Hard&Soft新春特集

Hard&Soft新春特集:シニア向け食品 デザインと官能評価について

総合 2020.01.24 12001号 17面

世界で最も高齢化が進む日本市場で、シニア向け(病者用含む)の食品市場規模は伸び続けている。2018年の高齢者食品市場規模は1175億円、23年には1350億円になると予想される(シードプランニング社調べ)。機能性表示食品や特定保健用食品でも高齢者を対象にした製品が多く、その市場の半分程度はシニア市場向けとみなすと、さらに4500億円弱の市場が確立したものと思われる。

●市場をさらに広げるテクスチャー(食感)

高齢者食品市場は主に、嚥下(えんげ)障害やそしゃく機能低下で一般食品を食べられないシニアに対する病院食、嚥下補助食品などの『介護食市場』と加齢に伴う機能低下を遅延または改善する目的の『フレイル・維持改善市場』が大きく成長していると見ている。

当社の大豆タンパクであれば、『介護食市場』での経腸栄養剤から『フレイル(※1)・維持改善市場』でのプロテイン粉末飲料として、増粘多糖類のキサンタンガムは『介護食市場』でのとろみ調整剤として、プロバイオティクスや食物繊維は『フレイル・維持改善市場』での腸内環境改善をサポートする製品での引き合いが伸長している状況である。

◆開拓余地あるシニア市場

17年の人口統計を見ると、50代以上の人口が約40%を占める。これらの年代が食品を選択し購買をする。しかしながら前述のシニア市場は、一般食品・飲料市場と比べたらまだまだ市場規模は小さく、市場を開拓する余地があり、自然に一般商品に組み込まれていく必要があるのではないかと思われる。

◆新しい官能評価法研究

当社ではそのひとつの糸口として『ムード(気分)』と『コンディション』に応じた“食感”があるのではないかと仮設を立て、潜在意識的にどのように消費者は食品・飲料の好き嫌いを判断しているのかというところに着目し、新しい官能評価方法を用いてその研究を進めている。

◆ムードが食感に影響

食品・飲料の食感が好みかどうかを判断する際には、さまざまな「パラメーター」が存在している。消費者は意識的に「好き」か「嫌い」か、を判断しているが、無意識的にも脳が「好き」と判断することがあり、それは過去の食経験にも大きく影響を受け、味と食感がつながって記憶されていることもある。その食品・飲料の選択においては、その他のパラメーターとし、生活環境、年齢、性別、さらには『ムード(気分)』も大きな要素になるということが分かり始めているところである。

『ムード』で食品・飲料を選択する一方、食品・飲料は『ムード』を左右することも考えられる。

※2(Gibson, E.L., 2006, 53-61.)シニア世代が抱える『ムード』に適した、『ムード』を変える食品・飲料と適切な食感設計という視点で評価していくことができるのではないかという考えである。

◆コンディションが判断の前提条件

もう一つシニアの観点では、機能低下を考慮しなくてはならない。フレイルというのはある日突然、フレイルになるのではなく徐々に機能が衰え不都合が生じていくものである。嚥下機能に関係する筋肉は、40代から低下し始め、50代では20代のころに比べて大きく低下(※3)が見られている。ミドルからアクティブシニアであっても知らぬ間に嚥下機能が衰え、潜在意識的に不快に思う可能性があり、このような身体機能低下や体調を含めた『コンディション』は食品・飲料の好き嫌いを判断する前提条件となると考えられる。

◆新たな取組み

このような想定で、消費者の潜在的意識による嗜好(しこう)判断を正しく評価するには従来の官能評価では不十分であり、デュポンでは脳波、発汗および心拍数を併せた評価方法を取り入れることを検討している。これは「顕在的になっていない無意識的な嗜好性を評価」しようという新たな取組みである。まだ解明しきれていないところも多いが、新しい評価手法を取り入れ、高齢化が進む「日本の消費者像にマッチした製品アプリケーションの開発に寄与したい」と考えている。

(執筆=加藤和子デュポンニュートリション&バイオサイエンス事業部リージョナルプロダクトマネージャー)

※1 フレイル=加齢により心身が老い衰えた状態のこと

※2 Emotional influences on food choice:Sensory,physiological and psychological pathways.(Gibson,E.L.,Physiology&Behavior,89,(2006)53-61.)

※3 大分県立看護科学大学『加齢性の嚥下機能低下予防に関する研究~嚥下機能低下予防介入時期の検討』

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