昆虫食の自販機が増加 かわいい路線やヘルシー路線の模索も

食品としての昆虫、食べたことがありますか? もしくは、食べてみたいと思いますか? 2030年までに持続型社会を目指すSDGs(持続可能な開発目標)について、メディアでも取り上げられることが多くなっており、環境問題、エネルギー問題、将来的な食料難が重視される昨今、地球を救う新しい食品として「昆虫食」が注目されている。抵抗感が強い人も多いだろうが、昆虫食は、日本でも短期間のうちにさらに大衆化するだろうと筆者は感じている。特に若い世代には、“キワモノ”ではなく、「環境に負担の少ない食品」としてすんなり受け入れられているように感じている。

食料問題対策として昆虫に注目

昆虫食は、国際連合食糧農業機関(FAO)が2013年に公表した、食料・飼料問題対策として昆虫に注目している報告書がきっかけとなり、欧米を中心に注目されてきたといえる。牛や豚に比べて、飼育する際に地球環境に与える負荷が少ないという利点に加えて、栄養価が高い点も受け入れられている。

牛や豚などの家畜に比べ手軽にビジネス化もしやすいため、コオロギを主として昆虫食関連のビジネスが生まれている。さらに、2018年にEU(欧州連合)加盟国で昆虫を「Novel Food」(ノベルフード=新規食品)と認可したことも機運を高めた理由といえそうだ。

日本の伝統的な昆虫食

元来、長野県などではイナゴや蜂の子などを食べる食文化があるが、日本国内でも昆虫レストランや昆虫食を出す店が都内にとどまらず、北海道から長崎、福岡まで全国区で徐々に広がっている。現状としてはほとんどが輸入のしている昆虫に関して、さほどの地域性がないのかもしれない。

自販機での購入ターゲットは

特に注目したいのは自動販売機での増加だ。なぜ今、昆虫食の自動販売機が増えているのだろうか。理由はいくつか考えられる。コロナ禍において、外食がしにくい現在では、「新たなメニューや商品」に出会う機会も減っている。家庭食ばかりを食べていても飽きてくるし、そもそも生活そのものに変化が得にくくなっている。自動販売機であれば、新たな“味”に手軽に挑戦しやすい。さらに、人知れず購入することも可能だ。こうした背景から、自動販売機ビジネス自体が、コロナが収束してからも、今後の販売チャンスを生むといってもよいだろう。

秋葉原に設置された昆虫食の自動販売機

東京の中野ブロードウェイなどに自動販売機を設置しているティ・アイ・エスのラインアップは広い。シンプルな塩味で、虫の原型が見える“ベテラン用”なものから、コオロギを粉末にして生地に練り込んだ米菓やプロテインバーなど、原型が残らないよう加工した“初心者用”のものまである。それほど、昆虫食は食べる側の意識や経験値に差が出る食品なのである。

一方で、ジビエ居酒屋「米とサーカス」を手掛ける亜細亜Tokyo Worldは、ターゲットを絞った昆虫食の自販機を展開している。秋葉原に設置された自販機は、「MOGBUG」(モグバグ)という名称でブランディングして、ターゲットを女子に寄せている。販売機自体をピンクのイメージカラーにしており、商品も女子受けしそうなカラーバリエーションのあるパッケージだ。

パッケージも女性向けに

女子のもつ好奇心がビジネスチャンスを生む

昆虫食に限らず、女性のほうが新しい食に抵抗がないと筆者は感じている。例えばパクチーブームの時も圧倒的に女性が牽引(けんいん)していた。スイーツも、男性は馴染のあるプリンやアンパン、シュークリームを好むが、女性は定番だけでは飽き足らず、常に次なる新しいデザートを探し求めている。女性は、かわいいもの、カラフルなもの、さらには、通常は男性の趣向であろう「ボリューミーなもの」まで果敢に挑戦するのだ。

無印良品「コオロギせんべい」

さらに昆虫食は、低脂質で高タンパク質、必須アミノ酸やビタミン、ミネラル、食物繊維など、栄養豊富な食品であることも女性が好む条件に合っている。加えて食べものではないが、近年、爬虫類にはまる女子も多く、それらを「かわいい」と彼女たちは表現する。そう考えるならば、昆虫食も、「かわいい路線」や、「ヘルシー路線」にシフトさせていくほうが、日本では市場が成長するかもしれない。

そこに加えて、昆虫は環境面、食品ロスなどのさまざまな課題を解決させるというバッググランドもあるのだから、ポテンシャルは高い。いわば、「罪悪感を抱かないでよい」食品としての条件が揃った食品なのである。そして、「牛も豚も鶏も希少だ。昆虫以外に選択肢がない」という食料難の世の中にしない責任が、現代の私たちにはあるのだということを、今一度考えたいと思う。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)