クリエイティブな新ノンアル飲料に2020年は日本でも注目

日本の20~30代の半数以上が、お酒をほとんど飲まないと回答する昨今。2019年は、アルコール離れに応えるように、お酒顔負けの面白いラインナップをそろえたノンアルコール専門店が複数誕生した。英国ではノンアルコールスピリッツブランドであるSeedlipが世界最大手の酒造企業ディアジオに買収されるなど、世界的にノンアルへの関心が高まる。こうした背景のもと、日本初のノンアルコールジンブランド「NEMA」の生みの親で、バーテンダー歴28年の北條智之氏のもとを訪れ、今後のノンアルコールについて考えた。

アルコール離れの時代に日本初のノンアルコールジンブランドが誕生

2019年下半期、さまざまなメディアでノンアルコール特集が目立った。そこで取り上げられるノンアルは、ソフトドリンクやジュースの延長ではない。カクテルのようにクリエイティブでお洒落なモクテル(「Mock」と「Cocktail」を組み合わせた造語)や、まるで酒造のように蒸留や発酵のプロセスを用いて作られる複雑で香り高い「新しいノンアルリキッド」たちだ。いま新しいノンアル飲料が注目されつつある。

厚生労働省調査(2017年)によると、20代のうち60%以上がお酒をほとんど飲まないと回答するこの時代。2020年はノンアル黎明期となるだろう。それを証明するように、日本初のノンアルコールジンブランドの「NEMA 0.00%」(以後NEMA)は、2100種以上のブランドをかかえる酒屋のオンラインランキングでベスト5に入るという。

日本初のノンアルコールジンブランドNEMA 0.00%を使用したノンアルカクテル(モクテル)のミリオンダラー。Cocktail Bar Nemanjaにて、オーナーの北條氏が作って下さった

ノンアルコールジンとは、アルコールフリーなのにジンのように複雑なボタニカルのエッセンスを楽しめる芳香蒸留水のことである。その使い方はさまざまで、ジンのようにトニックウォーターと割ることで、ノンアルコールのジントニックというモクテルを作れたり、お酒と併用することでローカクテルを作ることも可能だ。

また注目すべきは NEMAの価格設定である。500mlで税込み3200円の価格帯は一般的なノンアル飲料と比べると高く、ワインやクラフトジンに並ぶ価格帯である。にもかかわらずNEMAの需要は高い。今後ノンアル分野ではお酒同等に、ブランド化・高級化が進んでいくのではないだろうか。

多様なノンアルコールスピリッツの世界

現在世界で最も売れているノンアルコールスピリッツブランドSeedlipを生んだ英国では、日本よりも早い時期からノンアルやモクテルのカルチャーが育っていた。

そのため、現在英国は世界のノンアルスピリッツ市場を牽引しており、ブランドも多岐にわたる。こうした好奇心を刺激する新ノンアル飲料をぜひ日本でも…と思うところではあるが、海外のノンアルスピリッツの多くは、添加物規制のため輸入が難しく普及しづらい状況にある。

また米国で発売され人気を得ているCBD飲料もノンアル分野における新プレイヤーではあるが、これまた別の理由により日本への輸入と普及のハードルがある。

海外で展開される様々なノンアルコールスピリッツブランド

そうなるとやはり日本では国産のものが重宝されるし、今後のラインナップ充実のためには新ブランド誕生も期待されてくる。Seedlipの味は3種類であるが、NEMAは現在までに通算15種類の味を販売してきた。

製法へのこだわりも強く、ボタニカル素材を種類別に蒸留するだけでなく、素材によって蒸留器をアランビックか純引かで使い分けている。また芳香蒸留水を作る際に使用するボタニカルの量は蒸留酒と比べ3倍以上となる。水に風味をつけることは難しいのだ。

これだけのこだわりが詰まったNEMAが3200円で購入できるのは、むしろリーズナブルではないだろうか。NEMAはいくつかの企業から共同製品開発や買収の話を持ちかけられたこともあり、業界内で注目される存在となっている。

NEMA 0.00%の豊富なラインナップ。ノンアルコールジンだけでなく、ノンアルコールウィスキーやノンアルコールアブサンも同ブランド内にはある

世界的なバーテンダーの北條氏がNEMA0.00%を立ち上げた理由は

NEMA0.00%の構想の始まりは2014年。世界初のノンアルコールスピリッツブランドであるSeedlipもまだ存在していなかった時代である。日本アロマセラピー学会の講演に呼ばれた北條氏はこの時に芳香蒸留水について知り、ジンを作るような工程で芳香蒸留水が製造されることに関心を持ったという。

その後、自治体の未病プロジェクトの中で、バーテンダーの知見を生かしボタニカルの調合を行って芳香蒸留水としてのノンアルコールジンを作ったのがNEMA誕生のきっかけとなった。

バーテンダー歴28年の北條氏の店には取材の最中も、その評判を聞きつけ海外からの来客者が立て続けに訪れた

現在はバーやレストランを中心に嗜好(しこう)品として楽しまれるNEMAであるが、ボタニカル成分の研究などが進めば、健康をサポートするアイテムにもなるのではないかと北條氏は考えている。

実際にNEMAを購入したお客さんから、北條氏のもとへ「出勤前に飲んだらシャキッとした」「運転前の気付け薬になる」などのコメントも届いているという。

まずは嗜好品として、今後ノンアルコールスピリッツが普及していくこと、そして味に加え効能も消費者に愛されていくような未来があるかもしれない。今後のNEMA、そして新ノンアル飲料の動向に注目である。(フードプロデューサー 古谷知華)