糖質最前線バランス食特集
糖質最前線バランス食特集:宮澤陽夫東北大学教授に聞く コメ食で予防、世界が関心
コメを中心とした日本型食生活に、国内外の関心が高まっている。コメの健康機能性研究第一人者、東北大学未来科学技術共同研究センター宮澤陽夫教授に、その価値と重要性について聞いた。
–コメの健康性が解明される一方、糖質摂取を制限する食事法が話題となり、コメが悪者にされるが。
宮澤 コメの主成分は炭水化物で、大切なエネルギー源だ。マラソン選手は、エネルギーを体内に蓄えるため、試合前に多くの炭水化物を摂取する。コメにはそのほか、タンパク質やビタミン類、カルシウム、リン、鉄分なども含まれ、こうした栄養成分の供給源としても重要な役割を果たす。現に、肉類など動物性タンパク質摂取量が少なかった時代も、日本人はコメからタンパク質を摂取し、健康を維持していた。子どものころ、今の2倍以上コメを食べていた世代が、今や80歳以上になり、昨今の長寿社会を支えている。
–宮澤教授の、日本食研究との出合いは。
宮澤 今から20年前のボストン留学時代、当時注目され始めた日本人の長寿化を食から考える検討会が、ハーバード大学で開催され、日本発信データがなかったため、帰国後、日本食の健康機能性研究を東北大学で着手した。各年代の国民栄養調査に基づき管理栄養士が調理した日本食を摂取した後、肝臓での遺伝子発現を調査した。
–その結果は。
宮澤 日本食は体へのストレス性が少なく、糖質や脂質のエネルギー代謝を活発にする健康的な食事であることが分かった。半面欧米食は、摂取したエネルギーを脂肪として体内に貯めやすく、ストレス性が高い。すなわち日本食は、摂取したものが効率よく代謝され、エネルギーとして使われる、肥満になりにくい食事ということだ。
–今や世界は日本食ブーム。
宮澤 13年に和食は、ユネスコ無形文化遺産に登録された。多様な食材を新鮮なまま調理し、栄養バランスに優れる一方、自然の美しさや季節感も表現されている。日本のコメ食文化の素晴らしさが、国連の教育文化機関に認められたが、最近では海外観光客増加が後押しし、日本の食文化に対する理解が世界中に広がっている。
–そこで主食のコメが話題となってくる。
宮澤 昨年11月末、国立京都国際会館で、国際シンポジウム『コメとグローバルヘルス』を主宰した。このシンポジウムは、コメを生産し食べる世界中の国々や地域をつなぐ学術的な懸け橋となることを目的に、10年に一度開催している。第3回目の今回、世界18ヵ国から約500人の研究者が参集し、米国やアジア、アフリカなど多様な国・地域から、コメ食を取り巻く環境や経済、生産はもとより、コメ食による疾病予防効果、コメに含まれる有効成分など研究成果が発表された。中でもコメ食による生活習慣病予防や、がんの予防・治療作用機構、長寿者の食習慣などに関心が集中した。今後ますます、コメに関する基礎研究が進むことを実感した。
–米ぬかも話題となったが。
宮澤 米ぬかからは上質なこめ油がとれ、豊富に含まれるビタミンEやトコトリフェノールなどは、皮膚の保湿性向上や抗酸化作用による老化予防などが確認されている。
–コメの果たす役割と可能性は無限大。
宮澤 世界人口は1950年ごろ、30億人程度だったが、2020年は80億人、50年には100億人に到達する見込みだ。うち半分がアジアに集中し、コメで命を支えている。グローバルに人々の健康を考える際、コメは重要な役割を担う。肥満や生活習慣病が増加する一方、アジアやアフリカでは、飢餓に苦しむ人も少なくない。こうした人たちにコメを十分供給する必要がある。この観点からもコメは重要だ。