新春特集第1部

新春特集第1部:人手不足対策 深刻化する物流環境

特集 総合 2020.01.01 11991号 04面

昨年は人手不足をめぐって、食品業界でもさまざまな変化が起きた1年だった。物流分野では配送業者の値上げが一巡し、わずかに緩和されたとの話も聞かれるが、増大したコストが企業へ重くのしかかる構造は依然変わらない。昨春はメーカーが物流費の高騰を主因に4年ぶりの値上げを実施したほか、納品リードタイム延長の動きが急速に拡大するなど、合理化へ従来の商慣習を見直す動きも相次いだ。卸業界では日本加工食品卸協会(日食協)がドライバー不足の改善へ向けて業界標準のトラック入荷予約・受け付けシステムの本格普及へスピードを上げているほか、卸各社の物流協業への動きも拡大。大手NB5社の連携による「F-LINE」をはじめ、直近でもメーカー同士が物流合理化へ連携する動きも相次ぎ表面化している。今年は東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)の開催などで労働力不足に一層の拍車がかかるともいわれ、いかに難局を乗り切るか正念場を迎えている。(篠田博一)

◆メーカー・卸 業界連携で難局打破へ

○4年ぶり値上げラッシュ 納品リードタイム延長など

物流分野は国内全産業の中でも深刻な人手不足に陥っており、主な要因にトラックドライバーの高齢化やネット通販など宅配需要の拡大、平均4割ともされる積載効率の低さなどが挙げられる。加えて、ドライバーの拠点における荷待ち時間の長さなども人手不足の大きな原因となっているが、特に食品流通はこの待機時間が全産業中最悪(国土交通省調査で平均1時間45分)ともいわれる。現行の食品流通を成立させるには夜間運転や深夜の仕分け作業といった過酷な労働環境が前提となるため、ドライバーに仕事を避けられる傾向が強いのが実情だ。

このため食品流通に対する物流業者の値上げが続いており、業界は恒常的な経費の上昇に苦慮している。昨春、食品業界では即席麺や飲料、冷凍食品、アイスクリームなどの主要カテゴリーが一斉に価格改定を表明し、4年ぶりの値上げラッシュへ突入した。

背景には昨年10月の消費増税前に値上げしたいメーカーの思惑もあったとみられるが、「各社の話を聞くと、バブル景気で人手不足に陥った1992年の値上げ時と酷似した状況」(大手卸幹部)との声も聞かれ、限界に達した物流コストの吸収へ向けて川上の足並みが揃った印象が強い。

昨年は値上げと並行し、メーカーの間でリードタイム延長の動きが急速に広がった。食品流通では受注翌日納品が慣習となっていたが、これを受注翌々日納品へ変更する動きが表面化。人手不足で車両確保に苦慮するメーカーが卸倉庫への納品を1日延ばし、浮いた時間に集車や配車を安定させ、出荷作業の効率化やコスト低減を図ろうという試みだ。

受注翌々日納品は日清食品やキユーピーなどの一部大手NBが先行して行っていたが、昨年は味の素社が恒常化を決めたほか、飲料や酒類、菓子などの複数カテゴリーで拡大。ただ、この要請を無条件でのめば、卸段階にリードタイム延長分の在庫積み増しや倉出し物流増加によるイレギュラーなコストの発生など、新たな負担がのしかかる。一方で卸は小売業が指定した従来通りの納品条件を、厳密に守らなければならない事情もある。

このため、昨年9月には日食協がメーカーのリードタイム延長に伴う協力要請文書を製販へ提出。メーカーには入荷業務を合理化するASN(事前出荷データ)の活用やパレット化の一層の推進、小売業には配送頻度の最適化やセンター着時間の柔軟な対応などを要望し、川中にかかる負荷軽減やサプライチェーンの生産性向上へ理解を求めた。

物流危機を背景にメーカーのリードタイム延長は今後も拡大することが必至の情勢だが、この問題はサプライチェーン全体で臨む姿勢なくして前進は難しい。3層の連携で持続可能な物流を実現すべく、慎重な対応が望まれる。

○N-Torus普及拡大へ本腰

日食協では卸業界の最適な環境整備へ活動を進めつつ、自らもドライバー不足の改善へ向けて「トラック入荷受付・予約システム」(愛称=N-Torus)を開発。昨年初から業界への普及を本格的にスタートし、昨年12月までに製配販の13社・26拠点へ順調な広がりを示している。

同システムは食品物流における過度なドライバー待機時間の削減を目的に、農林水産省の17年度補正予算における支援事業で富士通に委託して開発。ドライバーが一度登録すれば、どの企業の物流拠点でも入荷手続きの手間が省けるよう、クラウド型の業界標準システムとしたのが特徴。ドライバーのスマートフォンや携帯電話を通じて車両を空いたバースへ効率誘導するなど、一連の業務を円滑化できる機能も持つ。

現在の導入企業は卸が三菱食品、日本アクセス、国分グループ本社、加藤産業、三井食品、伊藤忠食品、日本酒類販売、ヤマエ久野、トーカンの9社で、メーカーが味の素社と東洋水産、ハウス食品グループ本社、小売業は西友。主要卸はじめサプライチェーン全体が利用する順調な進捗(しんちょく)で、日食協は今後3年間で100拠点への導入を目指している。

今後、「N-Torus」は第1フェーズ機能であるトラック予約・受け付けだけでなく、画像認識技術による車両ナンバーの自動読み込みやGPS(衛星利用測位システム)連動の位置情報把握システムなど業務効率化に資する機能を順次拡大し、ドライバーの労務環境改善をはじめ物流危機の緩和につなげたい考えだ。

昨年は国土交通省・経済産業省・農林水産省がドライバー不足の対策へ向けた「ホワイト物流」推進運動を国内の主要企業へ呼びかける動きも始まった。これを受け、大手卸の伊藤忠食品が「N-Torus」を活用したドライバーの労務環境改善で業界初の自主行動宣言を表明。日食協の業界協調事業を軸に川中の持続可能な物流への取組みは新たな広がりも見せている。

○メーカー同士の輸送協業も加速

卸業界では共同配送などの業界連携へ取り組む動きが活発化しているが、メーカー間の物流協業へ向けた動きも一段と加速してきた。

昨年4月に大手NB5社(味の素社、ハウス食品グループ本社、カゴメ、日清フーズ、日清オイリオ)が出資する物流合弁会社・新生「F-LINE」が発足。新たに全国対応組織としてスタートを切り、食品物流の抱える課題を新たな戦略で解決する「超・物流」の実現へ活動を加速している。

昨年12月にはアサヒグループホールディングスと江崎グリコなど6社が業種の枠を超えて手を組み、東名阪の幹線輸送の効率化へ向けた取組みを開始した。日本パレットレンタルとエバラ食品工業、サッポロホールディングスの3社も西日本エリアにおける共同輸送を同月からスタートするなど、人手不足に起因するメーカー同士の協業は今後も多様なパターンで広がりそうだ。

今年は東京2020大会の開催へ向けて人やモノ、交通などの動きが大きく変化すると予想され、物流だけでなく飲食や各種サービスの分野でも人手不足がさらに深刻化するともされる。企業個々の努力で物流の省力化や自動化へ取り組むことはもちろんのこと、競争領域と協調領域を切り分けて、業界連携で難局へ臨むスタンスが一段と迫られる局面だ。

◆小売 CVSは時短営業 SM、システム化・機械化で

小売業の人手不足対策は、コンビニエンスストア(CVS)では、昨年2月に大阪・東大阪市に店を持つセブンイレブンのオーナーが対策として時短営業を始めたことが発端となってCVS加盟店の労働環境が社会問題として報じられたことを機に、経済産業省がCVS各社へ実態調査と行動計画の策定を要請するという形から動き出した。要請を受けたCVS各社は、省人化を柱とする店舗作業の効率化や時短営業店の実験、加盟店とのコミュニケーションの強化などの対応策を推進するとした行動計画を同年5月に公表した。時短営業店の取組みのほか、セミセルフレジの全店導入をはじめとした作業効率向上のための施策も進めている。

食品スーパー(SM)もシステム化・機械化、労働生産性の向上などで対応を図る。日本スーパーマーケット協会、全国スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会のSM3団体は毎年10月に公表する「スーパーマーケット年次統計調査報告書」の19年版(19年6~8月調査)によると、システム化・機械化による人手不足対策の取組み内容は、「セルフレジ、セルフ精算レジの導入」の割合が、複数可で求めた回答企業275社集計から算出した業界推計で62.5%(回答企業集計で68.0%)、前年差10.9ポイント増(同10.9ポイント増)と最も高く、次いで「自動発注システムの導入」の同34.4%(同39.5%)、同1.7ポイント増(同0.6ポイント増)だった。回答を保有店舗数別に見ると、26店舗以上を保有するSMでは「自動発注システムの導入」が26~50店で64.5%、51店以上で72.2%と60%を超える。また、保有店舗数が多くなるにつれて「セルフレジ、セルフ精算レジの導入」の割合が高くなる傾向が見られるという。

このほか、対策としては、正社員の定年年齢の引き上げ、パート・アルバイトの正社員化、パート・アルバイトの時給単価の引き上げ、高齢者のパート・アルバイトでの雇用、外国人の雇用などの取組みがある。外注化(外部委託)も広がる兆しがある。

同報告書では、SM各社が想定する正社員とパート・アルバイトのそれぞれの人数に対して実際にはどの程度満たしているかの割合を充足率として算出している。19年調査の充足率は業界推計全体で正社員が84.9%、前年から2.0ポイント改善したが、17年の87.7%には1.8ポイント及んでいない。パート・アルバイトについては85.2%で、前年から3.9ポイント改善、17年からも0.3ポイント改善した。正社員が不足しているのは、水産・鮮魚部門が最も多く、回答企業集計から算出した業界推計で56.6%、前年差1.4ポイント減、次いで惣菜部門の同47.6%、同2.2ポイント減、レジ部門39.0%、同3.5ポイント減。パート・アルバイトが不足しているのは、レジ部門の同77.6%、同0.8ポイント減、水産・鮮魚部門の同59.4%、同0.7ポイント減、惣菜部門の58.2%、同6.0ポイント減となっている。(川崎博之)

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