酒類流通の未来を探る
●消費動向、不透明な一年
初夏の明るい雰囲気の中、「令和」への改元を迎えた19年。酒類業界では、日本酒を中心に改元記念商戦で予想以上のにぎわいをみせた。一方では「試練の年」とも言われる今年。市場環境を年間で考える場合、従来にも増して難しい局面を迎えている。
17年6月の改正酒税法の施行により新制度がスタート。当初は順調に見えたが長引くデフレ環境下、市場の競争原理に押される格好で早いところでは同年秋には、小売業から卸への見積もり要請が活発化。いまだにその動きは収まらず、店頭価格の軟化が今後さらに進む恐れがある。
新制度3年目の市場環境について、一部からは「施行前に戻っている」といった声も聞かれる。定着に向けて酒類市場は、まさに正念場に直面しているといえる。
日本の酒類業界で戦後最大の転換点とされる改正酒税法の施行自体は、担税物資の過度の安売りを法的に規制する、との趣旨も含めて歓迎されている。ただ、「合理的」という言葉で表現されたコストの算出基準が一律でないことで、流通層を混乱させ疑心暗鬼を生んでいることは否めない。
新制度下では、国税庁による実態調査が活発に行われているとされるほか、違反事例などの公表は従来に比べきめ細かく行われている印象を受ける。新制度の趣旨を周知させることはもちろん、一層のわかりやすい情報提供が望まれる。
国税庁は改正法による新たな取引基準について5年ごとの見直しを示唆しており、見直しは前倒しとなる可能性もある。酒類業界で緒についた「量から質」への本格転換に向け、業界各社の戸惑いを払拭する監督官庁の次なる一手に期待したいところだ。
今秋はアジア初の開催となるラグビーワールドカップが各地で始まっているほか、10月1日からは消費増税が実施される。ラグビー関連では、インバウンド需要の高まりとビールを中心とした需要拡大が予想され、来年に控える東京オリンピック・パラリンピックにもつながる好材料といえる。
消費増税はキャッシュレス決済の導入によるポイント還元も行われるため、消費動向が読みづらいという意見が多い。対応すべき事柄が多い半面、市場環境については不透明な下期となりそうだ。
そうした中でも、増加が見込まれる家飲みでの飲み方提案や、食と絡めた酒の訴求など、消費活性化に向けた取組みが増えることが予想される。
消費税アップと関連する国の施策に翻弄(ほんろう)された末に、需要が縮小することだけは避けねばならない。(丸山正和)
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◆酒類流通の未来を探る:新制度、難局面迎え正念場 次の一手に期待
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