実店舗を持たずに利益を…配達専門の汁なし担々麺FCブランドに素早く転身

渋谷唯一の汁なし担々麺専門店としてTVなどにも取材された実績を持つ「担担担」が、新型コロナウイルスの影響で3月末をもって渋谷の2店舗を閉店。そしてデリバリー専門のフランチャイズ(FC)ブランドに転身した。経営する斎木祐介氏は、実店舗は持たないことで賃料や人件費をなくし、FC加盟店に屋号・担々麺のレシピ・食材などを提供することで、効率的な利益創出を目指している。
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「前兆」を嗅ぎ取り渋谷の店舗は3月末で閉店

斎木氏は「コロナより前からデリバリーに特化したFC構想はあったが、コロナが追い風となり当初の予定よりも早く始めた」という。もともと担担担の営業スタイルは、夜はバーなどを営業する飲食店の空いている昼帯を借りる「間借り」形態であったため、コロナによる客足の減少を見て、即座に閉店に踏み切りやすかったという。

オーナーの斎木氏が自ら仕込み、FC店に提供している原材料セット (4月時点) 。提供の方法も研究中(斎木氏提供)

「店に通っていたお客さまたちは、渋谷という土地柄、リモートワークへ移行しやすい企業に勤める方が多く、緊急事態宣言の少し前から客足は減り始めていた」。こうした「前兆」を嗅ぎとり素早い判断を下した斎木氏には、次世代の飲食店経営者としての決断力を感じる。

急速にFC化を進められた理由は

担担担の売りは「汁なし担々麺」であるが、斎木氏はFC加盟店を増やすにあたり、オペレーションが少なく再現性の高いレシピを開発したという。

またレシピ開発に加え、材料まで提供することで加盟店側の負担を極力減らす。コンロ1つあれば作ることのできるレシピのため、手狭なキッチン設備で調理できるのも加盟店側にとってメリットだ。

担担担のFC店としてメニュー提供を行うゴーストレストランの厨房(斎木氏提供)

現在、担担担のFCに加盟する飲食店は5つあり、その業態は主に2パターンあるそうだ。

1つは、ゴーストレストランといって、UberEatsのようなプラットホームを使ってデリバリー提供に特化する、複数の飲食ブランドが集まるセントラルキッチン。そのキッチンの運営会社が担担担の「汁なし担々麺」をFC販売する。

もう1つは、夜間営業が中心のバーなどの業態であり、こうした店は普段はドリンク提供がメーンで、昼帯やデリバリーとして提供できる飲食メニューを持っていない。夜間営業が難しい現在、担担担のメニューがこのような飲食店を救っているのだ。

斎木氏はFC加盟店にとってメリットが大きい形を模索しており、オペレーションコストが低く再現性の高いレシピ開発や、食材ロスが出ないように各店舗の需要に応じた材料提供を行っている。

「ブランディングを怠らない店が生き残る」

気になるのは、斎木氏自身が店に立っていた時と、FCオーナーの現在との売上の比較だ。デリバリー専門のFC業態に移行してからまだ1ヵ月程度だが、加盟店は5つになり自らで1店舗を運営するほどの利益が出ているという。他にもすでに多くの加盟相談が来ており、今年度はFC加盟店の増大に力を入れる。

目標の実現のため、斎木氏はブランディングの重要性を強調する。「店舗運営時は渋谷というエリアに複数出店していたので、渋谷周辺の人に認知をされれば良かったが、デリバリーFCブランドとなれば、エリアも客層も多様化するはず。ブランディングに力を入れ、認知拡大や好意度の形成に今後は努める必要がある」と話している。

「担担担」の汁なし担々麺(斎木氏提供)

デリバリー以外の販路拡大にも意欲的で、担担担をいわゆる「宅麺」化することも構想する。「惣菜業許可付きのキッチンを借り、担々麺の冷食化とEC(電子商取引)販売も考えている」と語った。

新型コロナの危機に対し即座に事業転換を果たした斎木氏は、今後の飲食業界を次のように見立てる。「今までは”場所の利便性”で生き残っていた店もあるが、デリバリーやECでの食品提供が進むとそうもいかなくなる。ブランディングを怠らない店がより生き残りやすくなるだろう」と予測する。(フードプロデューサー 古谷知華)

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