全国小売流通特集

全国小売流通特集:潮流分析=変わるレジの役割 商品スキャン・決済・袋詰めに鍵

小売 2020.07.30 12089号 03面

カスミは無人店舗でレジレス化を実験(オフィスマ茨城県庁店)

カスミは無人店舗でレジレス化を実験(オフィスマ茨城県庁店)

レジ袋の有料化は顧客の行動変容につながる(ヤオコー所沢有楽町店)

レジ袋の有料化は顧客の行動変容につながる(ヤオコー所沢有楽町店)

 ◆キャッシュレス決済が進展

 コロナ禍で需要が急増したスーパーなどの店頭では、レジ前に生じる密集が問題視された。しかし商品スキャン・決済・袋詰めといった購入に欠かせない一連の作業はレジを経由するので集中は避けられなかった。ただ、レジの役割は変わろうとしている。キャッシュレス・ポイント還元事業でキャッシュレス決済が注目され、一部チェーンではセルフスキャンの実験もスタートしている。7月からレジ袋は有料化され、マイバッグの持参率は確実に上がる。買い物に必要な手続きは、必ずしもレジを経由しなくても済む環境が整いつつある。(宮川耕平)

 ●コロナ禍で還元成果不明

 19年10月に消費税率が引き上げられた際、消費刺激策として導入されたのが経済産業省のキャッシュレス・ポイント還元事業だった。20年6月までの9ヵ月にわたり、中小・小規模事業者が運営する店でのキャッシュレス決済には5%のポイント還元、コンビニエンスストア(CVS)などフランチャイズチェーン(FC)店での購入には2%を還元するというもので、対象から除外された大手スーパーからは制度への批判が噴出した。

 この還元事業がどういった成果を上げたか、記事を執筆している6月末時点では統計的に確認はできない。ただ、実施期間の後半は新型コロナの感染拡大により、予期していた成果を得られなかったことは確実だ。

 売上げが急伸した食品スーパー(SM)はまだしも、飲食店をはじめ営業を制限せざるを得なかった還元事業の参加店舗は多数にのぼる。

 6月時点の登録店舗数は約115万店、内訳はCVSを含むFC店が10万店強、中小・小規模事業者が105万店となっている。決済総額は3月9日までの累計で6兆9000億円、還元総額は2830億円と、この時点で当初予算を超えた。想定を超える利用はスタートしてすぐに明らかだったため、事業の予算額は当初計画の2798億円から4300億円に引き上げられていた。

 昨年10月時点の登録店舗数は、CVSが最初から5万店と十全なスタートを切ったのに対し、中小店は41万店にとどまっていた。その後は月を追って中小店が増加、5月1日時点で100万店を超えるようになった。還元総額のうち86%は中小、FCは14%(CVSは11%)となっており、最終的には中小店に多くの恩恵がもたらされた。

 ただ、それでも中小支援策としてキャッシュレス・ポイント還元が効果を発揮したといえるわけではない。

 日本スーパーマーケット協会、全国スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会の3団体の統計によると、新型コロナの影響でSMの売上げが急増した3~4月、店舗数10店までの中小チェーンは、それ以上の規模のチェーンに比べ伸長率は低かった。両月とも、伸長率が最も高かったのは51店以上の大手であり、SMの需要が急伸した特殊な状況下で、還元事業の効果は不明確なものになった。

 CVSに限れば、コロナ拡大によって還元事業の効果は吹き飛んでしまった。CVSでのキャッシュレス決済は、ポイント還元ではなく2%即引きで処理された。19年10月以降、明らかにその効果でCVSの日販は上昇が続いたが、コロナ禍で外出自粛やテレワークにより都心部の客数が10~20%も減少、日本フランチャイズチェーン協会の統計では4月の既存店売上げは10.6%減となった。

 消費刺激策としての還元事業は、想定外のコロナ禍で当初の目論見通りにはならなかった。

 一方、同事業のもう一つの狙いであったキャッシュレス決済比率の上昇にどれだけの貢献をしたかについては、今後の発表を見ないと分からない。現金のやり取りを忌避する傾向もあり、SMやドラッグストア(DgS)などではキャッシュレス比率は一段と上昇したとみられている。

 ●決済サービスの選別進む

 経産省の発表資料で確認できることは、3月9日時点でのキャッシュレス決済手段の内訳だ。

 クレジットカードが64%、QRコード(2次元コード)が7%、その他が29%となっている。その他には交通系や流通系で浸透している電子マネーのほか、非接触式のスマートフォン決済も含まれる。

 この数字から分かるのは、キャッシュレス化はカード決済への切り換えが中心で、スマホ決済はまだ一部にとどまるという実態だ。このことは政府によるキャッシュレス還元の第2弾である「マイナポイント事業」に重要な意味を持つ。

 総務省が管轄するマイナポイント事業は、9月から21年3月末までの期間、マイナンバーカードを使った手続きで登録すると、キャッシュレス決済の25%、最大5000円分の還元を受けられるというものだ。

 この還元で申請できるのは、一つのIDにつきキャッシュレス決済一つに限られる。そのため同事業をきっかけに、決済サービスの選別が進むと予想される。

 登録サービスはクレジット事業会社、スマホ決済サービス、銀行、交通系電子マネー、SMやDgSのハウス電子マネーなど多岐にわたる。キャッシュレス・ポイント還元事業の実績を見る限り、スマホ利用型よりはカード利用型サービスの方が優位であることは間違いない。

 ただ、還元率25%・総額5000円分だと決済総額は1人当たり2万5000円にとどまる。 大きな買い物よりは日常の消費向きのため、SMなどのハウス型サービスを選ぶメリットも大きいかもしれない。

 決済サービスが選別される過程で、大きな影響を受けそうなのはスマホ決済だ。これまでも大規模なポイント還元競争が繰り広げられた結果、2次元コード決済の国内における先駆者であったオリガミペイは、メルペイに統合された。ラインペイとペイペイも、グループの経営統合によりサービスの集約に向かう可能性がある。

 現状は明らかにカード決済が大勢ではあるものの、キャッシュレス化の次のステップではカードレス化も予想されている。より強力なスマホ決済へと発展していくのはどのサービスか、マイナポイント事業が一つの契機になりそうだ。

 ●セルフ化し現金業務削減

 キャッシュレス化の進展は、チェーンストアの経営課題であるレジ業務の在り方を変える。コロナ禍では、レジ前に行列ができることも、従業員と顧客が直に接触することも問題視された。感染リスクを軽減するという観点からも、キャッシュレス決済を推奨する店内アナウンスが聞かれるようになった。

 現金をやり取りすることに潜む感染リスクへの懸念も聞かれた。現金に触れなければ、それを媒介とした感染はもちろん防げるが、現金業務の削減は本来働き方を改善する意味で重要だ。自動釣り銭機はSMでは一般化しており、CVSでも急速に普及した。効率的で間違いのないレジ業務には寄与するが、現金の管理業務がなくなるわけではない。

 キャッシュレス化は、現金業務の手間とコストを削減する具体的なアプローチになる。手数料負担は懸念されるものの、キャッシュレス比率が4割、5割と高まった店では、現金業務を削減できるメリットも見逃せない効果になっている。それでもレジ業務そのものがなくなるわけではない。キャッシュレス化の先にレジレス化の未来を描き、商品スキャンもセルフ化する実験がスタートしている。

 トライアルホールディングス(HD)は、カートに備え付けの端末で商品をスキャンし、事前登録したカード情報によってレジに並ぶことなく決済が完了する「レジカート」を一部店舗に導入している。イオンリテールは、今年から貸出用のスマホ端末でスキャンする「レジゴー」の導入を開始、秋にはスマホアプリのリリースも予定する。ただ、イオンリテールの場合、決済は専用レジで行う必要があるのでレジレスではない。それでも最後にまとめてスキャンするセルフレジに比べ、決済に要する時間は大幅に短縮できる。また、利用客にとっては、クレジットや電子マネーだけでなく現金決済も選べるメリットがある。

 ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)は、独自のスマホアプリ「スキャン&ゴー」を開発、カスミの無人店舗「オフィスマ」や、大学キャンパス内の特殊店舗などに導入している。決済は事前にひも付けしたクレジットカードで行うレジレス型の仕組みだ。まだ特殊な店舗での実験段階だが、USMHでは新3ヵ年計画のテーマの一つに「チェックアウトシステムの改革」を挙げている。

 ●行動変容は在り方変える

 キャッシュレス化と商品スキャンのセルフ化が進めば、やがて店舗レイアウトも変わるかもしれない。売場の中央前面にレジが並ぶ必要はなくなる。そのような劇的な変化がいつ起きるかは、キャッシュレス化やセルフスキャンの浸透スピードによるが、すでに技術的にはレジの役割は変わっており、あとは顧客の行動変容にかかっている。

 行動変容によるレジの役割の変化は、レジ袋の有料化によっても生じる。

 スーパーでは7月からの義務化を前に、何年も前から有料化に切り替えているチェーンが珍しくない。有料化した場合、レジ袋の辞退率は7~8割台になるのが一般的だ。レジ袋を劇的に削減することが環境保全にどれほど役立つかは不明だが、消費者の意識は有料化によって間違いなく変わる。

 今後、業態を問わずレジで買い物袋を受け取る必要は失われていく。商品スキャン・決済・袋詰めという購入に欠かせない作業はレジを経由して行われていたが、その必然性はどんどん薄れている。見方を変えれば、購入に欠かせない作業のすべてをレジで行うから、コロナ禍で避けねばならない密集がレジ前で発生していた。

 多大な人時を投入して運営するレジ業務は、顧客が店に対して最も不満を抱くところでもある。チェーンストアのほとんどがセルフサービスの業態だが、レジだけはセルフ化されていない。セルフサービス業態の矛盾ともいえるレジ業務のひずみが、コロナ禍で一層明確になった。

 レジの役割は技術面ではすでに変わりつつあり、店も顧客も、それぞれ理由は異なるとしても、レジの在り方が変わる必要を感じている。その変化は商品スキャン・決済・袋詰めを分散させることでもたらされるはずだ。

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