カフェ特集:外食チェーン業の経営動向 カフェ業態目指す外食チェーンたち
政府の発表によれば、個人消費の拡大などによる現在の景気回復動向は、戦後最長であった「いざなぎ景気」を超えたとの判断が示されており、一般企業の経営環境は改善されつつあるという認識が高まっている。しかし、外食の市場規模は年々縮小を続けたままで、特に外食チェーンの経営に関しては相変わらず厳しい状況が続いていると言えるだろう。
本稿執筆時点における直近の2006年10月の日本フードサービス協会調査データによれば、協会加盟店舗全体の売上高前年比率は102・2%であり、2年前の2004年10月の102・4%と変化していない。また、同データの既存店売上高前年比も99・1%と、2年前の98・5%に比べてほとんど改善が見られず前年を割り込んでいる状態だ。
◆外食チェーンの切り札 その業態は「カフェ」
外食チェーン各社はこれまでの業態にかわって大きく展開できる有望な新業態、新コンセプトの開発に余念がない。近年、このような新業態の開発には専門の店舗プロデュース会社がかかわって店舗デザインからメニュー企画までを行うというケースが増えているが、そうした手法的な方法論とは別に、近年の外食チェーンの新業態や新商品の動向全体を俯瞰(ふかん)してみると、ひとつの大きな方向性を示すキーワードが見えてくる。
そのキーワードとは「カフェ」だ。ここ数年のチェーン各社の新業態のコンセプト、店舗デザインのスタイル、あるいは新メニュー、企画メニューなどの多くに表れているのは、2000年をピークに日本の外食業界で圧倒的なブームを巻き起こし、その後も外食ユーザーのあいだで人気カテゴリーとして定着した感のある「カフェ」のスタイルなのである。
その第一歩となったのは、従来のファミリーユースのファストフード(FFS)業態を脱皮し、若者を中心ターゲットにとらえて改革の道を走る日本マクドナルドの「マックカフェ」であろう。
マックカフェの第1号店は、1998年に東京・渋谷の恵比寿ガーデンプレイス内にあった既存店の一部を改装するかたちでオープンした。セルフサービス式の喫茶店というスタイルとして、アラビカ豆を使用してエスプレッソマシンで抽出したエスプレッソコーヒーやカフェラテなどを提供。ハンバーガー類はなく、サラダやマフィン、ケーキなどのフードメニューを売り物にしたが、あくまでも大型既存店の店内の一部を活用した実験的な店舗であり、従来の顧客からは客席のコーナーのひとつとしてしか認識されていなかったようだ。
◆店舗デザインにハイグレード感
その後、2000年には初の独立型マックカフェを出店。続けて店名にマックカフェを冠した店舗が数店舗展開される。このマックカフェのコンセプト自体は日本だけのものではなく、世界的に展開されたマクドナルドの新コンセプトの一環だった。近年では、既存店のリニューアル時にも店舗の内外装を中心にカフェスタイルのデザインが導入され、ヒットメニューとなったサラダマックなどと併せて、カフェの雰囲気を持ったFFS店として、女性客や若者の人気を集めている。
また、既存の外食チェーン企業が打ち出したカフェの新コンセプトのうち、最も主流となっているのがドトールコーヒーが展開する「エクセルシオールカフェ」のスタイルだ。こちらも、すでに1999年には東京・芝浦に1号店を出店。それまで同社はセルフサービスの喫茶業態を「コーヒーショップ」と呼んでいたが、スターバックスなどの外資系カフェチェーンに対抗するため、よりハイグレードな業態として打ち出したのがこのエクセルシオールカフェであり、店舗のデザインから家具などの内装環境や直火ローストのコーヒー豆、コーヒーショップ業態よりもグレードの高いパニーニなどのフードメニューによって、現在では全国で150店舗以上を展開する同社の主力業態のひとつに成長している。
◆さまざまな「カフェ」スタイルを導入する
前述したエクセルシオールカフェと同様のスタイルは、ほかにも同種の喫茶店チェーンであるシャノアールの「カフェ・ベローチェ」やルノアールの「ニューヨーカーズカフェ」、珈琲館の「カフェ・ディ・エスプレッソ」などといったように多くの企業に取り入れられている。
◆FFS・FR系も急ピッチ
またハンバーガー系のFFSチェーンにおいても、サントリー系列の「ファーストキッチン」は一時期、カフェのデザインを取り入れた店舗を出店していたし、昨年ロゴマークを一新し「新生ロッテリア」の宣言を掲げた「ロッテリア」では、ドリンク商品の中にエスプレッソマシンを使った「挽きたてコーヒー」や「カフェモカ」「チャイラテ」「ハーブティー」といったカフェで人気の高いメニューが導入されている。
さらに、こうしたFFS系業態だけではなく、多くのファミリーレストラン(FR)もまた、近年はカフェのスタイルに歩み寄るメニュー商品や店舗デザインの導入を打ち出している。
大手チェーンの「ロイヤルホスト」では、2005年から料理を中心とした女性向けの情報誌オレンジページとのタイアップで「コラボレーションメニュー」と題した期間限定の企画メニューの提供を続けている。昨年の12月には、その第7弾がスタートしたが、この企画メニューの多くはワンプレート料理や雑穀を使用したご飯、和食や洋食とアジア料理などを組み合わせたフュージョン料理など「カフェ」で人気の高いスタイルの料理を取り入れたものだ。
◆ソファ式のイスとテーブル
流通大手のセブン&ワイ・ホールディングス系列である「デニーズ」でも、一昨年ごろから従来のFRチェーンの多くで内装の定番であった固定式のボックスシートを廃して、ソファ式のイスとテーブルがともに置き型となったカフェ風のインテリアを取り入れた新店がオープンしている。さらに雑穀を使った料理やプリフィクス型の食事セット、サイト上でも「ワインに合う料理」のコンセプトを打ち出すなど、カフェで人気のアイテムが目立つ。
そして、かねてから情報をあまり一般に公開せず実験店を営業することで有名なFRチェーン最大手の「すかいらーく」も、中華の主力業態である「バーミヤン」をひそかにリニューアルし、「NEXTバーミヤン」と名付けた中華カフェ風の新業態の実験をスタートさせていた。
◆店舗の内外装や雰囲気すべて一新
既存店の内外装の雰囲気を変更し、店内の家具は籐製のイスなどに替え、ロゴマークも新しくするなどといった店舗デザインのリニューアルはもとより、メニュー全体を大きく変更して「松茸と銀杏の中華おこわ」のようなカフェスタイルを取り入れた和食と中華のフュージョン料理を打ち出したり、食器も角皿などのスタイリッシュなタイプを導入、そしてFR定番の大判メニューブックを小振りな写真アルバム風の冊子形式に替えるなど、大胆な変身で周辺住民を驚かせている(現在も継続中かどうかは不明)。
極め付きは、FRの中堅チェーンであるサンデーサンが展開するパスタ&ピッツァ業態「ジョリーパスタ」の新業態「ジョリーピアット」だ。既存店の小さめな店舗建物を最大限に活用し、テーマカラーを白と淡いグリーンに変更。店内はナチュラルなウッド素材を生かしてカウチ風のコーナーソファなども配置し、レジカウンターと一続きになったL字形のバーカウンターや、高級音響メーカーBOSE製のスピーカーを設置。メニューには有機栽培コーヒーやプレミアムビール、ワイン、カクテルなどを投入している。
髪を染めた長髪やソフトモヒカンといった今風の若いスタッフがフレンドリーな接客を行い、店外のテラス席ではペット連れのお客も利用できるなど、まさに現代のカフェそのものの営業を行っているのである。この店の第1号店は、埼玉県の朝霞市にある朝霞台店だが、隣接するライバルの大手FR店舗とはまったく異なり、近隣の若い主婦層やシニア夫婦連れなどが平日の昼間から満足げに利用している姿が印象的だ。
◆都市部中心に拡大する「カフェ」のスタイル トレンドはフード重視した癒やし系
わが国で「カフェ」という言葉が外食トレンドの主流となったのは、今世紀に入った2000年を過ぎてからのことである。しかし、「カフェ」という言葉がまだ多くの外食業界人からトレンドキーワードとして認知されていなかった1990年代の後半から、現在のカフェの隆盛の兆しは始まっていた。
その発端となったチェーンのひとつである「スターバックスコーヒー」の銀座1号店が開店したのが1996年。そして、97年には東京・世田谷の駒沢公園に出現した「バワリー・キッチン」という小さなカフェに、いつしかお客が行列をつくるようになっていたのだ。
多くの外食チェーン企業がまだそうした現象を気にも留めないうちに、「カフェ」は都市部を中心としてジワジワと広がっていた。97年の暮れには、東京・青山の表参道近くに「ニューズ・デリ」の1号店が開業、98年には東京・渋谷に「デザート・カンパニー」が開店した。こうした中で、カフェは単なる喫茶店ではなく、いわゆる「カフェご飯」という言葉に象徴される「フードを重視したカフェ(タイプの飲食店)」という現在のスタイルが出来上がったのである。
99年、東京・恵比寿のビル9階にオープンした「ヌフ・カフェ」は、店内に中古の家具を配置するなど、「癒やし系」という時代のキーワードをそのまま体現したかのような、経営者や従業員の生活感覚あふれる飲食店として話題を呼び、その後に開業する多くのカフェに影響を与えた。
ミレニアムに湧いた2001年。「カフェ」と呼ばれる飲食店は、首都圏のみならず全国各地に雨後のタケノコのごとく現れ、さすがにこうした現象を無視できなくなった業界メディアによって、「カフェ」の名を冠した業界誌がいくつも創刊されるまでになったことは周知の通りだ。
そして近年では、03年に東京・青山にオープンした自然食をテーマにする「ブラウンライス・カフェ」が、マクロビオテックやロハスなどといった健康的なライフスタイルを志向する女性たちに評価され、商品のコンセプトをハッキリと打ち出した新しいスタイルのカフェとして、話題性だけではなく現実にも大きな人気を集めるまでになった。
05年の暮れになると、ベンチャー型の経営と駅ナカなどへの展開で話題のスープ専門店チェーン「スープストックトーキョー」が、新業態である「スープストックトーキョー・カフェ」を地下鉄表参道駅構内の商業施設「エチカ」に出店している。
近年の外食ベンチャー企業としては、明確なコンセプトと独自の商品で高い評価を得ていた同社がカフェ業態に乗り出したことで、こうした外食チェーンの「カフェ志向」は、単なる雰囲気だけのブームに終わらない大きなトレンドの様相を呈し始めたと言えるのではないだろうか。
(商業環境研究所所長・入江直之氏)