新春特集第1部

新春特集第1部:ゲノム編集食品の開発 農林水産業の課題解決に

特集 総合 2020.01.01 11991号 08面
写真(1)=超多収イネは収穫量が増え低コスト化に

写真(1)=超多収イネは収穫量が増え低コスト化に

写真(2)=日持ちするトマトは長距離輸送もできる

写真(2)=日持ちするトマトは長距離輸送もできる

写真(3)=芽が出ても安心なジャガイモ

写真(3)=芽が出ても安心なジャガイモ

写真(4)=紫色のシャインマスカットも

写真(4)=紫色のシャインマスカットも

写真(5)=白いままのマッシュルーム

写真(5)=白いままのマッシュルーム

写真(6)=おとなしいマグロなら死亡率が低減する

写真(6)=おとなしいマグロなら死亡率が低減する

写真(7)=筋肉量が増加するマダイの研究

写真(7)=筋肉量が増加するマダイの研究

●消費者理解が喫緊の課題

厚生労働省が19年10月1日から、遺伝子の狙った部分を効率よく改変する「ゲノム編集」食品の販売へ向けた届け出制度を開始した。日本の農業は、耕地面積の減少、農家の高齢化などによる離農、食料自給率の低下、地球温暖化による栽培適地の変化、和食の海外普及による高品質な農林水産物の輸出チャンスの拡大などの課題を抱えている。ゲノム編集食品の開発は生産性向上、農作業軽減、高付加価値化などで課題を解決する可能性がある。一方で、届け出、表示とも任意で、遺伝子組み換え食品との差異が消費者に理解されず、ゲノム編集食品のリスクの有無も明確になっていない。

農業・食品産業技術総合研究機構企画戦略本部新技術対策室の田部井豊室長によれば、さまざまな理由でDNAが切れることはよく起こっているという。生物は切れても元通りに直る場合が多いが、10万~100万回に1回は修復ミスが起きて、一部が欠失する、塩基が置き換わる、ほかの配列が挿入されるなどで、正常に働かないことや機能が変わることがある。ゲノム編集は、遺伝子を切るはさみを、狙った場所に送り込む技術で、自然に起きる突然変異を意図的に狙い通り起こすことで、遺伝子組み換え食品との違いは導入する遺伝子が最終品種に残らない点だという。

超多収イネ(写真(1))、甘くて日持ちするトマト(同(2))、芽が出ても安心なジャガイモ(同(3))、紫色のシャインマスカット(同(4))、色が白いままのマッシュルーム(同(5))、おとなしいマグロ(同(6))、肉厚のマダイ(同(7))などがゲノム編集で開発中だ。

イネはコメの収穫量を増やして低コスト化できる。トマトは日持ちがよくなれば完熟してからの収穫が可能になり長距離輸送ができるようになる。ジャガイモは新芽に含まれ食中毒の原因となる天然毒素ソラニン、チャコニンが生成されないようになる。シャインマスカットは単価が高くデラウエアから栽培を切り替える農家が増えている。糖度が高く皮ごと食べられ、栽培もしやすいため、緑だけでなく別の色の品揃えが期待される。

マッシュルームは時間がたったり乱暴に扱うと褐変するため廃棄されている。マグロは養殖中に網に激突するなどして約3割が死亡しているという。マダイは、骨格筋増殖の抑制遺伝子のノックアウトによって筋肉量が増加する研究が行われている。

米国ではゲノム編集植物は規制対象外で、既に多数の実績がある。豪州はほぼ日本と同じで、遺伝子組み換え食品は規制対象となっている。ニュージーランドは世界で初めてゲノム編集作物を規制した。

ゲノム編集は、規制を受けない従来の品種改良でも用いられてきた手法で線引きは難しいが、日本消費者団体連盟などが表示の義務付けを求めている。消費者の理解を広げることが喫緊の課題だ。

(小島麻由美)

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