鏡もちの年末商戦スタート 伝統離れ・価格競争・コスト増で三重苦も
鏡もち市場は、令和最初の年末商戦が本格スタートした。来年のえとは「子(ネズミ)」。各社キャラクター付き商品は、かわいさや豪華さにこだわり、令和初の正月を迎えるにふさわしい個性あふれる商品が出揃った。今年も大型よりも中型・小型、上下一体型より個包装もち入りのトレンドは続く。
生産量減少も販売個数では健闘
市場は成熟市場で、少しずつ規模を減らし、2018年度は110億円を割ったとみられる。ライフスタイルが大きく変わる中で、伝統文化離れが深刻化。加えて、“お飾り合戦”となり、本来の年神様を迎える意味合いが薄れつつあることも課題だ。いずれにしてもメーカーはもちろん、小売業にとっても売場を締めくくる大きなヤマ場。令和最初に良い正月が迎えられるか、注目だ。
全国餅工業協同組合調べによる2018年度(2018年4月~2019年3月)の鏡もち生産量は、前年比1.1%減の4321トンだった。近年では2012年度、2013年度6000トン台だったものが、2016年度に5000トン台を割る4600トン台に減少し、2017年度、2018年度と2年連続で4300トン台となった。

生産量の減少要因は、第一に住環境や世帯構成比の変化。多くの住居には床の間がなくなり、ブラウン管TVの上に大きな鏡もちを飾っていた家庭が薄型TVに変わるなど、飾る場所が減少。第二に世帯構成の変化やライフスタイルも様変わりし、鏡もちを飾って年神様を迎える伝統意識が薄まり、文化として伝えることが困難となっている。
こうした中で、メーカーは時代の変化に合わせて鏡もちを進化させてきた。特に平成の30年間では、鏡もち型の成形容器に充填(じゅうてん)する上下一体型から個包装の小もち入りへ徐々にシフト。
佐藤食品工業(サトウ食品)は、一体型を無くし、全て個包装の小もち入り商品にラインアップを変えた。また、一般家庭や法人も含めて大きなものから小さいサイズが求められるようになっている。こうした要因が重なり、生産量は年々縮小傾向にある。

一方、金額ベースの市場規模を見ると、2018年シーズンは前年維持から微減で着地したという声が大勢だ。日本食糧新聞の推計では前年比1%減の約109億円と110億円を若干割った。鏡もち生産量は減少しても、全体の販売個数では健闘していることがうかがえ、悲観するほどの落ち込みも見られず比較的安定している市場ともいえる。
上下一体型と個包装入りのバランスも重要
迎えた2019年度は、トップシェアの越後製菓が前年比1.7%増、続くサトウ食品同3%増、たいまつ食品同2.6%増、うさぎもち前年超え、マルシン食品前年比3%増と市場の8割以上を占める企業が揃って前年超えを計画。一方で、「包装もちと違い、大きく伸びることも下がることもない」という声も聞かれ、成長市場とまではいえない。
各社は時代の変化を見据えながら、今年も市場活性化に向けて取組みを強化していく。時短・簡便ニーズが高まる中、箱物商品は小もち入り化がより進むとみられる。ただ、小型化・小もち入りの流れがあるとはいえ、小型タイプの市場は小もちが2個入った60gや66gよりも、圧倒的に上下一体型160gのウエートが大きい。
干支フィギュアやキャラクター付きは小型タイプ全体の10%程度ともいわれ、10年20年先には構成比が変わるかもしれないが、当面このバランスは維持されるとみられる。上下一体型の「お鏡もち」「橙付き」で各社台紙の工夫や華やかさの演出などに注力する動きがある。

大型・中型も含め上下一体型の“本格派”の鏡もちは10年前に比べて減り、“使いやすさ重視派”が増えてはいるものの、40~70代が最大のボリュームゾーンである市場では、上下一体型と小もち入りの両方のバランスが重要視される。
こうした状況下、価格競争がより激しくなる様相を呈している。平成の時代に一体型のみの市場から、小もち入りも登場し価格の下落が起こった。さらに近年では、アイリスフーズが新規参入して価格競争が勃発。既に4年がたちその影響度合いは落ち着きを見せ、新たなステージの競争が進む。
鏡もちは、パッケージの華やかさや売場で大陳した時の見栄え・彩り、小型タイプのキャラクターのかわいさといった要素が重要視され、消費者の選択というよりは流通段階での採用状況によって売上げが決まってくると言っても過言ではない。
ホームセンターにしろ、食品スーパーにしろ、消費者は店頭にある商品を購入する傾向が強く、わざわざ選んで差別化されたキャラクターを指名買いしたりブランドを探して購入する層は限られているためだ。

こうした特殊事情もあって、価格によるシェア争いもより激しさを増している。価格やシェアを追わない企業や、付加価値型商品にもその影響が飛び火する状況も見られる。
上下一体型だけの時代はロスが出ても利益商材といわれていた鏡もち市場だが、個包装もち入りの手間やお飾り合戦によりコストが上昇。加えて、原材料・包装資材、物流費や人件費などが上昇。各社の収益を圧迫している。過度な価格競争は業界活性につながらず、適正な利益確保が急務となっている。
※日本食糧新聞の2019年11月25日号の「鏡もち特集」から一部抜粋しました。