コロナ禍が追い風になった納豆 強い個性が長く愛される理由は

新型コロナウイルスによって巣ごもり生活になり、食品の売れ行きの変化は著しかった。そして、売れたものの1つに納豆がある。免疫力を上げる食べ物としても需要が高まり、納豆は現在も売れている。しかし、納豆の強さ、訴求力は今に始まったことではない。コロナ以前からも納豆は売れ続けていた。いつの時代にも強い “無敵”ともいえる納豆の人気は今後も続くのだろうか。納豆の魅力に迫る。

アミノ酸「5-ALA」に注目

「〇〇に効果的なランキング」「〇〇に最強の食品」などの〇〇に何が入っても納豆は上位に入ることが多い。免疫力に関しては、ビタミンB群やビタミンEといった免疫力を強化させるとされる成分に加え、納豆菌などの腸内環境を整える成分も含んでいる。腸内環境を整えることによって、体全体の流れをよくするため、免疫力アップにもつながる。そのほかにも「レバン」「ポリグルタミン酸」といった免疫作用のある成分を一度に摂ることができるとされる。

納豆市場は過去最高を更新し続けている

さらに巣ごもり生活において、安価である経済性や、そのまま可食できる利便性も加わり、コロナが流行し始めた2020年上半期当初は、スーパーマーケットの納豆が売り切れとなり、購入数量制限の時期もあった。

最近、納豆に含まれる「5-アミノレブリン酸(5-ALA)」というアミノ酸の一種が新型コロナウイルス感染に強力な抑制効果があると発見された。近年の発酵食品ブームにも納豆は食い込んでいる。どこまでも納豆には“追い風”が吹いている感じだ。

しかし、コロナ禍を機に納豆が急に売れ始めたわけではない。業務用を含めた納豆の2020年の市場規模は、前年比8.3%増の2711億円で、2016年以降は市場は過去最高を更新し続けている(全国納豆協同組合連合会)

納豆特集:市場は前年比8.3%増 納豆の5-ALAに新型コロナ抑制効果発見で高まる期待  日本食糧新聞電子版

現代人の多角的なニーズにマッチ

日本人にとっては長年なじんでいる納豆だが、長い間「日本人は腐った豆を食べている」と欧米で揶揄されたとされる。今では海外で肉食を避ける考えにおいてのタンパク質としても注目されている。また欧米ではダイエット食として人気が高まりつつある。納豆に含まれる「ナットウキナーゼ」が糖の代謝を促し、豊富に含まれる食物繊維が善玉菌のエサになるとともに、糖質や脂質の吸収を抑制させるため、太りにくい食材としても認知されている。

ダイエット食としても人気が高まる

美肌などの美容食にまで納豆は候補に挙がる。例えば「ナットウキナーゼ」は血流改善を促すとされ、「イソフラボン」はシミやシワに効果が、「ポリグルタミン酸」というアミノ酸の一種は肌の保湿機能を改善とともに老廃物を排出させる効果が、それぞれ期待されている。

老廃物を排出させるということは、アンチエイジングにも効果があるということになる。アンチエイジングの視点では、納豆にはそのほかにも新陳代謝を活発にする若返り成分「ポリアミン」が含まれている。「ポリアミン」は長寿にも効果があることがわかってきたらしい(自治医科大学附属さいたま医療センター早田邦康教授の研究)。

ざっと挙げただけでも、納豆が現代人の食品に求めるさまざまな分野に強いことがわかる。ちなみに国内においても、かつては食べない文化を持っていた関西や九州でも近年は販売されており、全国的な食材となった。

万能であるが、どこかへ飛ぶことはない

こういった納豆の万能性を生かし、アレンジ料理や商品も数多く出ている。変わり種として、例えば納豆にチョコレートを合わせる製品は面白いアイデアだろう。

納豆専門メーカーであるだるま食品の「チョコ納豆」

納豆メーカーが手掛ける場合もあるが、著名なショコラティエのジャン=ポール・エヴァンでも、ドライ納豆を上にのせたチョコ「タブレット レ キャラメル フルール ドゥ セル エ ナットウ」を販売していたことがある。

「タブレット レ キャラメル フルール ドゥ セル エ ナットウ」
「タブレット レ キャラメル フルール ドゥ セル エ ナットウ」

料理においても、「納豆スパゲッティ」といったヒット作も生まれた。カレーやチャーハン、ラーメン、オムレツ、鍋、ハンバーグのソースにするなど、ジャンルを問わずメニューは生み出されているように、汎用(はんよう)性も高い。

しかし、小売りされている際のパックについてくるタレは、どのメーカーもさほど変わらない。最近でこそ、フレーバーの展開や「卵かけご飯風タレ」などの若干のアレンジはあるものの、いわゆる定番は醤油ベースのうま味ダレである。筆者は日頃から納豆1パックを5種類くらいの味付けで食して実験しているのだが、やはり最後には定番タレに戻る。そして、さまざまな料理に納豆を使い、アレンジ料理を食べたとしても、やはり最後はあの独特な粘りと臭みが懐かしくなる。

こうした納豆の強みは、いかなるジャンルにも変容が効き、相手に合わせられる万能選手でありながらも、味わいに確たる柱がある点なのではないだろうか。強い個性を持っているが、その強い個性が「飽きない個性」として長く愛される程度のほどよいバランス。全てのビジネスにおいても「強い個性でありながら強すぎないと認知されている」――そんな存在があれば同じように無敵になりそうだ。納豆、奥が深い。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)