外国人労働者にチャーター機も コロナ禍で浮き彫りになったイタリア農業の問題点

美食の国、そして農業国として知られるイタリア。食料自給率も高く、今回の新型コロナウイルスによるロックダウンでも、食料に関しては問題がないと政府も繰り返していたほどだが、期間が長引くにつれてイタリアの農業の現実が浮き彫りになった。実際の農業の働き手はイタリア人ではなく外国人労働者だったのである。今回、出入国の制限で収穫不可能な状態へ追い込まれ、最終的にはチャーター機で労働者を呼び寄せた経緯について紹介する。

世界の高級食材マーケットで重要な位置を占めているイタリア

イタリアという国の一般的なイメージとはなんだろうか? 数多くの世界遺産の観光地、グッチやプラダなどのブランド、そして世界中の人気を博すイタリア料理。歴史的に、おいしく食べることにあくなき情熱を傾けてきたイタリアは、今世紀に入ってますます世界の高級食材マーケットで重要な位置を占めている。

イタリア産の人気の高級食材が並ぶ食料品店

イタリアが誇るトリュフ、ワイン、オリーブオイル、生ハム、チーズ類だけでなく、野菜や果物などの生鮮食料品においても、DOP(原産地名称保護)を活用し、世界中にマーケットを広げている。DOPとは各地域の特産品に価値を付け加えるイタリアの農業法のことだ。注目のオーガニック市場にも積極的に進出し、食材の高級化を図っている。

テレビや雑誌などでもたびたび農業関係の特集が組まれ、よりよい食材を生み出すために工夫や努力を重ねる生産者の姿をひんぱんに目にする。市場だけではなくスーパーでも、大部分はイタリア産の食材だ。イタリアでは日常的に地産地消が行なわれ、国産食材を選ぶことができる生活を享受している。

シチリア産のミニトマト。イタリアのIGP(地理的表示保護)の認定マーク付き

ロックダウンで果物も野菜も収穫できず

ヨーロッパの中で最初にロックダウンを決行したほど、新型コロナウイルスで多くの犠牲者を出したイタリアでは、市民の外出が大きく制限された。多くの業界が休業をやむなくされ、医療従事者などエッセンシャルワーカーの外出のほかは、健康に関すること、食料を含む必需品の買い物のみが許されることとなった。

毎回テレビでの会見で、コンテ首相による「食料は絶対に供給がストップすることはないから安心するように」とのコメントが繰り返され、食料自給率の高さがアピールされた。しかも、国外との物流までほぼ停止したため、この時期イタリア産よりも先に市場に出回るスペイン産のイチゴなどの果物が入荷せず、イタリア産の農産物のみが店頭に並べられるようになった。

ところが、ロックダウンが長引くにつれ、農業関係者から収穫を懸念する声が上がるようになってきた。イタリアの大地にはアスパラガスやイチゴも十分に熟しているのに、収穫が追い付かない。それは、ルーマニアをはじめとする外国人の季節労働者が入国できないことによる。

イタリアで流通しているイタリア産の農産物は、外国人労働者によって担われていたからだ。

手入れが必要な4月のブドウ畑

外国人労働者が頼みの綱

イタリアの農業生産者組合Coldirettiによると、毎年、約37万人の外国人が正規季節労働者としてイタリアの農業に従事する。一番多いのは10万人を超えるルーマニア人で、ほかにモロッコ人、インド人、アルバニア人、セネガル人、ポーランド人とさまざまな国の人たちが春になると来伊し、冬の間は自国へ戻るのだ。

イタリアだけではなく、その他の西欧先進諸国も同様である。今回、農産物の収穫に問題を来した英国政府が、まず4月の中旬にロックダウンしたにもかかわらず、季節労働者を迎えるためにチャーター機をブカレストへ飛ばし、ドイツもそれに続いた。

英国やドイツと異なりイタリア政府の対応はかなり遅れ、5月下旬になってからようやくチャーター機を飛ばすことができた。しかし、政府の対応の前に農業生産者たちがモロッコやインドから自費で労働者を呼び寄せたほど、事態は緊迫していたのである。

食料の自給率は高くても、外国に労働を頼っていたことから生じた問題なのだ。現在、新型コロナウイルスによって失業や休業を余儀なくされたイタリア人たちへ農業への参画が推奨されているが、見通しは厳しい。秋以降に予想される新型コロナウイルスの第二波を前に、早急に解決すべき深刻な課題として残されている。(フードライター 鈴木奈保子)

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