フォアグラ販売中止運動も、アニマルウェルフェアが英国で広がり

今年2月、紅茶ブランドや高級食材の販売で有名な英国の老舗百貨店フォートナム・メイソンがフォアグラ購入を中止するというニュースが大きな話題となった。(※現在あるフォアグラの在庫はセールで販売中)なぜ、高級食材を扱う老舗デパートがフォアグラの購入を中止したのか。要因となったのは、近年欧州を中心に高まる「アニマルウェルフェア」という考え方だ。

動物の「5つの自由」を指針に

アニマルウェルフェアは「動物の生活と死に関わる環境と動物の身体的・心的状態」と定義され、アニマルウェルフェアを考える上での指針として、下記5つの自由を国際獣疾事務局(OIE)は提示している。

1. 飢え、渇き、栄養不良からの自由
2. 恐怖、苦悩からの自由
3. 物理的、熱の不快さからの自由
4. 苦痛、傷害、疾病からの自由
5. 通常の行動様式を発現する自由

そしてアニマルウェルフェアを重視する人々・団体はペット産業、動物園・水族館、サーカスなどさまざまな場面において問題提起を行っており、畜産業においても上記の5つの指針を踏まえるべきと主張している。

フリーレンジの鶏(OIEのサイトから)

フォートナム・メイソンはフォアグラ購入中止

アニマルウェルフェアを訴える団体は、いろいろな課題を提示しているが、その中の一つに「フォアグラの生産・販売中止」がある。フォアグラは世界3大珍味として有名だが、アヒルやガチョウに大量の餌を与え肝臓を肥大化させることによって生み出される。その残酷な生産方法が議論の対象となり、英国では2006年にフォアグラの生産が中止された。また大手スーパーや老舗百貨店でも販売中止する店が続いた。

今回、フォートナム・メイソンが購入中止にしたのも、アニマルウェルフェアを訴える団体(PETA)からの度重なる抗議があったからだ。「007」のジェームズ・ボンド役で有名な故ロジャー・ムーア卿など、セレブリティらも不買運動を支持していた。またEU離脱により英国政府は輸入品のコントロールをしやすくなったこともあり、フォアグラの輸入禁止も最近の議題となっている。

フォアグラの販売中止を訴えるデモ

漁業や養殖業にも注目

フォアグラの販売中止運動は、アニマルウェルフェアが提起する問題の1つに過ぎない。英国では、動画配信サービスNetflixが今年3月に世界的に初公開した「SEASPIRACY」というドキュメンタリー映画が大きな話題を呼び、漁業や養殖業に関する改善を求める声がより大きくなってきている。

英国を含む欧米で話題となっている「SEASPIRACY」というドキュメンタリー映画

特に高級レストランチェーンなどには、顧客からアニマルウェルフェアに関する問い合わせが増加したという。またビーガン人口が増加し続ける英国においても、アニマルウェルフェアという理由から肉を食べないという選択をした人の割合が一番多いというアンケート結果も出た。(Business Report, BBC News)

参照サイト:
Fortnum & Mason axes sale of ‘torture in a tin’ foie gras after decades of pressure Daily Mail Online
Foie Gras: Cruelty to Ducks and Geese PETA
Veganism: Why are vegan diets on the rise? BBC News

今後は欧米だけでなく、日本にもアニマルウェルフェアという観点が定着し消費者の動向に小さくない変化をもたらすだろう。(フードライター 武田高建)

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