありながら、おにぎりのポテンシャルは高く、提供する店側にとっても、まだまだ伸びしろがある。

次回の続編では、店舗側そして外国人からみたおにぎりの可能性やコメの消費について書きたい。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)