地どれブームで湖魚食にも注目 全国にアピールできる琵琶湖のスペシャリテに
古来、滋賀県や隣接する京都市において、手に入れやすいタンパク源として親しまれてきた琵琶湖の魚介だが、「地どれ」「スローフード」「地産地消」といった概念が付加価値となった最近では、全国に向けてアピールできるスペシャル素材となりつつある。いま注目を集める「湖魚食」の新しい展開を紹介したい。
昔ながらの名産品「あめだき」も見直される
海の魚とは異なり、琵琶湖産の魚介は滋賀県内でも調理品、加工品として販売されることが多い。その中でも古くから滋賀の名産品として製造販売されてきたのが「湖魚のあめだき」(佃煮)だ。
参考サイト:琵琶湖の幸を「あめだき」でたっぷり味わいます【6月29日は、佃煮の日】(たべぷろ)
食生活の変化によって、地元でも見かけることが減ってきていた「あめだき」だが、ここにきて復活の兆しがある。そのことは滋賀県内の道の駅などで扱う種類が増えていることなどからも推察できる。
例えば、知名度の高い「本もろこ」や「瀬田しじみ」に加えて、「スゴモロコ」(本もろこより味が落ちるといわれているが安価)や「ハス」「だぶ貝(イケチョウガイ)」といったかなりローカルな魚介の加工品も観光客向けに販売されるようになってきているのだ。
地元でも「クセがあるから」と敬遠する人もいるハスのあめだきも、実際食してみるとかなり食べやすく作られており、特に喧伝されているわけではないが、県外の人に向けての生産者の努力が伝わってきた。
また、販売される品目が増えたことで県内でも湖魚食が見直されているようで、道の駅で石貝(たてぼし貝)のあめだきを購入していた若年の女性にたずねてみたところ、「滋賀に住んでいるけど琵琶湖にこんな貝がいるなんて知らなかった。先月初めて食べたけどおいしかったのでまた買いにきました」とのこと。
鮒寿司の新商品も登場
滋賀の湖魚食文化として知名度の高い「鮒寿司」は、元々高級珍味として贈答用にも使われていたものだが、最近では竜王町、高島市、近江八幡市などが、ふるさと納税の返礼品として鮒寿司を用意している。これも滋賀の湖魚食文化を全国に紹介する機会のひとつとなっているだろう。
参考サイト:クサい?珍味?実はとびっきりの健康食・鮒寿司のおいしい食べ方【毎月23日は、乳酸菌の日】(たべぷろ)
また、「昔ながらの鮒寿司を作る」「鮒寿司を使った加工品を作る」といったプロジェクトがクラウドファンディングで募集されることもある。そういった取組みのひとつが、株式会社奥村佃煮の「Yoshio Fermented Foods 〜鮒寿し×チーズ〜」のプロジェクトだ。
卵をもたないため商品価値が低いニゴロブナのオスで作った鮒寿司と地元産のナチュラルチーズをフュージョンさせた商品だ。琵琶湖の未利用魚を活用して伝統の湖魚食文化を新しい形で継承することを目的として開発されたが、従来の愛好者とは異なる層の鮒寿司ファンも増やしたと思われる。
鮒寿司の乳酸菌に着目した商品を開発する近江八幡市の「飯魚(いお)」の製品で、ほかに鮒寿司の飯を使ったドレッシングなども人気だ。
また、琵琶湖の魚介は、海産魚より鮮度保持が難しく、あめだきや鮒寿司などの加工品も冷蔵流通のものが多いが、最近では常温長期保存を可能にした商品もでてきており、土産物としての利便性も一段と増している。
同時に、鮒寿司の飯部分や湖魚を使ったスナック菓子なども手軽な土産物として人気があり、名神高速道路の大津SAで「おきしまえびせんべい」を手に取っていた人は「ここに寄ったら必ずこれを買っている」と話していた。
湖魚を使ったイタリアンも評判に
以前は、琵琶湖周辺で味わえる湖魚料理といえば、フナやコイの造り、あめだき、鮒寿司、ウナギ料理といったところだったが、近年は日本料理店以外でも琵琶湖の魚介を用いた料理をオンメニューするところが増えている。
大津市内のイタリアン「オステリア チエロ アルト」で筆者が食した湖魚を使った2品を紹介したい。スゴモロコを用いた「びわ湖のお魚のスープ」、アユの稚魚であるヒウオを使ったリゾット。どちらも淡水魚ならではの独特の風味を鮮やかな旨みに昇華させていて、これらを目当てに遠方から訪れる人が多いというのも納得の味わいだった。
ほかにも、ビワマスや手長エビはフレンチやイタリアンの素材として重用されつつあり、セタシジミもラーメンやパエリアなどに使われている。デザートに鮒寿司の「飯」を使う飲食店もある。
参考サイト:シジミをラーメンに!琵琶湖のセタシジミのおいしい食べ方【4月23日は、シジミの日】(たべぷろ)
地どれ素材を大切にする料理店にとって、湖魚は「古くて新しい」重要な食材として位置づけられてきたといえる。
近年は漁獲も減って衰退の道をたどっていた琵琶湖の魚介だが、特別感のある素材としていま新しいフェーズを迎えつつある。加工品、料理素材など、その可能性が広がることによって、地域の活性化にもつながることは自明の理。これからの動向に注目したい。(フードライター・料理研究家 松本葉子)