コロナ禍でイタリアの青空マーケットが再評価 新鮮で安心な食材とエコスタイル

イタリアの街には、各地区ごとに必ず公営の市場がある。街の中にある指定の広場や通りに、毎日朝早くから店舗ごとに新鮮な食材がきれいに並べられ、午後2時ごろにはすっかりきれいに後片付けして店じまいをする青空マーケットが主流。最近では共働き家庭も増えたので、営業時間が遅くまでやっているスーパーマーケットの人気に押されていたが、新型コロナウイルスの影響で市場の良さが見直されているようだ。今回はイタリアの市場事情についてご紹介しよう。

街の真ん中にある便利なオープンマーケット

大型スーパーやショッピングセンターの進出で昔ながらの小売店が姿をしていているというのは、イタリアでも日本と同様の傾向だ。イタリアの街作りの特徴である伝統的な公営市場も現在の買い物客の多くは高齢者だけだったり、またはローマのカンポ・ディ・フィオリ市場のような観光客向けとなっている。

ところが、新型コロナウイルスの感染拡大にともなうロックダウンで、伝統的な公営市場が再注目されることとなった。唯一許されていた食材などの買い物のために、意外にも多くの人が市場の前で長い行列を作っていたのである。

オープンマーケットの屋台

イタリアでは都市計画として街には必ず市場がある。広場や通りだったりするのだが、多くの市民が歩いて行ける便利な場所に、基本的に平日午前7時ごろから午後2時まで屋台営業するオープンマーケットだ。最近では大型の建物に入った大きな市場もあるが、基本的にオープンな構造である。

今回のような非常事態では、公営市場が多くの人が自宅歩いて行ける便利な場所にあること、密閉空間ではないという点が大きなポイントだったのであろう。市場側でも入り口と出口をわけ、入場制限を行うなどして密集を防ぎ、店舗ごとに一度に一人ずつという対応で、見事3密を避けることができた。

色とりどりの新鮮食材が並ぶ市場の店先

昔と変わらないスタイルを守り続け

最近少し廃れ気味だったとはいえ、イタリアの公営市場が昔からのスタイルを守り続けている点も、今回の高評価につながったようだ。

市場に並ぶ食材は地元の新鮮なものが多い。値段はスーパーで買うより高いといわれるほどだが、市場の商店主たちは「スーパーなんかで売っている商品とは全然違っておいしいよ!」とか、「ちゃんとイタリアの地元のものだよ。安心しな」などと誇り、差別化を続けてきた。

そして、こういう店主たちとのやり取りも市場ならではのもの。同じところに長く住んでいるので、筆者にも馴染みの店主たちがいる。近所の友人にいたっては親の代から2代目の付き合いだとか。今の時代になくなりつつあるものが健在だというのは、何ともいえない安心感がある。  

ローマで一番大きい公営市場の中にある八百屋。1962年創業とある(今年2月撮影)

ほとんど量り売りなのはイタリアのスーパーマーケットでは同じだか、商店主がそれぞれ量って、紙袋などに入れてくれる。驚いたのは卵を買ったとき。包装紙でくるりとくるんだだけである。家にたどり着くまでに壊れるんじゃないかと思ったが、商店主がいうとおり、ちゃんと平飼いされた鶏の卵は殻もしっかりとしているので無事なのだ。卵用のパックを家から持参してくる人も見たことがある。ものすごくエコロジーなのである。

普段は忙しくて市場に行けないが、今回のように、思いがけず時間ができた時に昔から変わらぬ市場へ足が向かった人が多かったのは、3密を避けるという以外にも、多くの理由があったのだ。

週末はファーマーズマーケットが人気

ここ数年、イタリアでは生産者組合(cordiretti)によるファーマーズマーケットが盛り上がりを見せてきた。これは、日曜日は営業しない公営市場に対して、週末のみ営業する生産者による市場である。街の中の広場ではなく、公園や倉庫のような場所で開かれていることが多い。

ファーマーズマーケットは「CAMPAGNA AMICA」という黄色のロゴが目印。イタリア全土に展開していて、自慢の商品が試食できるのも魅力の一つ

このマーケットの魅力は、何といっても品質の良さ。生産者自ら販売しているだけあって顔が見えるという安心感のほか、有機栽培などのこだわりの製品が多いという特徴がある。こちらも普通のスーパーと比べてぐんと割高だが、それでも、年々利用者が増えているという。しかも、利用者は観光客よりもイタリアの一般市民が大半である。

新型コロナウイルスによるロックダウン期間は街から街への移動が制限されていたため、近郊の村から出向いて営業するファーマーズマーケットは休業していた。外出制限が解除され、再オープンされるとさっそく大勢の人で賑わっているという。

近年、街のいたるところにスーパーマーケットができて市場の利用者が減っているというが、やはり、市場の人気は健在だ。イタリアは美食の国といわれるが、普通の人々の食に対する関心の高さによって支えられている。EU(欧州連合)の中で決して豊かな国ではないが、食に関して値段よりも品質を重視する風潮が残っているのだ。どんなに食のグローバリゼーションが進んでいても、根っこのところでは保守的な国だと、あらためて考えさせられた。(フードライター 鈴木奈保子)