自分好みの料理米も、オーダーメードのコメ調合サービスに注目

グルメ志向の広がりによって品種や産地を冠したブランド米が重用されるようになって久しいが、最近、コメ市場にまた新しいトレンドが起こりつつある。単に「おいしいコメ」ではなく、料理やシチュエーションごとに「最適なコメ」を選ぶ人が増えてきているのだ。日本ならではのコメブレンド技術を生かして作る専用米や、料理や用途に特化した新品種米など、これから注目すべきコメを紹介したい。

プロの技が生きた用途特化型ブレンド米

コシヒカリやササニシキなどから始まった「おいしいコメ品種」ブームは根強く、今では一般消費者も品種や産地でコメを選ぶことが当たり前になっている。しかし、それ以前は単一品種にこだわらないブレンド米が主流で、いかに安価で味の良いブレンド米が作れるかが米穀店の腕のみせどころでもあった。

食の多様化が進む今、この「プロの技」があらためて脚光を浴びている。

たとえば、明治41年創業の老舗米穀店・戸塚正商店(神奈川県)では、いくつかの品種(産地)のコメをブレンドすることで、多彩な食味のコメを作り出す「お仕立て米」シリーズを展開、より味の好みに合ったコメを選びたいという消費者から支持されている。

また、同様のコンセプトで作られた「お料理米」には、お茶をかけてもコメの味がよくわかる「お茶漬けのお米」、肉のうまみをひきたてる「お肉に合うお米」、具とコメがしっかりなじむ「炊き込みごはんのお米」などがあり、贈答用を意識したデザイン性の高いパッケージも人気だ。

戸塚正商店「お料理米」シリーズは300g入り8種類セットで5810円(税込み)

そして、このブレンド米をもう一段階進めた形で提供するのが、福島県でコメ生産、販売を行う御稲(みいね)プライマルの「カスタム米」だ。御稲プライマルでは元々、酢飯用、カレーライス用、ゆでて調理するチャーハン米といったブレンド米を製造販売していたが、これらの料理専用米はいわばレディーメード。

それに対して「カスタム米」は完全なオーダーメードで、50種類以上のコメを客の要望に合わせて調合するサービス。数百通り以上の調合が可能だという。

「弾力」「香り」「甘み」「粘り」の4要素についての好みのほか、「お弁当に使うので冷めても味の変わらないご飯にしたい」「軟らかく炊き上がってべたつかない高齢者に食べやすいコメを」「素人でもおいしい酢飯が作れるコメが欲しい」といったシチュエーションや料理などの希望を添えて申し込むと、まず希望に応じて調合したサンプルが送られてくる。

それで食味を確認し、OKを出せば注文者専用のコメが作成されるという仕組みだ。

料理に添えるカスタム米をオーダーしてみた

今回、筆者は「料理に添えるバターライス」用のコメをオーダーしてみた。リクエストは、「バターを加えて炊き上げるので、香りや甘みはあまり重視しないが、炊いた時に軟らかくなりすぎず粒立ちがよいもの。料理に添えてもコメの存在感が感じられるようにしたい」といった内容。

オーダーしたカスタム米のサンプル

送られてきたサンプルは2種。試してみてどちらもイメージと違う場合は、どのように食味を変えてほしいか希望を伝えれば再調整を行い、もう一度サンプルを送ってくれるという。サンプルには、それぞれのコメのデータも添えられている。

オーダーしたカスタム米のデータ

バターライスを添えて味わう料理として、「魚介のフリカッセ サフラン風味」と「和牛カイノミと原木椎茸の軽いワイン煮込み」を作って、2種のサンプルを食べ比べてみた。

バターライスを添えた「魚介のフリカッセ サフラン風味」

結果、Aの方がバターライスとしての仕上がり、料理との相性ともに良好だったため、Aを選択。これで筆者専用のカスタム米ができあがり、保存されたデータは、次回からの注文に反映されることになる。

バターライスを添えた「和牛カイノミと原木椎茸の軽いワイン煮込み」

コメとしての見かけにはほとんど違いがなかったAとBだが、調理してみるとかなり食味に差異があり、それぞれのブレンドの意図にも納得。同時に、コメをオーダーメードすることで料理の味わいもグレードアップできることも実感できた。

オリジナルオーダーのカスタム米の価格は2kg2100円(税込み)から。個人での購入も可能だが、「季節を問わず同じ炊き上がり、味のコメがほしい」「誰が炊いても同じ味に仕上がるものを」「店の料理の味に合ったご飯にしたい」といったリクエストにも応えられることから、業務用として使うメリットは大きい。

日本のカレーに適した新品種や日本で栽培される外国品種の米にも注目を

ブレンド米のほか単一品種でも、従来の「白いご飯としておいしい」以外のターゲットをもつコメが増えてきていることも見逃せない。カレー専用米もそのひとつだ。

その名も「華麗舞」は、食品メーカーなどとの共同研究をもとに日本人好みのカレールウになじみやすいコメとして開発されたもの。インディカ米の「密陽23号」と日本米の「アキヒカリ」を交配して作出された「華麗米」は、新潟を中心に栽培されていて、食味の良さから業務用としての評価も高い。

また、平成29年に発売がはじまった「プリンセスかおり」は、インド料理などで用いられるバスマティー種と同様の香り米。こちらもカレーに合うコメとして鳥取県で育成された品種だ。

香り米の「プリンセスかおり」

実際に炊いてみると、長粒種の香り米に比べて炊飯器で炊きやすく、かつポップコーンのような香りもしっかりある。カレー用ご飯以外にもいろいろな使い方が期待できる新品種といえるだろう。

このほか、イタリアの大粒米品種カルナローリが、石川県のたけもと農場、青森県の山田ふぁーむなどで栽培されている。今後はリゾット用のコメとして、生産者がわかり随時国内で精米されている「国産カルナローリ」を選ぶことも容易になっていくと思われる。

コメの選択肢が増えることで、日本の食シーンはより豊かになる

主食としてのコメに思い入れのある人が多い日本。加えて、食の多様化によって、さまざまなスタイルでコメを味わうことが増えてきた今、「コメを選ぶ」ことはますます重要度を増している。

生産、販売、飲食サービスなど幅広い業界で「コメ」に対してのアンテナを常に敏感にしておくことが必要だ。(フードライター・料理研究家 松本葉子)

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