酒類流通の未来を探る
酒類流通の未来を探る:コロナ禍で環境一変 業務用の需要蒸発 巣ごもり消費拡大
新型コロナウイルスの感染拡大は国内の酒類市場に大きなダメージを与えた。政府の緊急事態宣言発令後、業務用の需要が「蒸発」し甚大な影響を受けた。一方、外出自粛で「巣ごもり消費」が広がるなど家飲みの機会は増えている。「密」を避ける行動が求められるウィズコロナ時代を乗り切るため家飲みを切り口とした提案が増えそうだ。(岡朋弘)
コロナの影響は3月に入り本格化し、ホテルの宴会や結婚式、送別会などが相次ぎキャンセルとなるなど業務用の消費が落ち込み始めた。
政府は4月7日に7都府県を対象に緊急事態宣言を発令し、16日には対象地域を全都道府県に拡大した。バーやクラブなどナイト業態は休業に追い込まれ、居酒屋など料飲店には酒類の提供時間の短縮要請が出された。外出自粛が拡大した4、5月は特に業務用が大きく落ち込んだ。
特に業務用の取り扱いが多いビールの不振が色濃く出た。クラブやバー業態の休業によりウイスキーやシャンパーニュといった高級洋酒も厳しい状況となったもようだ。
コロナ禍で資金繰りが悪化した料飲店に対し、国税庁が持ち帰り用に在庫酒類を販売できるようにするため新たな免許を設けるなど料飲店への支援策も講じられた。
感染症対策では、一部の酒類メーカーが品薄が続いていた消毒用アルコールの代替品として高濃度アルコール製品を医療機関などに提供する取組みが見られた。
6月以降、業務用の回復が進みつつあるが、感染防止を意識した行動が求められる中、今後は消費者による料飲店を見る目が一層厳しくなりそうだ。
業務用が落ち込んだ一方で、家庭用市場は巣ごもり需要を背景に伸長した。DgSやSM、ECを中心に徐々に需要を伸ばしてきた。
だが、総市場の3割を占めるとされる業務用の減少分を家庭用で補い切れない構図が続き、酒類総市場は20年年間で前年を大きく下回って着地する見通し。家庭では料飲店と比べて一人当たりの飲酒量が減るためだ。
人の移動が制限される中、自宅にいながら遠隔で酒を楽しむ「オンライン飲み会」という新しい飲み方も広がった。外で飲むより安上がりでいつでも好きな時に友人らと話せる点などが若者を中心に好評なようだ。若者の酒離れが指摘される中で、新たな需要としてさらなる広がりが期待される。
コロナ禍にあって最も伸長したカテゴリーの一つが缶チューハイなど、開栓してそのまま飲用できるRTD(レディー・トゥ・ドリンク)だ。節約志向が高まる中、手頃な価格が人気で他カテゴリーからユーザーが流入したと思われる。
一方で、クラフトビールや中高級ワインの需要も高まっているもよう。自宅で過ごす時間が増えたことでいつもより少しぜいたくな酒類を飲みたいというニーズもあるようだ。
●KSP-POSで見る家飲み需要
20年上半期は業務用需要が減退した一方で、小売店の家庭用の販売が伸びた。通常、酒類の販売金額はゴールデンウイーク前の4月末から5月初めにかけてピークを迎えるが、KSP-POSによると5月2週目以降も売れ続けたことがわかる。5月4日から10日週には、来店客1000人当たり販売金額が前年比26%増となり、最も高い伸び率を示した。
カテゴリー別で見ると、1000人当たりの販売金額(20年1月6日から6月14日に集計したデータ)では新ジャンルなどを含む「リキュール類」が2万7046円と前年から13.8%増と大幅に伸びトップとなった。
新ジャンルはビールメーカーが投入した新機軸の商品が受け入れられているほか、好調な伸びを見せる既存ブランドも多く、家庭用での存在感が高まっている。
RTDを含む「スピリッツ」は、前年比14%増と主要カテゴリーの中で最も高い伸び率を示した。自由度の高い幅広い味わいやアルコール度数の多彩さが人気の要因だが、近年主流となっている高アルコール度数のストロング商品を中心に1缶で酔える経済性の高さが支持を集めている。節約志向の高まりをとらえ、下半期もRTDへのニーズは続きそう。
ダウントレンドだった「清酒」は、家飲み需要増により一部パック系商品の実績がアップする事例も見られた。「焼酎乙類」は1.6%増と前年を上回って推移し、家庭で手軽に楽しむことができるパック製品を中心に家飲み需要の取り込みが進んだと思われる。
ワイン、ウイスキーも順調に販売を伸ばした。国内製造ワインは、「酸化防止剤無添加」や大容量品が伸長したほか、輸入ワインでは認知度の高いブランドの伸びが目立った。
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