パン特集

◆パン特集:「イーストフード、乳化剤不使用」表示が新課題に

小麦加工 2019.06.17 11893号 09面

2019年の製パン業界は、原材料価格の高騰、人手不足、物流費の高騰など、ここ数年継続している課題に加え、「イーストフード、乳化剤不使用」強調表示という新たな課題に直面している。一方、4月期の輸入小麦政府売渡価格が、16年10月期以来5期ぶりに引き下げられたことや、19年1~3月のパン生産数量(食品需給研究センター公表)が、31万2047tで1.3%増と18年の減産から復調傾向に転じたこと、さらに18年7月の値上げ以降、パン価格に上昇傾向がみられるなど明るい話題もある。(青柳英明)

●輸入小麦売渡価格下げなど、明るい話題も

○18年生産数量2.7%減、今年に入り復調傾向

18年のパン生産数量(食品需給研究センター公表)は、122万0746tで前年比2.7%減と苦戦した。食パンは、58万4825tで同2.8減。菓子パンは40万1028tで同2%減、学給パンは2万4354tで同2.1%減、その他パンは21万0539tで同3.3%減となった。月別では、7月が4.7%減、8月が4.9%減と大幅に減少し、記録的な猛暑を受けた格好だ。さらに、7月に実施した値上げも影響したと推測される。19年1~3月のパン生産数量は、31万2047tで1.3%増と復調傾向となった。

食パンは14万8184tで同1.4%増。菓子パンは10万2662tで同0.7%減、学給パンは6268tで同2.4%増、その他パンは5万4933tで同4.9%増。

○強調表示は製パン業界全体の課題

日本パン工業会の飯島延浩会長は、食パン・菓子パンの包装紙に「イーストフード、乳化剤不使用」などを強調した表示を製パン業界の課題とする考えを5月16日に東京都内で開催した総会後の会見で明らかにした。

飯島会長は、「イーストフード、乳化剤不使用」と強調表示された製品に、「食品添加物としての表示義務を回避する代替物質が使用されている」こと、「量産ラインによる食パン、菓子パン製造でイーストフード、乳化剤の使用は、製パン技術の根幹となる」こと、さらに「イーストフードや乳化剤は安全、健康面で問題があるとの誤認」「イーストフードや乳化剤不使用表示製品は使用製品よりも優位性があるとの事実誤認を与えるおそれ」があり、適切な表示とはいえないと指摘。現在、同会や日本パン公正取引協議会で「イーストフード、乳化剤不使用」強調表示をやめるために公正競争規約改定作業を進めているが全会員の合意には至っていない。飯島会長は、協議を進め早期に「消費者の自立的・合理的な商品選択に資する、添加物表示のあるべき姿」の実現を目指す考えを強調した。

この問題については、19年1月から同工業会と日本パン公正取引協議会で「イーストフード、乳化剤不使用」強調表示が行われた経緯と該当食パン・菓子パンに含有する油脂中の乳化成分の分析を実施。その結果、該当するパンに使用されている油脂類は、添加物表示欄に乳化剤としての表示を必要としない、新規技術で開発され、添加物表示を回避しているが、乳化剤は代替物に代替され、該当するパンの生地中には乳化成分が定性・定量されており、イーストフードも代替物だった。

19年4月に消費者庁が開始した「食品添加物表示制度に関する検討会」でも添加物不使用などの強調表示の是非に関する議論が開始されたことを受け、油脂業界が開発した食品添加物としての義務表示を回避する技術で拡大したことから、日本マーガリン工業会に、油脂業界が開発した新規技術が、「イーストフード、乳化剤不使用」強調表示を保証し担保できるかを問い合わせたところ、「できるものではない」との回答を得た。この見解を、製パン業界、油脂業界の共通基盤とし、業界内合意実現のために協議し、日本パン公正取引協議会で公正競争規約を変更する。

なお会見で、桐山健一副会長は、「当社(神戸屋)は1994年からイーストフード・乳化剤無添加施策を進め、一貫して、おいしさの観点から無添加を志向してきた。当社は小麦本来のうまみに注目して食感と合わせたおいしさをお客さまに届け、選択肢を増やしていきたい」との考えを示した。

○「人員不足が加速」、製パントップ指摘

5月に行われた、日本パン工業会の会見で製パントップが、製パン業界の課題を次のように指摘した。

細貝理榮副会長は、「物流での人員不足は解決の方向ではなく悪化している。物流担当者の高齢化も加速している」と人手不足を指摘。盛田淳夫副会長は「実質賃金の減少で消費の現状は引き続き厳しいと理解している」と述べた上で、今春以降に相次いだ食品業界の値上げについて今後、店頭価格にどのように反映されるか注視したい」とした。また、ここ数年で高級食パン専門店が活況を呈して、市場規模200億~300億円に成長しているとし、多様な消費者のニーズにきめ細かく応える必要を指摘した。

安田智彦副会長は、少子高齢化が進む中、パン食の特徴の簡便性で市場拡大につなげるとした上で「より一層、社員が誇りを持ち明るく元気よく働ける環境整備に取り組む」との考えを示した。

○外国人積極受け入れ省力化、共同配送も

本紙が、6月に実施した「製パン業界の課題」アンケートで、「人手不足」「適正な収益確保」などの課題が再度浮き彫りになった。

ある製パンメーカーは、「依然として原材料の価格が高騰する中で、パン業界として適正な収益の確保が課題」とした上で、生産システムに潜むロスをゼロにし、企業収益を拡大し企業体質を強化するTPM活動を継続しあらゆるロス、ムダ、コストの削減に努めるなど各種合理化策を実施すると回答。人手不足に対しては、フィリピンからの外国人技能実習生を積極的に受け入れるなどして対応しているという。

別の製パンメーカーは、人手不足への対応について、「パート、アルバイトの正社員登用を増やすことでモチベーションを向上させている」と同時に、「工場内での省人化や共同配送などを実施している」と回答。

○18年7月価格改定、店頭価格是正進む

18年7月に、小麦粉・油脂類・包装資材に加え、人件費や燃料費など各種コスト増の吸収は企業努力では難しいと判断し、大手製パンメーカーを中心に一部製品の値上げを実施。小売業との価格改定の折衝では、かつて見られたような拒絶反応は見られなかったという。コスト上昇要因の中でも、人手不足を起因とする、人件費や物流費高騰への危機意識は、小売業も共有することが背景にあるようだ。

各社の価格改定が出揃った8月以降の販売単価は、2%程度上昇するなど店頭価格の是正は進んだ。山崎製パンが公表している資料では、18年の単体ベースの食パン売上高は、前年比0.1%増で、平均単価は1.3%上昇し、数量は1.2%減、菓子パンは、平均単価1.6%上昇し、数量は1.5%減で、デフレ改善の動きが見られた。

一方、販売単価は上昇したが、価格改定の時期と、記録的な猛暑の襲来時期が重なってしまったことで、需要が減少し販売個数が減少、トータルの販売実績は前年並みとなった。こうした声がある一方で、小売業への折衝では理解を得ることができたとしながらも、生活者の根強い低価格志向の影響で店頭価格への反映は限定的との指摘もある。

○「パン給食」週2回へ 推進協、着実な活動

18年10月18日に設立された「学校パン給食推進協議会」では、学校給食の回数減少という課題に取り組んでいる。日本の食文化継承食育の一環としてパン給食の重要性を周知し、全国平均で週1.3回の「パン給食」を週2回へ引き上げることを目指す。会長には西川隆雄全日本パン協同組合連合会(全パン連)会長が、副会長には飯島日本パン工業会会長と細貝理榮パン食普及協議会会長が就き活動を行う。具体的には、国内産小麦を使用した、おいしく栄養面にも配慮したバラエティー豊かな学校給食パンの開発をパン学校に依頼し、岐阜県の学校給食関係者への提案やラインテストによる品質確認を実施するなどのプロジェクトを進行。さらに、全国学校給食会連合会などが主催する学校給食協議大会に参加し、栄養教諭などの関係者に対し協議会の取組みを紹介したところ、主催者側から前向きな反応を得るなど、パン給食への理解浸透を広げる活動を着実に進めている。

学校パン給食は、都道府県学校給食会などから、原料、配合、加工賃が指定される「委託加工」で生産されているのが現状だ。子どもが家庭で食べる、市販のパンのおいしさなどと乖離(かいり)していることから、国産小麦を使用しながらパン食の多様性やおいしさなどに配慮した基本レシピの作成にパン技術研究所の協力を得て取り組むことも盛り込んだ。同協議会には製パン業界団体や製粉、イースト、マーガリン、製パン・製菓機械、フラワーペーストなど各業界の団体や企業が参加する。

パン給食の減少は、09年文部科学省スポーツ・青少年局長からの「米飯給食の推進について、週3回以上を目標として推進し、すでに週3回以上の地域や学校については、週4回程度など新たな目標を設定し実施回数の増加を図る」との通知が現在でも学校給食の現場に残っていることが問題となっている。一方、第3次食育推進基本計画骨子で「第2次食育推進基本計画」に記載された「米飯給食の一層の普及・定着を図りつつ」から「米飯給食を着実に実施するととともに、児童生徒が多様な食に触れる機会にも配慮する」と変化。

さらにこれを受けて、文部科学省初等中等教育局長から都道府県教育委員会教育長や都道府県知事などに宛て、7月31日に通知され8月1日に施行された、「学校給食実施基準の一部改正について」文書の「学校給食における食品構成」に関する項目中に「多様な食品を適切に組み合わせて(中略)さまざまな食に触れることができるようにすること」とされ、「多様な食品」の例として「穀類においては、精白米、食パン、コッペパン、うどん、中華麺など」と明記された。これを好機ととらえ協議会を設立し課題解決につなげる。学校パン給食推進協議会設立後、TV、一般紙など大手メディアで学校給食パンの現状を紹介するケースが増加した。学校給食パンの現状をそのまま伝える内容で、この問題が一般的に知られることにつながった。

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