米菓特集
◆米菓特集:19年度は前年並み堅持 伝統菓子の価値認められる 各社仕掛け奏功
◆20年度、成長へ投資戦略も
19年度(19年4月~20年3月)の米菓市場は生産金額ベースで、ほぼ前年並みの2800億円前後で着地しそうだ。食品需給研究センター調べの1~12月生産量は0.1%の微増で着地し、家計調査の1~12月でも1.9%増。また米菓市場全体の約7割を占める新潟県メーカーだけ見ても、各社明暗はあるが単純合算では前年を超える見込みで、総じて堅調な市場といえる。日本の伝統菓子として価値が認められていることや、各社のプロモーションによるさまざまな仕掛けが功を奏しているようだ。迎えた20年も底堅い推移が見られそう。新型肺炎による影響は先行きに不透明感が漂うが、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会によるTV観戦など内食回帰による需要増やインバウンドは期待できそう。また、引き続き若年層へ消費を喚起するため、米菓の洋風化商品の開発や、次の成長戦略を見据えた投資が見られるなど、新たな価値の創造への取組みを各社進めている。(山本大介)
●19年市場=好調なおつまみ需要
食品需給研究センター調べの19年1~12月米菓生産量は、前年比0.1%増の22万1796tだった。うち、もち米を主原料に製造するあられは1.3%減の9万2259t、うるち米を主原料に製造するせんべいは1.2%増の12万9537tとなった。生産ではあられとせんべいに分けているが、近年はミックスした商品や洋風米菓もあって、一概にはくくれなくなってきている。
全国菓子協会がまとめる米菓の生産金額推定では、直近3年間の推移を見ると16年に2730億円(前年並み)、17年に2816億円(前年比3.2%増)、18年に2778億円(同1.3%減)と一進一退を繰り返しているが、3月期の19年度は2800億円前後と推計される。
19年は、ゴールデンウイーク10連休後の5月以降に消費の落ち込みも見られたが、7月の梅雨寒影響で伸長。逆に8月以降は猛暑で苦戦した。消費増税がスタートした10月以降は、食品は軽減税率が適用されたものの、酒類や外食は増税となり内食回帰が進んだとみられ、柿の種や小袋あられなどおつまみ商品が好調だった。また、台風などの災害前の保存食として仮需も見られたようだ。下期はどの月もほぼ前年超えで推移している。
米菓業界は原材料や物流費などのコストアップ要因が続き厳しいながらも、小売業の店舗が飽和状態の中で、廉価なドラッグストアなどが伸長し価格重視に偏る傾向が見られ、低価格競争は一段と激化しているのが現状。
こうした環境下で、各社は主力商品に集中し総アイテム数を削減するなど、選択と集中を進めてきており、その傾向は続いている。
ただ、次世代を見据えた新たな取組みも見られた年だった。昨年は米菓トップの亀田製菓がマツコデラックスを起用し、プロモーションを強化。「ハッピーターン」のリニューアルに加えて、「亀田の柿の種」のピーナツ比率を現状柿の種6対ピーナツ4を、国民投票結果を受けて7対3へ変更するプロモーションを展開し、大きく注目された。
急成長中の三幸製菓は、CMキャラクターの蒼井優の結婚で注目され、さらに秋からは指原莉乃を新イメージキャラクターに起用し積極的なTVCMを展開するなど、米菓の露出度を高めている。
越後製菓は、通常の柿の種の半分の硬さを生み出した全く新しい「ふんわり種」を上市し、新市場を創出している。
また、米菓市場も環境配慮の動きが活発で、亀田製菓は今年3月までに11品でスリムなエコパッケージを採用。岩塚製菓も一部商品でプラスチックトレーを廃止。栗山米菓も新商品でスリムパッケージにするなど、徐々に拡大している。商品特性上割れるものについては、プラスチックトレーを外せないなどの事情があるものの、今後も環境配慮の流れは可能な範囲で進むとみられる。
●健康米菓=潜在ニーズに可能性
17年に各社健康を切り口とした米菓商品を相次いで投入し、18年は浸透しつつあるかに見えたが、嗜好(しこう)品の米菓で伸び悩み感は否めない。主要メーカーで糖質オフをうたった商品は岩塚製菓の「ふわっと」が残っており、阿部幸製菓が食・楽・健康協会に加入して米菓で培った技術を生かしたロカボ商品「パスタスナック」を展開。また、亀田製菓の「減塩亀田の柿の種」が唯一好調に推移しているといえる。
ただ、嗜好品に健康を求める潜在ニーズは確実にあり、栗山米菓は、安全・安心・おいしさを大前提としながらも、そうしたニーズに対応するため「タニタ食堂監修」商品を引き続き展開していく。
一方で、昨年からの傾向として素材そのものの価値を再確認する動きも出ている。岩塚製菓は以前から国産米100%にこだわり素材の特徴を前面に打ち出してきたが、化学調味料を不使用にした新商品「黄金揚げもち」を上市。特に塩味は、食塩のみの味付け。健康米菓ではなく、“米よりおいしく米を味わう”がコンセプトで、おいしさを追求した結果が健康価値も付加された。国産原料にこだわった動きや、添加物不使用といった健康訴求は今後も続きそう。
●20年度市場展望=米菓の洋風化に注目
米菓市場は50~60代の購買層がメーンで、次の消費をになう若年層の需要開拓が次の成長ステージの鍵だ。画期的なヒット商品の不在などもあって、堅調な市場だが飛躍への決定打が見いだせない状況。こうした状況から抜け出すために、洋風米菓の新たな可能性の模索や、カップ容器・チャック付きパウチ商品といったスナック菓子売場へも進出できるような取組みが見られそうだ。
柿の種にチョコレートをかけたり、チーズおかきなどに代表される米菓の洋風化は進んできた。こうした動きに加えて、コメの伝統文化を守る重要な使命を背負いながら、安定市場に安住せず新しい取組みも見られる。
三幸製菓やブルボンは、チャック付きパウチ商品で、チョコレート菓子やスナック菓子の売場でも並べられる商品を相次いで投入。米菓売場から一歩抜け出して、新市場を見据えた動きだ。カップ容器にも注目が集まる。トップの亀田製菓が柿の種を砕いて固めた新食感を実現した「タネザック」でカップ容器を採用。今後も米菓だけの競争ではない市場へ出て行くためには、容器の視点も重要な戦略となりそうだ。
また、米菓の洋風化では、相性の良いチーズ商品が多く見られる中、夏場は難しいが越後製菓の「ふんわり名人」で展開しているラテやミルクチョコレート掛けなど、乳やチョコレートとの組み合わせも見られる。阿部幸製菓は、全く別の切り口で「柿の種のオイル漬け」を展開する。あられ・せんべいを王道に、各社さまざまな展開で、若年層の新たなニーズ獲得を目指している。
三幸製菓や岩塚製菓、阿部幸製菓など新工場や商品開発ラボへの投資が進んでいる。まったく新しい米菓の誕生も期待したいところだ。
●海外需要=新型肺炎で不透明感
新型肺炎の影響が今後どこまで広がるか不透明な部分が多い。原材料面では2月末現在では在庫などもあって心配はないが、今後長引けばピーナツや米粉などにも影響が出てくる。
また、国内のインバウンド需要は明確にはわからないものの、土産需要や訪日時の直接消費など、高品質で日本の伝統でもある国産米菓のニーズは高い。訪日観光客の今後の動向を注視する必要があるものの、新型肺炎の早期終息や東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催によって、米菓市場への追い風になる。
一方、輸出については、通関統計を見ると金額ベースで、16年が前年比1.6%減の38億0779万円と減少したが、17年に同9.9%増の41億8639万円、18年に同5.8%増の44億2460万円と年々増加。国内消費が安定しているとはいえ、人口減少や世帯構成人員の減少など大きく変化する中、海外を視野に入れた取組みも今後重要となりそうだ。