日本の2024年問題のような物流危機が起きないオランダ 労働者は日曜休みで週末の欠品も慣れている国民性

トラック運転手の働き方改善にともなう「物流の2024年問題」は日本の食品業界において危機感のある重要テーマの1つであるが、労働者の権利が強く守られているオランダは状況が異なる。筆者が住むオランダの食品物流事情をお伝えしたい。

「在庫切れ」の張り紙にも来店客は冷静

3月にオランダ大手スーパーチェーンJumboで、ネスレ商品の欠品が相次いだ。ネスレ社が予告なしに商品価格を変更(値上げ)しようとしたことに対して、Jumbo社が反発したことが背景にあるようだ。Jumbo以外のスーパーでは、通常通りに商品の入荷があったため、これは単にネスレ社とJumbo社の問題とみられる。

商品が欠品しているオランダのスーパーの果物売場

一時期ネスレ社の商品の入荷が停滞し、スーパーの棚には「現在在庫切れ中」との張り紙があったが、来店客の反応は「なんか、もめているみたいだよね」と、なんとも冷静極まりない。Jumboではネスレ社以外にも、Kellogg社やチョコレートのMars社、キャットフードのwhiskas社の商品で同じ理由での在庫切れがあった。

ストで欠品も当たり前?

また5月には、大手スーパーチェーンAlbert Heijn社の流通がほぼ完全に停止した。原因は、昨今の物価上昇に伴う、流通業務者側からの賃金改革要求であった。約12%増の要求に対して、企業からの回答は約10%止まりだったことに不服を申し立ててのストライキだった。これにより、入荷が止まった店舗内でまず生鮮品や乳製品などの冷蔵品が在庫切れとなり、その後は常温の野菜類を経て、なんと常温である菓子類や乾き物まで店頭から消えていったのである。

商品が欠品しているオランダのスーパーのスナック売場

2週間ほど続いたストの終盤は開店前の入荷待ちスーパーのような状況で、なんとも不思議な店内の景色であった。面白かったのは、特に若者はこの状況を楽しんでさえいたように見えたこと。若者からは「お、これまだある!」とか「おー!こんなに物がないスーパー(笑)」といった会話が聞こえた。

長距離トラック運転手には2時間ごとの休憩が義務付け

オランダでは日曜日の午前0時から午後10時までの間、高速および主要幹線道路をオランダ国籍の7トン以上のトラックを見かけることは少ない。背景にあるのは、日曜日を休息日とするキリスト教の考えと労働者の権利を守る意識の強さだ。就業契約時に、企業と雇用者との間で交わされる契約でも休息が決められている。

タクシーやトラック運転手など運転をメーンとする業種においては、ともすれば超過勤務は命の危険を伴い、他者を巻き込む恐れも十分にある。長距離トラックにはGPSが設置され、2時間ごとの休憩も義務付けられている。

日曜日の高速道サービスエリアの光景。ドイツナンバーの車が目立つ

ドイツやフランスなど、週末や祝祭日の大型トラック運行規制が法律で決められている国も多々ある。欧州圏の国の間を行き来する大型トラックは、自国の規制はなくとも対応する義務があることも流通に影響する。

これらの背景により、スーパーをはじめとする店舗への納品や宅配は日曜日には行われず、消費者は週末の欠品にも慣れている。加えて、宅配も日曜日は一律ない。

商品が欠品しているオランダのスーパーの乳製品売場

オランダでは医者も教職員も公務員もデモなどの権利が認められている。どの業種でも「休息ありきの労働」と考えているオランダ人にとっては、賃上げのためのデモやストによる流通の停止や物流の滞りはすべて「普通のこと」であり、「そのうち何とかなる」という認識のようだ。(オランダ在住フードコンサルタント 白神三津恵)