食品を瞬時に分析、フランスで大ヒットの神アプリには批判も

食品表示の理解は難しい…日々の買い物で悩む消費者のためのスマホアプリ「Yuka」はフランスを含む欧州9ヵ国、米国、カナダ、オーストラリアにも展開し、4年間で2100万人のユーザーに使用される人気アプリとなった。サービス概要、消費者の反応、食品業界へ与えた影響、専門家が指摘する問題点などを紹介する。

食品のバーコードを読み込みスコア化

アプリの使い方は非常にシンプル。ユーザーがアプリ内のカメラで商品のバーコードをスキャンすると、その商品の栄養価やアプリが判定したスコアを瞬時に確認することができる。

YukaアプリHPより

実際に試してみると、ついあれこれとスキャンしてみたくなる衝動に駆られてしまう。Yukaアプリは単純化した分かりやすい情報提供によって、消費者が健康や環境に配慮した商品を購入するよう促すとともに、食品メーカーに対してそれらに配慮した商品づくりを求めることを目的にしている。

「健康」と「環境」の視点で食品を分析

現在、Yukaアプリが食品に対して表示するのは健康と環境への二つのスコアだ。健康スコアには、フランス政府主導でスタートしEU各国でも採用が進む栄養プロファイル制度「Nutri-Score」を反映している。

Nutri-Scoreは栄養情報を簡略化し、パッケージ前面に表示する「フロントオブパッケージラベル」だ。エネルギー・飽和脂肪酸・糖分・塩分など避けるべき要素と、タンパク質・食物繊維・果物・野菜などの要素で計算し、AからEの5段階にランク分けされる。現時点ではメーカーがこのラベルを商品につけることは任意となっている。

普通牛乳の健康スコア(画面左)とエコスコア(画面右)

「Eco-Score」はYukaアプリがフランスの食品関連のIT企業や市民団体とともに立ち上げた民間主導の環境影響指標だ。原材料の生産や運搬で発生する二酸化炭素排出量、リサイクル可能なパッケージを使用しているか、パーム油の使用有無などをもとに環境負荷を5段階で評価する。

Yukaアプリは健康スコアが低評価の商品に対して代替案が提示される仕組みとなっている。ユーザーは買い物の際に比較しながらどの商品を買えばいいのか判断できるのだ。

スコア評価や代替商品の推奨に影響を与えないよう、メーカーや業界団体からの資金提供や広告を受けず、中立の立場を守る姿勢はユーザーから信頼を得ているようだ。Yukaアプリの影響を鑑みて、スコアを良くするためにプライベート商品の原材料を見直すことに踏み切る大手スーパーマーケットなども現れた。

出典元:
Nutri-Score
Front-of-pack Nutri-Score labelling in France: an evidence-based policy – The Lancet Public Health
Comment Intermarché va modifier 900 recettes pour augmenter ses scores Yuka
Présentation – Eco-score

「食の安全への誤認」で訴訟も

しかしながら、Yukaアプリは専門家や業界団体からの批判も多く、一部は裁判にも発展している。

例えば、Yukaアプリの健康スコアが前述のNutri-Scoreを60%、食品添加物やオーガニックによる影響を40%として判定している点だ。フランス国立保健医療研究所の栄養疫学研究チーム長が「添加物の使用と健康リスクとの間には科学的に確立された関連性はない」と指摘しているなど、Yukaアプリの健康スコアの正当性には疑問の声も多い。

食品添加物についての画面

また、缶詰のアルミニウムや、食肉加工品への硝酸塩や亜硝酸塩などの食品添加物に対してYukaアプリが不適切な情報発信や呼びかけをしているなどとして複数の訴訟におよんでいる。5月に裁判所は関係団体への名誉毀損および不正・虚偽的な商業行為に対する賠償をYukaアプリ側へ命じた。

出典元:
Yuka condamnée à payer 3000 euros pour avoir dénigré les conserves
Legalis | L’actualité du droit des nouvelles technologies | Yuka condamnée pour dénigrement et pratiques commerciales déloyales

日本でも食品が健康だけでなく環境へ与える影響が認知され始めている。しかし、単純化された情報は消費者に理解されやすいものの、健康や環境への影響評価は複雑で、単純化は非常に難しい。また「食品添加物は安全性が評価されたものや長い食経験があるもの」という理解が消費者に浸透しておらず、ゼロリスクを求めてしまう風潮は海外も日本と同じ状況にあるようだ。

Yukaアプリやその他類似アプリの食品安全への正しい理解や肝心の分析スコアの正当性については今後に期待したい。(在フランス管理栄養士ライター 高城紗織)

書籍紹介