食に保守的なイタリア人、昆虫食の普及にも課題

「欧州が、粉砕したコオロギをピザ等に必ず入れると決定」という事実でないツイッター投稿が1月下旬に日本国内で大きく話題になった。欧州委員会は2021年以降、段階的に「EU域内でのコオロギ粉入り食品の販売を許可」をしており昆虫食の注目は高まっている。今回は、筆者が住むイタリアでのコオロギ粉入り食品の販売状況と、イタリア政府や国民の反応について紹介したい。

エコロジーに供給できる新しい代替たんぱく源

EU域内では2021年以降、段階的に冷凍や乾燥された数種の昆虫に関し食用原料として正式承認し、粉末状のコオロギの販売が認可されている。人口増加や地球環境の変化による食糧危機に対応するため、これまでの飼育動物よりもずっとエコロジーに供給できる新しい代替タンパク源として昆虫食が推進されているのである。

2018年1月1日に「新しい食品」に関するEU規制法が施行され、発展途上国の伝統食品として、すでにEU内での昆虫の食用が認められていた。当時、米国のハリウッド女優たちが、昆虫を新しいヘルシーな食材として食べる様子が報道され、話題作りは進められていた。

2019年のメーカーフェアで展示されていた昆虫食のポスター

ただEU政府の見解としては、単に昆虫食を認可したというだけで、食べたい人は食べてもいいが、食べたくない人は当然だが食べなくてもいいというものである。また、欧州食品安全機関は、18歳未満の子どもにはレッサーミールワームの摂取を控えるよう勧告している。昆虫食の販売を許可するEUの規則そのものに対して、科学的見解が分かれているのである。

「ヨーロッパの食材には、粉砕したコオロギの粉末が入っている」というツイートは完全にデマということがお分かりいただけたであろう。

イタリアではラベル明記などの措置も

EU域内における新ルールは、当然イタリアも適応が義務付けられる。とはいえイタリアは美食の国である。最近はかなり食のグローバル化が進んでいるとはいえ、長い食の伝統があり、食に対するこだわりが強く、また一方で保守派だ。なんといっても、イタリア政府に「メードインイタリー省」なるものが存在するほどである。

2019年のメーカーフェアのコオロギ粉入りクラッカー

今回のコオロギ粉末に関しては、農業大臣、保健大臣に加えて、メードインイタリー大臣が販売方法に関する新法案に調印した。主な内容は、昆虫の粉を含んだ食品は、必ずラベルに明記すること。さらに、昆虫食に抵抗のある人のことを配慮し、専用の陳列棚で通常の食材と分けて販売することまで含まれている。EUにおける決定に対して、食を大事にしてきたイタリア人が過剰に反応しないようにという対策であるとも考えられる。

「アンケートでは反対多数」と声明も

EUのコオロギ粉入り食材の販売許可に対して、すぐにイタリア農業生産者組合(Coldiretti)は、「イタリア人の大多数が昆虫食に反対している」と声明を発表。独自の調査によると、約半数以上のイタリア人が反対しているというのだ。また、イタリアパン組合も、「イタリアのパン職人の作るパンや焼き菓子などには、コオロギ粉は入れない」と表明。カトリック大学のクレモナキャンパスの研究センターによるアンケートでは、コオロギ粉入りの食品が食卓に上がったらどうか、という問いに対して、わずか10人に1人だけが肯定という結果であった。

イタリア生産者組合(COLDIRETT)の市場は良質な食材を求める人でにぎわっている

実際、現在のコオロギ粉の値段は1キログラム当たり70~80ユーロ、日本円に換算すると約1万1500円とかなり高額であり、そのため、まだ普及には時間がかかると考えられる。EUにコオロギ粉の販売を最初に申請したのはベトナム企業だが、コオロギ入りパスタを作るメーカーも誕生しており、今後のイタリアでの展開に注目が集まっている。(フードライター 鈴木奈保子)

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