観光立国イタリアのレストランはメニューに原材料をきっちり表示
日本を旅行したイタリア人から「日本のレストランには食品サンプルはあるが、英語メニューはないし、実際に使われている材料がよくわからずに困った」という声を聞くことがある。一方、イタリアでは年々増加している食物アレルギー疾患のある人やベジタリアンなどにも配慮し、食の安全を守るため詳細な情報を提供することが義務付けられている。特に、メニューに原材料を一つひとつ表記しているのが特徴である。
EUで定められている14のアレルギー誘発物質の表示を義務付け
観光立国イタリアのレストランでは、欧州連合(EU)の食品表示に関する規則に基づいて、アレルギーに関するメニュー表示が2014年12月から義務付けられている。レストランやピザ屋などだけではなく、バル、ファストフード、ケーキ屋やパン屋、精肉店などでも同様である。
欧州連合でアレルギー誘発物質と定められている14品目は以下のとおり。
- 小麦などのグルテンを含む穀類
- 甲殻類
- 卵
- 魚
- ピーナッツ
- 大豆
- 乳製品
- ナッツ類
- セロリ
- マスタード
- ゴマ
- 10mg/Kgまたは10ml/L以上の無水硫酸と亜硫酸塩
- ルピナス(ウチワ豆)
- タコ、イカ、貝類などの軟体動物
一方、日本ではアレルギーの誘発物質として7品目が特定原材料に、21品目が表示推奨である。
日本の特定原材料には指定されていないが和食に多用される大豆とゴマが、EUでは表示義務食品である。日本では、大豆は豆腐や納豆、油揚げなど形を変えて多く使用されるし、ゴマも風味づけに好んで使われており、欧米人にとっては配慮が必要であると考えられる。
また、魚介類にも注意が必要である、日本では甲殻類のみ特定原材料であるが、シェルフィッシュアレルギーというと、イカやタコ、貝類の軟体動物も含むのである。日本では、あくまで表示推奨であるが、欧米では魚介類はアレルギー体質の人も多い。
このほか、日本ではあまりなじみがないセロリやマスタードについては、表示推奨もされていない。
菜食主義や宗教にも配慮
また、ここ数年、欧米では菜食主義者が増加している。菜食主義はアレルギーとは異なり、動物愛護や健康のためにという主義主張のある人々。イタリアでは、菜食主義者のためのレストランやメニューも増えている。
菜食主義と言っても、大きく分けて卵と乳製品のみ大丈夫というベジタリアン、そして動物性由来の食べ物は一切口にしないビーガンに分かれる。また、肉以外なら魚や卵、乳製品は食べるぺスカタリアンという菜食主義者もいるので、それぞれに対応した表示がある。
例えば、日本人にとってなじみの深い鰹節のだしは、ベジタリアンやビーガンにとっては動物性由来の食品なので食べられない。
宗教上の理由も、アレルギーではなく信仰上のものであるため、身体の安全には問題がない。しかし、知らずに食べた場合、精神的に大きな苦痛を与えることになるので配慮が必要である。
イタリアはカトリックの国であるが、中近東やアフリカからのイスラム教徒の移民も多い。彼らは、イスラム教の特殊な処理方法であるハラールを施した牛肉や羊肉、鶏肉は食べられるが、豚肉は食べられない。また、アルコールも禁止されている。
このほか、イタリアには多くのユダヤ人が居住していて、ユダヤ教に基づいた料理を提供するユダヤレストラン、コシェール(KOSHER)もある。ユダヤ教では、豚肉や甲殻類、イカやタコなどの軟体動物が食べられないほか、肉類などの屠殺方法にも細かい規定があり、厳格に守られている。
豚肉には、ベーコンやハム類、ラードを使用した菓子類も含まれる。
観光地には英語のメニューも
イタリアの大都市や観光地にあるレストランでは、イタリア語だけではなく、外国人用に英語のメニューを用意しているところがほとんどである。英語だけではなく、ドイツ語、フランス語、スペイン語などもよく見かける。
日本語メニューを用意しているレストランには、多くの日本人観光客が集まっているのを見かけると、やはり自国の言葉で理解できるメニューは必須である。
国際化が進む中、安心して食事を楽しんでもらうためには、メニューでの詳細な原材料表示が欠かせない時代になってきているのである。(フードライター 鈴木奈保子)