全国小売流通特集

◆全国小売流通特集:新たな日常に挑む 課題本質変わらず

特集 小売 2020.07.30 12089号 01面
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 小売業を取り巻く環境は大きく様変わりしている。新型コロナウイルスの世界的な大流行の収束に必要となるワクチン、抗ウイルス薬の開発には時間がかかり、医療の現場で利用されるまでは、生活者は第2波、第3波の脅威と背中合わせの新たな日常を送ることになる。課題は山積しているが、少子高齢化、生産年齢人口の減少など近年クローズアップされている諸課題の本質が大きく変化しているわけではない。向き合うべきは、一変した社会・経済環境の中でも経営を持続可能にする生産性の向上と働き方改革への対応などの挑戦課題だ。(流通グループ)

 新型コロナウイルスの世界的な大流行による感染拡大を防ぐため、各国がイベントの禁止や施設、学校などの閉鎖、人の移動の制限などで国を挙げて封じ込めに力を入れる中で、日本でも全国の小中学校、高校、特別支援学校の3月2日から春休みまでの臨時休校を政府が2月27日に要請、それを皮切りに封じ込めの動きが本格化した。3月24日には東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の7月24日~8月9日、8月25日~9月6日の開催日程の1年延期が決まり、臨時休校は東京都や大阪府など感染者が急増している都市部では新学期を挟んでも継続、関東・近畿・九州圏の7都府県を対象に人の移動を制限するため4月7日にはゴールデンウイークの最終日の5月6日を期限とした緊急事態宣言を発令、10日後の4月17日にはそれを全国に広げた。

 小売業は、店舗を集団感染の発生源にさせないための感染拡大防止策として、来店客へのマスク着用、咳エチケットの徹底、レジ待ちの際の他の来店客との距離の確保などを呼び掛けた。衛生用品のほか備蓄可能な加工食品など外出自粛を迫られた生活に必要な商品の急激な需要増に対する一時的な供給の支障も頻発した。そうした状況下での販売の継続などの課題も重くのしかかった。

 全国的な感染爆発の危機の第1波は乗り切った形だが、人の移動が盛んになった大都市を中心に第2波襲来を予見させる兆候が垣間見える。今夏は厳しい暑さが予想され、感染拡大防止策に加えて従業員の熱中症対策も大きな課題として浮上してきた。感染拡大防止策を講じた店舗従業員の職務環境は例年以上に厳しい。飛沫感染防止のため大型ビニールカーテンで仕切られた有人レジのスペースには熱がこもる。足元のサーキュレーターで熱こもりの防止も努めるが、従業員はレジから離れられないケースも多々あり、バックヤードでの体調管理のための水分補給もままならない。このため、売場内での水分補給の顧客への理解を求める動きも浮上した。

 感染防止のため現金に触れたがらない生活者も増加の傾向だ。それがキャッシュレス決済の定着をもたらしつつもある。さらに店内の来店客の過密を恐れる生活者の存在がキャッシュレス決済に加えてネットスーパーの利用の促進につながっている。レジ精算業務での現金の取り扱いを減らすことによるコスト削減は、セルフレジの活用、さらには小型端末ないし顧客のスマートフォンを使ったセルフスキャンなど、精算のセルフサービス化に及んでいる。

 イオングループの総合スーパー会社イオンリテールは、セルフサービスによる新たな買い物体験の仕組み「どこでもレジ レジゴー」の本格展開を始めた。顧客が店頭で貸し出された専用スマートフォンと買い物かごをあらかじめカートにセット、購入したい商品を買い物かごに入れる買い回りの際にカートのホルダーにセットした専用スマートフォンのカメラでバーコードを読み込み、買い物を終えたら専用レジで精算するもの。20年度中に東京、千葉、神奈川のイオン、イオンスタイルを中心に約20店への導入を計画している。

 ディスカウントストアのトライアルカンパニーを擁するトライアルホールディングスの子会社リテールAIは、情報技術によるリアル店舗の革新を目指し、リアイルの名称でメーカーや卸を巻き込んだプロジェクトを推進している。4月24日にトライアルカンパニーが改装オープンしたトライアル長沼店(千葉市稲毛区)にその成果を導入、これまでの取組みに同店の検証を加える。製配販にも幅広くプロジェクトへの参加を呼び掛けた。リアイルは、店内やショーケースに設置したカメラによって蓄積した顧客行動や商品の動きのデータや、モニターや商品スキャン機能を搭載したスマートレジカートで蓄積した購買履歴データを活用する仕組みを人工知能(AI)で制御する。それにより店舗オペレーションの効率化や顧客の買い物体験の向上、メーカーのマーケティング活動の改善を図るものだ。

 【写真説明】

 写真1:飛沫感染防止の大型ビニールカーテンで仕切られたレジ。レジ待ちで並ぶ際は間隔を空けるよう呼び掛けている(写真は5月14日に開店したウオロク関屋店〈新潟市〉)

 写真2:急激に需要が増えた商品の一時的な供給不足に対応するため、顧客には購入時の数量制限に理解を求めた(写真は3月13日に開店したイオンスタイル戸塚〈横浜市〉)

 写真3:精算のセルフサービス化などレジ精算業務での現金の取り扱いを減らすことによるコスト削減の取組みは広がっている(写真は6月5日に開店したMEGAドン・キホーテUNY本庄店〈埼玉県本庄市〉)

 写真4:イオンリテールは、店舗で顧客に貸し出す専用スマートフォンを活用したセルフサービスによる新たな買い物体験の仕組み「どこでもレジ レジゴー」の本格展開を始めた(写真は2月26日のイオンスタイル幕張ベイパークでの「レジゴー」概要説明・体験会で撮影)

 写真5:2月25日に東京都内で開催されたリアイルの戦略発表会では、プロジェクトに参加するサントリー酒類、日本アクセス、日本ハム、フクシマガリレイ、ムロオの5社が登壇し、これまでの成果や今後の方向性について説明した(写真はリテールAIの永田洋幸社長(左)とサントリー酒類、日本アクセス、日本ハム、フクシマガリレイ、ムロオの登壇者)

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