プチ征服感を満たす「ギルティーパン」が人気

最近、“罪深いパン”すなわちギルティーパンの人気が高い。多くのパン屋やカフェにて“キケン”な“罪”が売られている。しかし、食べている人の顔は満足気でうれしそうだ。そう、幸福にさせることが本当の“罪”深さなのかもしれない。罪深いギルティーパンは、カロリーも糖質も高く、現代の健康志向とは真逆をいっている。にもかかわらず、何故人気になのか。

カロリーも糖質も高い「マリトッツォ」と「マヌルパン」

ギルティーパンの1つは、昨年からじわじわと話題になっている「マリトッツォ」。ほのかに甘さのあるブリオッシュ生地に、たっぷりのホイップクリームをサンドした甘い菓子パンだ。しかし「パン」という概念で食べる人は少なく、むしろスイーツのカテゴリーに属している。

ホイップクリームをたっぷりサンドした「ヤマザキ マリトッツォ(オレンジピール入り)」(山崎製パン)

マリトッツォは、各コンビニ大手でも売られている。ファミリーマートはシフォン状の生地を使用しており、スイーツに寄せている。ローソンストア100はパンに寄せているためホイップクリームパンのような感覚で食べられる。個人的には3社の中ではセブンイレブンものが、生地に関してはオリジナルのブリオッシュに近いと感じた。

マリトッツォを追い、人気が上がっているのは「マヌルパン」だ。マヌルパンは、韓国発のパンで、マヌルとはニンニクを意味する。その言葉通り、丸いパンに切り込みを入れ、その中にニンニクのすり潰しを混ぜたバターと練乳、さらにホイップクリームを入れて熱々にしたもの。

パンの中にニンニクバターとクリームが染みわたり、あまじょっぱい味の魔力が口いっぱいに広がるメニューだ。最近は、クリームチーズやサワークリームを入れたり、練乳を入れずに惣菜パン風にしたりと、アレンジマヌルパンを作って出すパン店も増えている。

家でくつろぎながら誰にも見られず至福を味わう

これら、ギルティーパンの共通項はいくつかある。1つは「見た目のインパクト」だ。これでもかとパンに入れられたクリームやバターは、これ見よがしにカロリーが高いことを表現。食べる前から「食べてよいのだろうか」と若干の罪悪感を持たせるのである。しかしマリトッツォのクリームは単にたっぷりなわけではなく、断面を工夫して美しく見せており、“映え”ることを意識して作られている。

マヌルパンを再現した「俺の罪悪パン」(俺の株式会社)

2つ目は「プチ征服感」。コロナ禍において、大食いや大盛の料理の人気が再燃した。それはある意味食べきることへの征服欲を満たしているからだと筆者は思っている。ストレスがある生活の中で、大盛の食べ物に挑み、食べきることが、達成感とともに脳に幸福物質を出させているのである。

今回取り上げたギルティーパンは、大食いではないのだが、プチ大食い要素を満たしているだろう。甘すぎない口当たりのよい食べものなので、大量のクリームもパクパクと食べてしまえる。そして、テークアウトが可能な商品であるため、家でくつろぎながら誰にも見られずに至福を味わうこともできる。

さらに、アレンジもしやすく応用が利くのも各自の楽しみを広げてくれる。外出が自由にできず、健康に気を付けなければならない現状だからこそ、ストレスは生まれる。少しだけ冒険したい、少しだけ悪いことをしてみたい、というささやかな願望を満足させてくれる商品なのだ。

背徳と幸福は表裏一体

これらを含め、ギルティーにあふれた食品群を、「背徳感と快感の共存」商品と筆者は称したい。今回の2つの食べ物以外にも、例えば夜中にラーメンを食べたり、スイーツブッフェにいったり、「本当は体によくはなさそうな食べ方をあえてすること」に、ある種のささやかな幸福感を見出す。

イタリア・ローマの伝統菓子「マリトッツォ」

背徳感と快感は共存している。現在の環境下における人間の心理に訴えかけた商品なのだ。そう、これからビジネスの鍵は、コロナ以前とは異なる「新たな心理」をいかにくすぐれるかにあるのだと思う。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)