パルマ産の生ハムに学ぶブランド戦略 日本で成功した理由は
日本でも人気の生ハム。特にパルマ産は高級な生ハムとして知られている。イタリア産の中でもパルマ産という商標は、欧州連合(EU)の地理的表示保護制度に基づいて、パルマハム協会に属した生産者のみが使用できるブランド商品だからである。外国製品として、日本の地理的表示(GI)保護制度にも最初に登録し、他の商品との差別化を進めるパルマ産生ハムについて、EUの地理的表示保護制度と合わせて紹介する。
日本の地理的表示(GI)保護制度にいち早く登録
紀元前5世紀ごろには、すでに古代ローマ人も食べていたという生ハム。豚肉を塩漬けにして乾燥させた保存食である。そのためイタリア各地には、それぞれの伝統製法の生ハムが多く存在している。その中でも日本で有名なのはパルマの生ハムであろう。
インターネットで検索すると、「世界の3大生ハムのひとつ」という説明まででてくるぐらいだ。だが実際には、イタリアでそんなことは聞いたことがない。他にもサンダニエレ産など、パルマ産と同様、またはそれ以上に名高いものも多数ある。
パルマ産がこれほど日本で有名なのは、日本へ輸出を始めたのが1996年とほかと比べて長い実績があることに加え、2007年には日本で有効な商標登録を行い、さらに日本初のGI保護制度にも国外の商品として最初に登録したほど、商標を重視するブランド戦略の効果であると考えられる。
イタリア国内でも数年前、「生ハムじゃないよ、パルマハムだよ」というCMを打ち出したほど、パルマ産という商標に関するこだわりが感じられる。
パルマハム協会の厳しい検査をパス
では、パルマハムはどういう生ハムなのか? まずパルマとは、イタリア北部エミリア・ロマーニャ州のパルマ県のことである。パルマは、イタリアチーズの王様として名高いパルミジャーノ・レッジャーノの産地でもあり、2015年にはユネスコの美食創造都市の登録を受けているほど、伝統的に食の街として世界中に知られている。
そして、パルマハムという王冠のトレードマークをつけて販売できるのは、1963年結成のパルマハム協会に属している約140の生産者に限られる。しかも、協会の規定どおりの製法を守り、協会の厳しい検査をパスすることが求められる。
協会の規定では、原料の豚の品種も規定されていて、気候が生育に適していると定められたエリアで、厳選された自然の飼料を与えて育てられる。パルミジャーノ・レッジャーノチーズの製造過程で生じるホエーも与えることが決められていて、これが独特のうま味を生む。こうして最低9ヵ月育成し、約160kgになった健康な豚のみを原料とするのである。
製法に関しても、化学物質や保存材などの添加物を一切使用せずに、昔ながらの伝統的な製法で、最初の塩漬けから最低1年間熟成させる。パルマ地方の気候は、少量の塩でもうまく乾燥するのに適していて、そのため、ほかの生ハムと比べて塩辛くない。パルマハム協会の生ハムといえば、イタリアでは優しい味を保証するものである。
イタリアのご当地認証制度、DOPとIGPとは?
パルマハムと名乗るためには、まずパルマハム協会、イタリア、EUの厳しい食品検査に合格したDOP(原産地名称保護制度)認証を受ける必要がある。
日本ではここまで厳しいDOP認証について詳しく知られていないが、パルマ産という名称は有名であり、普通のものよりもかなり高額で販売されている。そのため、時々DOP認証については触れず、産地がパルマ産であると大きく記載している商品も見かける。パルマハムのDOP認証について中途半端な知識を持つ消費者に、誤認を与える場合も生じるであろう。
イタリアにはこのようなDOP指定の生ハムが合計8種類ある。産地の場所だけが重要なのではなく、それぞれの地方ごとの伝統や製法に基づいて、初めてその名称を名乗ることができる。
このほかにも、IGP(地理的表示保護)に指定されている生ハムが3種類。IGPは、DOPに比べると指定地域が広く、規定も少し緩いが、こちらもEUの承認が必要である。
これらDOP、IGPは、生ハムやワイン、チーズ、オリーブオイルなどだけではなく、トマトやレモンなどの生鮮食料品に至るまで、幅広く農産物や食品の名称を保護するものである。これは食品の安全や品質を保証すると同時に、生産者も保護することを意味している。
1992年、EU加盟国全体で施行された食品法であるが、登録数はイタリアが最多で、年々、登録数が増えている。
生ハムという馴染みがなかった食品分野で、品質認証により日本でいち早くブランド化に成功したパルマハム。日本は米国に次いで輸出量が多く、右肩上がりだという。日EUの経済連携協定により、期待度が高い食品分野の中でも特にハム類は、イタリア産、スペイン産、多くが参入してきている。今後の動向に注目したい。(フードライター 鈴木奈保子)