海苔特集

◆海苔特集:半世紀ぶりの不作も大きな混乱見られず 価値販売へ潮目変化

水産加工 2019.06.14 11892号 08面
量販店の売場。3切のおにぎり用と10切大容量PETが今の主流

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もらい手視点でギフトも変化、8切詰め合わせが増えた

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CVSをはじめとした惣菜のおむすびが最大構成比、市場を底支えする

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 今年の海苔の国内生産は記録的な不作だった。減産は約半世紀、原料高も40年ぶりと異常事態。ただし、近年の減産傾向から予見でき流通と消費の大きな混乱は見られなかった。主な消費ルートは確定し、増加する輸入海苔の生産は安定。昨年からは国内市場の単価・価値向上も顕在化してきた。残る拡大市場は海外に絞られ、各社の調達・マーケティング力が問われる。(海野裕之、徳永清誠、堀江勝、吉岡勇樹)

 2018年度(18年11月~19年5月)の国内生産は前年比約16%減の63億7000万枚となり、1972年以来47年ぶりの減産量で着地した。全形1枚当たりの平均価格は13円04銭と前年比1円16銭上昇。80年来39年ぶりの高値更新となった。主産地の佐賀・福岡有明、兵庫をはじめ、各地で減少して半世紀ぶりの凶作を余儀なくされた。

 国内の実需要は80億枚ほどとみられ、過去10年で上回ったのは4年だけ。20年前までは100億枚取れていただけに、減少傾向は明らか。生産者の減少と温暖化を主因に縮小に歯止めがかからない。

 海苔養殖の経営体数はピーク時の1割以下。漁船や網、1次乾燥機など初期投資が大きく、寒い海での難業を継がせたくないという漁師が多い。相場高による収入増も、今までの借金を返して廃業する生産者が大勢。メーンの佐賀でも毎年数十人が漁を辞めるといい、和食文化を支える事業継承が果たされていないのが実情だ。

 前漁期は前年の厳冬から一転して暖かく、海水温が高すぎた。長期での気温上昇は気象庁統計などから明示。低気温は一昨年が例外となり、農水産物産地の北上が言いはやされて久しい。海苔も毎年の高水温が影響して生育が進まない。育成期間は年々短縮。気温上昇は魚や鳥による食害を呼び、さらなる労苦や生産減を招いている。

 記録的な凶作と原料高となったが、仕入れと消費に大きな混乱は見られなかった。一昨年の16年度まで史上類を見ない4年連続の相場高を受けて、業界全体で商品改定を推進。事業存続に関わると徹底され、業務・家庭用で減量、品揃えの集約が急速に進められた。ふたを開けてみれば、超高齢・小世帯化の現代ニーズに合い、適量提案が浸透。価値・収益向上とともに使用・消費減が促され、極端な在庫不足が防げた。

 実需80億枚のうち、最大構成比を占めるのが惣菜おむすび。大手CVS3社で販売量は40億個に上るとみられ、半裁の海苔使用料は20億枚。ほかのメーンユースは少量安定のギフト向けが5億枚、CVS・ギフト以下の品質となる一般業務・家庭用30億枚、堅調な輸入韓国海苔10億枚。合計65億枚は用途が明確で消費も底堅く、仕入れ等級や購入時期は大きくは変わらない。韓国のほか、4億枚弱とみられる中国からの輸入枠も毎年純増。残る市場在庫15億枚を、国内繰り越し分とともに補っている。

 一般業務・家庭向け相場は下物が底支えし、原料価格は高止まり。以前は1枚当たりの平均価格は最低の3円推移だったが、減産傾向とともに上昇。一時は10円以上まで高騰したが、前期は7円程度。国産黒海苔と代替する、韓国・中国産板海苔が増枠し、安定供給を果たしている。

 国内消費を担う惣菜のおむすびだが、大手3社の販売実績は前期も順調とみられる。100均販売が常態化して定着し、原料・地域・健康志向といった高級化も浸透。手巻きやほか小売も含めて消費量は全体の4割に迫る。最大手は高品質な原料仕入れに徹して相場を底上げ。生産量や漁場、食文化の維持をけん引している。

 CVSへの納価は相場連動だが、絶え間ない設備投資による製造の高速・安定化を果たしても、利益率は1%ほどという。人手不足などによる生産・物流コストの上昇もあって、近年は納入価格の改善も認められ、流通・製造サイドでは業界存続の道筋も見えてきた。CVS向け仕入れは資金・製造力のある大手メーカーに絞られ、新参入や価格競争は皆無。最近では既存店売上げの減速や出店縮小、深夜と廃棄ロスの見直しなど、業態そのものも成熟してきた。品質以外の訴求法が増える可能性もあり、圧倒的なバイイングパワーとの粘り強い交渉が、今後も引き続き求められる。

 国内市場の好材料が一般家庭用で顕著な単価アップ。直近の年間平均単価はPOS上でも前年比20円上がった。値上げと同時にダウンサイズも進んだが、人口減が始まった現代では、適量と評価されている。下物相場の高値安定によって劣化品の廉価販売も少なくなり、品質本位の商品展開が進む。

 末端市場での価格・価値向上を促したのが、昨年活発だったTV中心の情報露出。特に人気講師の林修氏が18年7月、情報番組で海苔の高栄養を紹介して以来、主要メーカーの業績は好況が続く。話題の葉酸による抗糖化を伝え、栄養摂取には味噌汁と好相性と提案するなど、日常食の健康価値を訴求。毎年の値上げ、改定報道も多い。身近な伝統食品だけに低い消費意識を高めるのに役立った。

 海苔は健康栄養成分に富むが、本来はカロリー僅少な嗜好(しこう)品。不作による希少性も深め、従来より少々高くてもおいしく、健康的なら店頭で回転する。そうした自信を流通・製造業がともに深める1年にもなった。

 市場トレンドも明確。即食できるおむすびが人気なように時短ニース、消費の二極化が明らか。以前はおむすび、手巻き用に全形、味付けは茶わん向きの8切中心だったが、全形需要は3切のおむすび専用に移った。味付けは10切中心の大容量・卓上PETにシフト。スナック消費も徐々に浸透しているようだ。大量・徳用品には韓国・中国産商材が支持され、実用でのすみ分けも着実に進んでいる。

 海外では寿司や細巻き、おむすびを代表格にした、和食ブームが定着。日本食レストランや回転・持ち帰り寿司、CVSのおむすびが成長して需要が毎年増えている。

 近年は中国のほか、アジアや欧米でのスナック消費が急増。韓国の味付け海苔が広く普及し、さらに海苔サンドが欧米でも健康菓子として人気となっている。海苔サンドはもともと国内贈答大手による素材を海苔ではさんで焼く商品から始まった。現在は世界へ普及。ポテトチップスなど既存スナックの健康的な代替品として、認知度と価値を高めている。

 海外生産は今年、韓国が前年比微増の170億枚超。産量は伝統的な味付け、バラ干しのジャバン、黒海苔のスサビに3分。韓国海苔は国を挙げての輸出強化のフラッグシップとされ、品種改良などの技術革新が進む。今年も例年通りの豊作で価格も安定し、旺盛な世界需要に応えている。

 中国は前年の大幅増から一転して平年作の42億枚。相場は2桁増となって今年は価格・品質で韓国に劣った。内需は海苔サンドで拡大し、新興企業も多い菓子メーカーの事業規模が年々増大。世界市場のリード役になりつつある。

 国内は人口減の超高齢・小世帯化で今後の縮小が確実。残る成長市場は海外に限られ、国内も減産傾向が明示されて、低価格の大量販売を脱しそうだ。葉酸をはじめとした高い健康栄養成分、即食でき、食材が巻けるという機能性を誇りに世界市場に挑みたい。

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