新春特集第1部
新春特集第1部:気候変動対策=食品界 求められる情報開示
2021年は食品界の脱炭素へ向けた取組みが加速するか注目される年でもある。19年6月11日に閣議決定して国連に提出したわが国の「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」では、最終到達点としての「脱炭素社会」を掲げた。今世紀後半、可能な限り早期の実現を目指すとしたものだ。21年は同戦略がさらに具体化して行こう。その過程で食品界には気候変動対策に一層の情報開示が求められることになりそうだ。気候変動に対するサプライチェーン全体でのリスクと機会の把握、物理的リスクの評価をどう進めるかなども当面の大きな課題として浮上するとみられる。(川崎博之)
●サプライチェーンの全体把握が課題
パリ協定は、地球の気温上昇を今世紀末までに2度C以内、可能なら1.5度C以内に抑えようと国連気候変動会議(COP21)が15年12月12日に採択し、16年11月4日に発効した20年以降の温室効果ガス排出削減のための国際的な合意。
政府の統合イノベーション戦略推進会議の「革新的環境イノベーション戦略」(20年1月21日決定)では、グリーンイノベーションを金融の面で支えるグリーンファイナンスについて環境整備を進めるとして、(1)企業による気候変動対策の情報発信(2)気候変動対策への積極的な資金供給(3)産業界と金融界の対話・プラットフォーム–の三つの柱で「環境と成長の好循環」を強力に後押しすることにしている。この三つの柱の最初の「企業による気候変動対策の情報発信」が「革新的環境イノベーション戦略」から約半年さかのぼる19年5月27日の「TCFDコンソーシアム」の設立によって動き出している。
TCFDコンソーシアムは、TCFD提言へ賛同する企業や金融機関などが一体となって取組みを推進し、企業の効果的な情報開示や、開示された情報を金融機関などの適切な投資判断につなげるための取組みについて議論する場だ。
TCFD提言は、各国金融当局と中央銀行で構成する国際金融監督機関の金融安定理事会が設置した気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)で考案した気候関連財務情報についての開示方法からなる。17年6月に公表した。
TCFDコンソーシアムは20年7月、経済産業省がTCFD提言を踏まえて策定した「気候関連財務情報開示に関するガイダンス(TCFDガイダンス)」(18年12月公表)に、業種別ガイダンスなどを加え「TCFDガイダンス2.0」として改訂した。改訂には、20年6月25日にTCFDコンソーシアムに参加した食品産業センターがワーキンググループを設けて案を作成しTCFDコンソーシアムに提出した「食品に関する補助ガイダンス」も盛り込まれた。食品界では21年、この「食品に関する補助ガイダンス」の周知徹底から取組みが具体的に始まることになろう。
「食品に関する補助ガイダンス」では、食品産業固有のリスクと機会として、(1)原料農林水産物や水の供給の変化や不安定化(2)原料生産や容器・包装、輸配送、食品ロス削減・リサイクルなどサプライチェーン全体への配慮(3)猛暑や消費者意識の変化による機会–が考えられるとした。その上で(1)については、原料調達の安定化への取組みや水供給リスクの低減の取組み、(2)については、代替原料・製品の開発、容器・包装の3R(発生抑制、再使用、再資源化)、食品ロス削減・副産物・残さの再資源化など、(3)については、機会を捉えた製品の開発などを開示推奨項目に掲げた。
原料調達の安定化への取組みの開示の例としては▽調達リスク(原材料の収量・品質減、調達費増など)の事業運営への影響評価と対策の検討状況▽調達産地の分散・変更によるリスク回避の取組み▽持続可能な生産・流通における第三者(RSPO〈持続可能なパーム油のための円卓会議〉、レインフォレスト・アライアンス〈陸上の自然での気候問題の解決に取り組む農園を認証する国際的な非営利団体〉、FSC〈森林管理協議会〉など)により認証された原料ないしそれに準じる基準で自社のアセスメントを経た原料の調達▽持続可能な農畜産業のための生産者支援の取組み(持続可能な生産方式の普及、生産者の経営支援など)–を挙げている。
気候変動対策についての情報開示の動きは、パリ協定採択に先立つ15年9月のマーク・カーニーFSB議長(前英国中央銀行総裁、現国連気候アクション・ファイナンス特使)のスピーチに端を発する。同スピーチは、気候変動がもたらすさまざまなリスクによって金融システムが安定を損なう恐れがあるというものだ。そこから投資家や貸付業者、保険会社をはじめとした企業活動や事業者の活動を金融の面からの支える関係者が、それらの活動にとって重要な気候変動の影響やリスクを理解できるようにする必要性が浮上、20ヵ国の財務大臣と中央銀行総裁の意向を受けてFSBがTCFDを設置するに至った。